第146話:アルバスとジギル②

 五階層のボスモンスターはキングライガーへと進化したライだ。

 レベルがまだ低いのでレベル80あったハイライガーよりも劣るだろうと思われていたのだが、速度だけは予想外にハイライガーよりも速かった。


「これは、どういうことだ?」

「確かに、今まで見てきたキングライガーとは違うわね」


 ライの相手をしているのはアルバスだった。

 実際に剣を交えてみてそう感じているので間違いはなく、さらに壁際から見ているジギルすらもその違いに気づいていた。


「レア度の低い状態から消化、進化をさせたら強い個体になるってことか?」

「でも、それなら他の経営者もやってそうだけどね」

「あー、確かにな。っと、危ねえ」

「手助けしましょうかー?」

「いんや、これはこれで楽しめているから気にするな」


 ジギルと情報交換をしながらの戦いである。

 集中力を欠いてしまっては危険極まりない戦い方なのだが、アルバスにとってはこれでちょうどよいと言っているのだ。

 速さだけはハイライガーを上回っているものの、それ以外ではやはり劣っている。

 命の危険がないからこそ、アルバスはできるだけ緊張感を得るために今の状況を自ら作り出していた。


「そろそろ決めてもいいんじゃないのー?」

「いや、なるべく緊張感のある戦いをすることで、モンスターの経験値も上がるみたいなんだ」

「……そうなの?」


 アルバスの言葉にジギルは疑問を浮かべていた。

 この経験値が上がる、という部分に関しては他の経営者は知りえない情報だった。

 廻が定期的にモンスターの能力を確認している中で、同レアリティで同レベルのモンスターでも経験値の上がり方に違いがあることを発見していた。


「俺も最初は半信半疑だったんだが、確かにレベルの上がり方が違っていたんだよ」

「……これって、他の経営者が知ったらすぐに取り入れる情報だよ?」

「小娘は教えていいって言うだろうが、俺は反対している」

「まあ、今はまだその方がいいでしょうね」


 二人の意見は一致していた。

 現時点で他のダンジョンが有利になる情報を流す意味はなく、またランキングの低いダンジョンが主張しても虚言だと言って信じてもらえる可能性も低い。

 それどころか、ジーエフの経営者は虚言癖があると噂されて冒険者の往来が少なくなることも考えられるのだ。


「というわけで、ジギルも絶対に言うんじゃないぞ」

「了解よー。っていうか、私もいつかはこっちに移住したいから不利になるようなことはしないわよ」

「……お前、本気で言ってるのか?」


 ライがスキルである《雷撃砲らいげきほう》を放つが、アルバスはそれを大剣で斬り裂いてしまう。


「ガ、ガルアッ!?」

「本気よー。だって、メグルちゃんって可愛いし、可愛いし、可愛いじゃない!」

「……冗談は顔だけにしておけよ?」

「ちょっと、酷くないかなあ!」


 一撃必殺の攻撃をスキルを使ったにもかかわらず、ライは二人から完全無視をされてしまい、その二人は会話を続けている。


「まあ、ジーエフが面白そうっていうのも理由かな」

「他にも理由があるのか?」

「まあ、そうねえ……」


 言いながらジギルはアルバスを見つめる。

 ライバルだったこともあるが、ジギルはアルバスの強さと人柄に惚れている。それは隻腕になったから変わるようなものではなく、本気で好いているのだ。


「なんだ、どうしたんだ?」

「……全く、鈍感にもほどがあるわよ!」

「あん? 何を言っているんだ?」

「グルアアアアッ!」

「もう、ライがうるさいからさっさと倒しちゃいなさいよ!」

「いや、目的は経験値を上げるためなんだが?」

「レベル上げはライだけじゃないでしょう!」

「……確かに、ストナとも戦わないといけないか。それじゃあ――」

「ゲハアッ!」


 仕方ないと言わんばかりに大剣を強く握り、そして地面を削りながら斬り上げを放つ。

 飛び込んできたライの胴体が両断されると、もう一つのスキルである《自爆》が自動的に発動されるのだがアルバスはすでに経験済みだ。


「させるかよ」

「ガ、ガハッ!」


 さらに大剣が振り抜かれ、溜め込まれた雷撃が放出される前にライは白い灰へと変わってしまった。


「おぉーっ! お見事!」

「バーカ、お前ならもっと細切れにできただろうが」

「いやいや、片腕でそこまではできないわよ。本当に、冒険者を引退したとかもったいなさ過ぎだわ」

「俺はもう冒険者に未練がないからな」

「……だからこそ、本当にゼウスブレイドの連中にはムカつくわね」


 溜息をつきながら歩いてきたジギルに苦笑を浮かべたアルバスがドロップアイテムを拾い上げると、そのまま下の階層へと進んで行った。


 ※※※※


 モニターから二人の様子を見ていた廻は、あまりの強さにジギルとは違う溜息を漏らしていた。


「アルバスさんって、ジーエフに来た時よりもさらに強くなってない?」

「定期的にダンジョンに潜ってもらっているからにゃ。冒険者時代の勘が戻ってきているはずなのにゃ」


 このままいけば七階層のストナとの戦いでも問題なく戦ってくれると思って見ていたのだが、だからこそ心配になってしまう。


「……ランドンとの戦いは、大丈夫かな」


 ダンジョンに潜るということは、絶対に最下層へ挑戦するということ。

 現冒険者ランキング1位が潜るということは、そういうことだ。


「アルバスとジギルなら絶対に大丈夫なのにゃ!」

「……そうだね、私が信じないと誰が信じるんだって話だよね!」


 廻は自分にそう言い聞かせて、すでに七階層に進んだ二人を見つめるのだった。

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