第150話:アルバスとジギル⑥
今度の戦いは二人で連携を取ることにした。
ジギルは攻撃に専念し、防御をアルバスが担う。
ただしアルバスは隙を見て攻撃にも転じることができる。
ランドンは竜尾とブレスだけではなく、巨体を利用した体当たりに加えて手足の鋭い爪が降り注がせた。
「オラオラオラオラアッ! そんな柔な攻撃じゃあ、俺の守りは抜けないぞおっ!」
全ての攻撃が必殺の一撃である。アルバスが言うように柔な攻撃であるはずがない。
だが、アルバスは隻腕でありながら全ての攻撃を受け止め、受け流し、弾き返している。
アルバスと初めて共闘したジギルの表情は、自然と笑みの形を刻んでいた。
「やっぱり、アルバスとの戦いは楽しいわ!」
「あん? 何を言ってるんだ?」
「なんでもないわよ! それよりも、あんたも攻撃しなさいよね!」
「ったく、人使いが荒いんだよ、てめえは!」
吐き出されたブレスをアルバスが斬り裂き、そのまま前進する二人。
ランドンは迎え撃つべく両腕を振り下ろす。
両腕の力が込められた振り下ろしは受けること不可能、受け流すにも地面を砕くほどの一撃である、結果として破片が体を傷つけることとなり選択肢からは外れてしまう。
ならばとアルバスが選択した対処方法はというと──
「受けられないと思ったのかよおおおおっ!」
「ガ、ガルアッ!?」
本日何度目になるか分からないランドンの驚きの声は、さらなる驚愕となり声すら絞り出せなくなってしまう。
「ぐおっ! ……こ、こなくそがああああっ! 吹っ飛びやがれええええっ!」
「グルオアッ!」
受け止めるだけではなく、全身に力を込めて大剣を振り抜くとランドンの両腕が打ち上がりバランスを崩してしまう。
その隙を見逃すことなくジギルが飛び出して直剣を閃かせた。
足元だけではない。その体に飛び乗り縦横無尽に駆け回り、全身を斬り刻んでいく。
体中から血を滴らせ、ランドンの動きが徐々に鈍くなる。
あまりの辛さから首を下げてしまったランドン──そこには待ってましたと言わんばかりに大剣を振り上げていたアルバスが待ち構えていた。
「ガルアッ!?」
「はん! てめえの考えることなんざぁ、お見通しなんだよ!」
「やっちゃいなさい、アルバス!」
隻腕の筋肉が盛り上がり、アルバスはジーエフに来て初めてスキルを発動させた。
「終わりだ──
絶対不可避の刃を生み出すアルバスのスキル、断罪の剣。
一度発動すると七日間は使用できなくなるため燃費は悪いが、ここ一番で力を発揮する奥の手である。
ランドンだけではなく、ドラゴンの首は他の部位に比べてより強固であり傷つけるのが困難だと言われているのだが、アルバスの断罪の剣は一切の抵抗を生み出すことなくその首を落としてしまった。
「……ふぅ。これで終わりだな」
「さっすがアルバスね! 本当に助かっちゃったわ!」
「ったく、油断しすぎなんだよ」
大剣を背負い直し、頭を掻きながらそう口にしたアルバスだったが、ふと自分がスキルを使ったことを思い出すとジギルを睨み付けた。
「……そういえばお前、スキルを使ってなかっただろ?」
「えっへへー、バレた?」
「そんなんだからヤバくなるんだろうが!」
「だってー。あれを使ったら戦いがつまらなくなるんだもーん。せっかくアルバスと共闘できるのや、もったいないじゃないのよ!」
「それで死んじまったら元も子もないだろうが」
呆れたようにそう口にしたアルバスなのだが、ジギルはというととても満足そうに笑っていた。
「うふふ、私にとっては命を懸けてでも成し遂げたかったことなんだもの!」
「……はぁ。これくらいなら、何度だって一緒に潜ってやる」
「……え?」
唐突な言葉に、ジギルは口を開けたまま固まってしまった。
「だから、無駄に命を懸けるな、いいな? 俺が命を無駄にすることが嫌いだって、知ってるだろうが」
「……」
「おい、聞いてるのか!」
「……あー、うん、知ってる。その、ごめんね」
「分かればいいんだよ、分かれば。……とりあえずドロップアイテムを拾って帰るとするか」
アルバスは白い灰の中からサウザンドドラゴンの剛爪を拾い上げると、その下にもう一つドロップアイテムがあることに気がついた。
「……おいおい、まさか魔石まで出るのかよ」
「マジ! サウザンドドラゴンの魔石っていったら、一生遊んで暮らせるくらいのお金が手に入る代物よ!」
「……あー、こいつの使い道は小娘と要相談だな。ったく、なんでこう面倒臭いことが起きるかねぇ」
頭を掻きながらぼやいているアルバスだったが、ジギルはそんなアルバスを見て楽しそうに笑っていた。
「……何がそんなに楽しいんだ?」
「だって、アルバスが楽しそうなんだもの」
「お前、耳が悪くなったのか? 俺は面倒臭いと言ったんだがな」
「言葉と表情が矛盾してるから面白いんじゃないのよ」
「……はぁ」
何を言っても言い返されると分かったのか、アルバスはこれ以上何かを言うことなく、やはり頭を掻くだけに止めた。
──その後、アルバス達は一五階層から駆け足で戻っていき、三〇分と掛からず地上へと帰還した。
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