第153話:ランドン討伐のお祝い③

 ジギルが座るテーブルにはアルバスはもちろんだが、ロンドとヤダン、それにロンドと共に以前パーティ戦闘をした三人も座っていた。

 三人はロンドとはとても仲良くなったようで、ジーエフに訪れてはよく話をしている。

 今日は冒険者ランキング1位が新旧揃い踏みと聞いてダンジョン探索を切り上げてきたようだ。


「ったく、こんな飲み会に参加するよりもダンジョンでモンスターを倒していた方が為になるんだがなぁ」

「先輩冒険者の話を聞くのも大事ですよ、アルバス様。それもジギル様と話ができる機会なんてそうそうありませんからね」

「なんだ小僧、俺ならいつでも話ができるってのか?」

「今となってはですけどね」


 アルバスとロンドの関係性も最初の頃からするとだいぶ変わってきている。

 最初は緊張してばかりだったロンドだが、今ではこうして気兼ねなく話をすることができるようになっている。

 これが廻以外の経営者では同じようにはいかなかっただろう。そもそもアルバスが契約をしたかどうかすらも危うい。


「お待たせしましたー!」

「もー、メグルちゃん遅いよー!」

「ポチェッティノさんは大丈夫なのか?」

「はい。バイキング形式にしたので厨房もそこまで忙しくないんです」

「僕までこっちに来ていたので心配だったんですが、それならよかったです」


 廻の言葉にロンドはホッとしていた。

 食べ物だけではなく飲み物をセルフにしている。お酒までセルフにしてもいいのかとニーナは心配していたのだが、ジーエフを訪れる冒険者は意外と礼儀正しい人が多いことを知っていた廻は問題ないと判断していたのだが、こちらも大正解だった。


「これもアルバスさんとジギルさんがいてくれるからなんですけどね」

「そりゃそうだろう! 普段の俺様なら、酒があればたらふく飲んでいるところだぜ!」


 ヤダンが顔を真っ赤にしながらお酒を煽っている姿を見て、周囲からは冷ややかな視線が注がれている。

 この場にいる多くはロンドと同年代であり、お酒は飲めるが飲まれたくないと思っている面々なのだ。


「……なあ、ああはならないように気をつけような」

「……そ、そうね」

「……同感」

「……おいおい、おめえら。よくもそんな口が聞けたもんだなぁ。先輩冒険者がしつけってものを教えてやろうか?」


 三人の若手冒険者の意見を聞いたヤダンがジョッキを力強くテーブルに叩きつけて睨みを利かせるが――


「正しいからあんな奴のことを気にしちゃダメよー?」

「こいつは冒険者の中でもクズだからな。悪い見本にするにはちょうどいいが」

「ジ、ジギルさんにアルバスさんまで!」


 ヤダンの意見をジギルとアルバスが一刀両断してしまい先輩の面目が全く立たなかった。


「それにしても、たった二人でよくランドンを討伐できましたね。モニターで見ていて冷や冷やしましたよ」

「いやん、メグルちゃん、心配してくれたのねー。でも安心して、アルバスと私が組めば最強なんだから!」

「最強かどうかは知らんが、勝ちを拾えたのはギリギリだけどな」

「そうなんですか?」


 アルバスの謙虚な意見に廻は驚きの声をあげる。

 そして、驚いていたのは廻だけではなくテーブルにいた他の面々も同じ意見だった。


「本当なら俺もスキルを使わずに倒したかったが使わされた感が強かったからな。ジギルがスキルを使えばもっと楽だったんだろうが……こいつが好き好んで使うとも思えないしな」

「そこはほれ、ダンジョンの中でも言ったじゃないのよ」

「まあ、それはそうだが自分が死んだら元も子もないだろうに」

「アルバスと一緒に戦えるなら本望なのよ!」

「アホか」


 嘆息しながらもお酒を一気に飲み干したアルバスは一度テーブルを離れて空になったジョッキにお酒を足しに行く。

 その間に廻はジギルへと話し掛けた。


「ジギルさんのスキルってどんなものなんですか? 私、ロンド君のスキルしか見たことがなくて、アルバスさんがスキルを使ったのも今回初めて見たんです」

「アルバスのスキルは使用回数に制限があるからね。かと言う私のスキルもそう。だからおいそれと使えないし、私の場合は使った時の記憶が飛ぶから達成感が皆無なのよ」

「き、記憶が飛ぶって、そのスキル本当に大丈夫なんですか?」

「大丈夫だからここにいるのよ」


 ニコニコと笑いながらそう口にしてはいるが、そうなるとさらにジギルのスキルがどういったものなのか気になってしまう。


「――むやみやたらにスキルを聞いて回るのは礼儀に反するぞ」

「うわあっ! ア、アルバスさん、驚かさないでくださいよ!」

「驚かすも何も、普通に声を掛けただけだろうが」

「それはそうですけど……って、そうなんですか? ジギルさん、すみませんでした」

「いいのよ。メグルちゃんが冒険者の礼儀に疎いのは知っているからね。特にあの看板、あれはさすがに驚いちゃったわよ」


 廻が一五階層の安全地帯に設置した看板のことを聞いて、廻は下を向いてしまう。

 だが、そんな廻の頭をジギルは優しく撫でてくれた。


「でも、メグルちゃんの優しさがこもっているからかな、不思議と嫌な気持ちにはならなかった」

「……ジギルさん」

「まあ、他の冒険者が見たらどう思うか。特にゼウスブレイドが来てあれを見たら破壊しようとするだろうな」

「な、なんですと! それはダメですよ! アークスさんがせっかく作ってくれた看板で、リリーナさんがわざわざ足を運んでまで固定してくれたんですから!」


 頬を膨らませながら顔を上げた廻だったが、そこに意外な人物から声が掛けられた。

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