第158話:開放の相談

 階層の開放はとても慎重に選択しなければならない作業の一つでもある。それをアルバスが口にするということは、今のガチャの結果から準備が整ったと判断したということだ。


「ランドンを最下層に配置することは変わらないが、一つ前にアークル、そしてライとストナを合間合間に配置しておけば二〇階層のままでも問題はないだろう。だが、他のレア度3モンスターのレベルも上げることができるなら、二五階層まで開放するのもありだと思うがどうだ?」

「それはレベルを上げてからの判断になるとは思いますが、私もありだとは思います。そのままでいくなら五、一〇、一五、二〇階層にレア度4を配置するのもありじゃないですか?」

「いや、難易度を優先させるなら下の階層に強いモンスターを配置するべきだ。ライとストナで中間階層でもレアアイテムがドロップする確率は上がっているからな」


 急に真面目な話を始めた二人を見て、ニャルバンは嘆息を漏らした。


「先にレベルを上げた方がいいと思うにゃー」

「「……確かに!」」


 全てはレベル上げを終わらせてからである。ニャルバンの助言に二人はまじめな顔で同意を示すとポチポチとレベル上げの操作を始めた。

 アークスは経験値の実の効果もあって昇華なしで最大の40まで上がり、ライとストナも同様にレベル40。アウリーとピクシーは昇華を二回行いそれぞれレベル45にまで上がった。

 昇華と進化を繰り返してきたスラッチやゴブゴブなど元レア度1のモンスターも今ではレア度3まで進化している。

 アークスライムやゴブリンナイト、クイーンビーや男爵マジシャンなど主力は揃っているのだ。

 特にレア度3は進化のために同じレベルのモンスターがもう一匹ずついるので充実していた。


「……さて、それじゃあ階層についてだが、どうするつもりだ?」


 アルバスの言葉に対してしばらく思案していた廻は意外な答えを口にした。


「……確かに階層を開放した方がいいのかもしれないんですが、よくよく考えるとそのままの方がいい気がしてきました」

「それはどうしてだ?」

「縦に伸ばして強いモンスターとの間隔を空けるよりも、連続してぶつけた方が難易度としては高くなるんじゃないかって思ったんです」

「確かに一理あるな」

「それに、今回の目的はゼウスブレイドを退けることです。それなら、やっぱり強いモンスターを連続してぶつけた方がいいと考えました」

「しかし、先を見据えてっていう小娘の考えとは異なるがいいのか?」


 ジーエフのダンジョンはまだまだ発展途上である。ここが終着点でないのならアルバスが言う通り階層を深くした方がいいはずなのだ。


「時と場合によるってことですよ。今回はゼウスブレイドにぎゃふんと言わせるのが目的なんですから、そこに照準を合わせるべきなんです!」

「階層を深くしてもぎゃふんと言わせられると思うぞ?」

「密度の問題です! よりぎゃふんと言わせることが大事なんですよ!」

「そんなもんか?」

「そんなもんです! というかそこが大事なんですってば!」

「はいはい、分かったよ。それなら、俺が最初に言った並びでいいのか?」


 密度という点で言えばアークスとランドンを並べるのは確かに魅力的だ。弱ったところに最難関が現れるのだから当然と言えば当然なのだが、廻の答えはどうなるのか。


「……そうしましょう。でも、その前にはライとストナを並べて一七、一八、一九、二〇階層と難易度がどんどん上がるでしょう?」

「しかし、そうなると下層までの道のりが楽になっちまうんじゃねえか?」

「ふふふ、そう思いますか? でもアウリーやピクシーだっていますし、スラッチやゴブゴブも強くなっているんですよ?」

「最初の二匹はいいとしても、スラッチとゴブゴブはそもそもが最弱のモンスターだからな。レア度が上がったとしてもそこまで強くはなってないぞ?」


 アルバスの言葉通り、スライムとゴブリンはモンスターの中でも最弱を争っている二匹である。進化することで強くはなってもレア度2でも、レア度3でもそれぞれのレアリティで最弱を争っていることに変わりはない。


「それでもです。私は二匹のことを信じてますし、これこそ先を見据えた配置なんですよ?」

「……どういうことだ?」


 思案顔を浮かべたアルバスだったが理解することができずに聞き返した。

 すると、廻は特に根拠のない理由を口にする。


「最弱のモンスターが進化を重ねると実は最強のモンスターだった、なんてことがあるそうですよ?」

「……そんな話は聞いたことがねえぞ?」

「そうですか? 私がいた世界ではよくあったみたいですよ? 私は分かりませんけど」

「お前、自分が分からないことを言ってドヤ顔をしてたのかよ」


 顔を右手で覆い嘆息するアルバス。それでも廻は笑顔を崩しはしない。

 こうなった廻が引かないことをアルバスは理解しているので、これ以上は何も言わなかった。


「それじゃあ、階層はそのままで下層で一気に畳みかける、それでいいんだな?」

「はい!」

「それじゃあ配置を決めていくのにゃー!」


 そこからは三人でメニュー画面を見ながら各階層のモンスター配置を見直し、時折意見交換を挟みながら時間は過ぎていく。そして――


「できたー!」

「間違いなく、今のジーエフ最強の布陣なのにゃ!」

「こいつは、マジでランドンまで辿り着けないんじゃないか?」


 お互いに顔を見合わせて笑みを浮かべるとアルバスは経営者の部屋を後にし、廻は明日に備えてそのまま就寝したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る