第152話:ランドン討伐のお祝い②

 ──そして翌日の昼時。


「「「「かんぱーい!」」」」


 アルバスやジギルは当然ながら、ジーエフを気に入ってくれている多くの冒険者が参加してのランドン討伐祝いとなった。

 イベントとしてアルバスと討伐に参加していた冒険者たち、この中にはロンドと共に新人冒険者として参加した面々も顔を揃えている。

 カナタ達がジーエフを離れていることには寂しそうな顔をしていたものの、今日はこの場を楽しむのだと言ってはしゃいでいた。


「お祝い事はやっぱり楽しいですね!」

「うふふ、本当にそうですね」


 廻は台所から食堂を眺めてニーナと笑みを交わしている。

 食事はバイキング方式にしており壁際には大量の料理がこれでもかと並べられていた。


「でもニーナさん。これだけの量の料理が本当に全部なくなるんですか?」

「なくなると思いますよ。冒険者の皆さんはとても食べますからね」


 半信半疑の廻は料理よりもお酒の心配をしていた。


「……お酒、足りますかね」

「そこは大丈夫ですよ。足りなくなれば明日の分から出せばいいですし、元から余裕のある分の仕入れをしていますからね……そうそう、メグルさんに伝えておくことがあったんでした」

「なんですか?」


 わいわい騒いでいる冒険者から視線を外してニーナを見ると、その表情は僅かばかり困ったようなものになっている。


「こちらに行商をしに来る人なのですが、あまりよろしくない人がいたものですから」

「……そうなんですか?」


 行商と聞いて、廻はロンドのことを思い出していた。


「はい。通常はしっかりと交渉させていただき、お互いが納得できる形で仕入れをさせてもらうのですが、その人だけは自分優位で事を運ぼうと躍起になっていたんですよ」

「交渉の余地なしって感じですか?」

「はい。こっちの言い値で買わなければ売らないだの、こんな辺境まで来たんだからだの、言いたい放題でしたね」

「ぐぬぬ! こっちだって別に辺境に造りたかったわけじゃないのに!」


 唸り声をあげながら文句を口にする廻だったのだが、ロンドのこともあり質問をしていく。


「行商人って頻繁に変わるものなんですか?」

「いえ、ほとんどは変わりません。羽振りの良い都市等は自分で抱え込みたいものですから、同業者に教えることもほぼないでしょうしね」

「それじゃあ、その人は一見さんだったのかな?」

「ここ最近は顔を見るようになっています。正直、次回の行商人の時に買おうかとも思うのですが、次回も同じ人が来ることもあります。そうすると、その時により高値を言われる可能性もあるのでそうもいかないのよ」


 なるほど、と廻は顎に手を当てて考え始めた。

 商品の購入はもちろんだが、他の都市とのやり取りにも使われる行商人。

 自給自足もしたいし、定住してお店を出してくれる人も欲しいのだが、それでも行商人とは切っても切れないものなのだ。


「はぁ。お店もそうだけど、郵便屋さんや宅配屋さんとかいてくれたらいいのになー」

「……ユウビンヤサンに、タクハイヤサン、ですか?」


 首を傾げているニーナに廻は簡単な説明をすると、今度はニーナが真剣な表情で考え始めてしまった。


「……それは、新たな事業をジーエフで興すと言うことですか?」

「まさか! そういう職種があったらいいなって思っただけですよ!」

「でしたら、ここジーエフだけでもやってみたらいいと思いますよ」

「……ここだけで、ですか?」


 ニーナはジーエフの住民のためにも荷運びを本業とする職種を作ってみても良いのではと説明してくれた。


「何もこの世界にあるだけの職業が全てではありません。メグルさんがいた世界のものを取り入れてもいいではないですか」

「……そっか、それもそうですね」


 荷運び専門の人がいれば行商人に頼りきることもないし、来てくれた相手を見極めて商品を購入することもできる。

 もちろん自給自足ができていることが大前提としてあるのだが、そこまでできれば立派な都市になれるのではないかとも考えていた。


「よし! 頑張ってみようかな!」

「うふふ、期待していますよ」

「……ニーナさん、一つだけ聞いてもいいですか?」

「なんでしょうか?」

「その、ロンド君の話なんですが──」


 ここで気になっていたロンドの親へ宛てた手紙と仕送りの話をして見ると、ニーナもおかしいと言ってくれた。


「ご両親のことを一番知っているロンド君がおかしいと思っているなら、一度直接話を聞くべきでしょうね。あまり考えたくはありませんが、懸念している行商人にも頼んでいたとなれば、盗まれている可能性もゼロではないですからね」

「そう、ですよね。カナタ君達、上手くやってくれるかな」

「彼らならきっと大丈夫ですよ」

「……そうですよね。私が信じなきゃ、誰が信じるんだーって話ですよね!」


 最後は笑顔を取り戻し、廻は再び視線を食堂へと向けた。


「──メグルちゃーん! こっちに来て一緒に飲みましょうよー!」

「私はこの後も仕事があるんですよー!」

「だったら食べよう! はーやーくー!」


 ジギルがベロンベロンになりながら手招きしている。

 その様子に苦笑しているとニーナから行ってきなさいと声を掛けられた。


「でも、いいんですか?」

「食事くらいなら問題ないですよ。それに、バイキングでしたか? この食べ方なら私の負担もほとんどありませんから」

「……分かりました。ありがとうございます、ニーナさん!」


 お礼を口にした廻はエプロンを取るとジギルのテーブルへと向かった。

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