第151話:ランドン討伐のお祝い

 廻は二人がランドンを討伐する姿をその目に焼き付けていた。

 そして、初めての討伐を記念して二人を労うにはどうしたらいいかと考えた結果――


「お祝いしましょう! ニーナさんにお願いしなきゃ!」

「にゃにゃー。ダンジョン攻略がなんで嬉しいのか分からないのにゃー」

「二人が無事に戻ってくるんだよ? それもランドンを倒して! 悔しい気持ちもあるけど、やっぱり無事に戻ってきてくれることをお祝いしなきゃね!」

「にゃー。まあ、それがメグルだから仕方ないのかにゃー」

「私だから仕方ないのよ! それじゃあ行ってくるわね!」


 そう言って経営者の部屋を飛び出していった廻を見て、ニャルバンは笑みを浮かべていたのだった。


 ※※※※


 ダンジョンの入り口に到着したアルバスとジギルは、そこで何故か申し訳なさそうにしている廻と遭遇してしまい怪訝な表情を浮かべる。

 廻の性格上、おめでとうなりありがとうなり言葉が出てきてもおかしくないと思いアルバスが声を掛けると、その返答は意外なものだった。


「……い、今が夜中だっていうことを忘れてました」

「「……はい?」」


 経営者の部屋を飛び出した廻は周囲が真っ暗であることに気づき、お祝いをしようと思っていたのだが出鼻を挫かれたと落ち込んでいたのだ。


「アホだな」

「ア、アホとは何ですか! 二人がランドンを討伐して無事に帰ってきたんですから当然じゃないですか!」

「時間くらい把握してろってことだよ!」

「ぐぬっ! ……それは、仰る通りですけど」

「……あはは! メグルちゃんって、本当に面白いのね!」

「ジ、ジギルさんまで!」


 二人のやりとりを見て突然笑い出したジギルに口を尖らせている廻だったが、ジギルは悪気はないのだと釈明する。


「ううん、こんな経営者はやっぱり珍しいなって。それに、アルバスと対等にやり合ってるのも面白いのよ!」

「対等だぁ? どう見ても小娘の方がアホ丸出しだろうが」

「だからアホとは何ですか! アホとは!」

「言葉のまんまだろうが!」

「だから、そのやりとりが面白いんだって! お祝いをしてくれるんだったら、明日のお昼でもいいんじゃないの? ニーナだって寝てるんでしょう?」


 ジギルの言葉を受けて、廻はそれもそうかと両手をポンと叩いている。

 その様子を見て思いつかなかったのかとアルバスは口に出さずともやはりアホだと思っていた。


「それじゃあ、明日のお昼は食堂で豪華なお食事会ですよ! 換金所は臨時休業、その代わりに冒険者の皆さんにもタダで食べてもらいましょう!」

「まあ、それならあいつらも文句は言わないだろうな」

「むしろ、タダ飯が食べられるって喜びそうね」

「よーし、それじゃあ明日は早起きしてニーナさんに声を掛けなきゃ!」

「あまりポチェッティノさんに迷惑を掛けるなよ」


 アルバスが苦言を呈すと、廻は笑顔を浮かべて何度も頷きその場を去っていった。

 廻が見えなくなるのを見届けると、アルバスは頭を掻きながら嘆息していた。


「全く、面倒臭い小娘だな」

「そうかしら。みんなのことを考えている良い経営者だと思うわよ?」

「……まあ、そこは否定しないけどな」

「……ねえ、アルバス。私がここに移住するとしたら、やっぱりゼウスブレイドが盛大に負けてくれるのを願うばかりってことよね?」

「現状だと、それ以外に良い手は思いつかないな。あいつらが良い宣伝になってくれるのを願うばかりだ」


 返答を聞いたジギルは少しだけ表情を曇らせる。その姿をアルバスは横目で眺めていた。


「……まあ、あいつらがランドンを討伐できるとは思わんけどな」

「どうしてそう断言できるの? 私もそう思ってはいるけど、もしかしたらと思うこともあるわ」


 どの世界においても絶対ということは存在しない。

 今回は二人でランドンを討伐することができたが、ジギルは危うくやられてしまうところでもあったのだ。


「あいつらが他のパーティと合同で挑んだり、俺達の知らない実力者をパーティに加入させているとなれば話は変わってくるが、そうでなければ無理だ。それはお前と一緒に戦ったことで確信を得た」

「……そうなの?」

「あぁ。ランドンを倒すには絶対に優秀な盾役が必要になる。俺がやったみたいにな。ゼウスブレイドの盾役が俺と同じことができるとは正直思えない」


 その言葉にジギルも頷いている。


「そして、攻撃に関しても全員が一等級の武器が必要であり、それを扱う実力が必要でもある。リーダーの方はまあ、やり合えるかもしれないが他はギリギリ及第点って感じだからな」

「……ねえ、アルバス」

「なんだ?」

「あなたから見たゼウスブレイドの評価って、相当低いんじゃないの?」


 納得できる部分があっても、ここまで低評価を前パーティに下せるのかと驚きもしていたジギルはあえて尋ねてみた。


「あん? そんなもん、当然だろう。盾役も攻撃も雑用も、ほとんど俺がこなしてたんだぞ? 俺の代わりができる奴なんてまずいなかったし、加入したとしても面倒過ぎてやりたがらんだろう」

「……なんであなたがそれをやらされてパーティを抜けなかったのかが疑問だわ」

「まあ、一からメンバーを探すのも面倒だったし、あれくらいなら簡単にできるからな」


 やるとなればとことんやる男、アルバス。

 ジギルは改めて、ゼウスブレイドが本当にバカなことをしたのだと嘆息するのだった。

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