第147話:アルバスとジギル③
七階層のボスモンスターはスティンガーだ。
こちらもレベルはまだまだ低いのでゴーストパラディンだった頃よりも普通ならば弱いはずなのだが、ここでもアルバスは首を傾げていた。
「うーん、ストナも力に関しては少し強いな」
「へぇー。なんだか不思議なものね」
「お前が暮らしているダンジョンでも似たようなことは起きてないのか?」
「どうかなー。私はここ最近、帰ってないしねー」
「帰ってないって、ランキング1位なんだから好待遇なんだろう?」
「そうでもないわよー。むしろ、冒険者への発言力では私の方が上になりそうだから嫌われちゃってるかもねー」
「ランキング1位が冷遇されるって、どんな都市だよ」
嘆息しながらもアルバスはストナの双剣を巧みに捌き切っている。
隻腕で双剣の連撃を捌き切れるだけの技量を見せつけられては、ジギルの冒険者心にも火が灯り始めていた。
「……ねえ、本当に私がジーエフに移住してきたら迷惑になっちゃうかな?」
「お前、あれは本気だったのか?」
「うーん、あの時は半分半分って感じだったけど、今は割と本気だね」
「そうか。まあ、小娘なら迷惑とかそんなん関係なく、喜んで受け入れてくれると思うぞ」
「メグルちゃんならそうだろうね。だけど、私はアルバスの意見を聞きたいのよ」
ジギルは真剣な眼差しをアルバスに向けている。
一方のアルバスはストナと対峙しながらなので視線は向けていないが、ジギルの質問について自らの見解を口にした。
「……今のままだと、ジーエフの迷惑にはなるだろうな」
「その根拠は?」
「いまだに一五階層までしかないダンジョンにランキング1位のお前が移住となれば、何か裏があるんじゃないかと疑われる可能性もあるし、そこから変な噂が流れて冒険者が来なくなる可能性も出てくる」
「それはあくまでも噂でしょ? 私本人が否定すればいいことじゃないの?」
「経営者に言わされている、と思われたらそれこそ最悪だ。そんなことになったら、小娘の方がお前のことを心配して頭を悩ませちまうだろうな」
「……そっか」
「それに、まだまだランドンの噂は広まりきってないからな。今の状態ではまだ早いとしか言えん」
アルバスの言い回しに、ジギルは一つの違和感を覚えた。
「……それなら、ランドンの噂が早いところ広がったら可能性はあるってこと?」
「あぁ。そして、その噂を早く広げてくれる材料がのこのこと近づいてきてくれているから、そいつらの結果次第では考えないでもないな」
「……あぁ……そっか、なるほどね! ゼウスブレイドか!」
ジギルの言葉に、アルバスは一瞬だけ振り返り笑みを浮かべる。
その最中にも《速度上昇》による双剣の高速連撃が繰り出されていたのだが、アルバスは大剣を一振りしただけでストナに防御姿勢をとらせてしまった。
「ゼウスブレイドが盛大に負けてくれれば、落ち目とはいえ噂の広がりは絶大だろう。そうなってくれると、ランドンの実力を認めたという体でお前が移住するのもありだと思うぜ」
「……アルバス、さすがはゼウスブレイドを影で支えていただけのことはあるはね」
「どういうことだ?」
「うふふ。あいつらはね、アルバスが抜けてからほんっっっっとうに酷かったんだから! 依頼選びもろくにできないし、ダンジョンに必要な道具もちんぷんかんぷん、自炊に至っては地獄だったみたいよ」
「あー……それ、全部俺が見てたやつだな」
「でっしょー! それで、代わりに入る奴も前衛で、そういう奴らは大抵が筋肉バカだからアルバスみたいにはできないわけ。それで結局辞めるんだ……って、これはもう話したわね」
苦笑気味にそう言うと、ジギルは興奮していた自分に気づいたのか再び体を壁に預けた。
「まあ、いいんじゃないか? 今はちょっとくらいはマシになっていると信じているがな」
「変わらないと思うわよ? あいつらは、そういう奴らだからね」
「……同感、だ!」
「――!」
おそらくストナとしては不本意だっただろう。
目の前の相手が片手間に自分と戦い、たった一振りで《硬質化》させていた自慢の鎧が両断されてしまったのだから。
「さて、とりあえずの目的は達成したが……どうする?」
「そんなもん、当然最下層まで行くわよ!」
「……まあ、そうなるわな」
「ランドンだっけ? まさかモンスターに名前を付ける経営者がいるとは思わなかったけど、それはそれで面白いわよねー!」
「名前ねぇ……まさか、名前を付けたからモンスターが強くなったなんてことは……いや、ないか」
「あはは、そんなんで強くなるんだったら苦労はしないでしょ」
「それもそうだな」
しっかりとドロップアイテムを確保したアルバス達は、さらに下層を目指してダンジョンを下りていく。
目指すは一五階層のランドンなのだが、そこまでのモンスターは二人にとってはザコも当然であり、あっという間に攻略されてしまう。
元々はアルバス一人でも到達できてしまうのだから当然であり、三〇分と掛からずに一五階層の
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