第144話:相談会

 廻は改めてモンスター一覧を見ている。

 二杉から貰ったといってもいいハイライガーとゴーストパラディン。


「……よし、進化をさせてダンジョンを強化するんだ!」

「レオは良い経営者なんだにゃ! どうするにゃ、すぐに進化させるにゃ?」


 ニャルバンに聞かれて少し思案した廻は、進化を行う前にアルバスに相談することにした。


「進化するとレベルが1に戻るからね。何でもかんでも進化させれば良いってもんでもないみたいだしね」

「分かったにゃ! それじゃあ待っているにゃ!」


 手を振るニャルバンに断りを入れて、廻は一度経営者の部屋を後にした。


 ※※※※


 換金所が閉まっている時間帯。

 アルバスがどこにいるかと考えて、廻がやってきた場所は宿屋の食堂だった。

 冒険者が少ない場合は早い時間に家へ帰ることもあるが、今回はジーエフにジギルが訪れている。

 家に招待することはないと考えてのことだったが、予想通りにアルバスはジギルと飲んでいた。


「だーかーらー! たまには一緒にダンジョンに潜りましょうよー!」

「くどい。俺にはそんな時間ないんだよ」

「えぇー! だって、リリーナちゃんってアルバスの代わりに窓口に立つことになった元冒険者でしょー? だったらアルバスが潜ることもできるじゃないのよー!」

「……お前、なんでリリーナのことを知っているんだ?」


 アルバスとジギルが換金所で話をしている時、リリーナは隣に立っていたものの一言も話してはいない。

 リリーナが話し始めたのはジギルが換金所を後にしてからだ。


「リリーナちゃんは有名だったからねー。っていうか、ランキング100位以内に入ったことのある冒険者ならほとんど顔も名前も分かるわよ?」

「……お前にそんな特技があったとはな」


 そんな会話をしている最中に廻が声を掛けたからか、ジギルは廻にもアルバスと一緒にダンジョンに潜りたいのだと愚痴を言い始めた。


「メグルちゃんからもなんとか言ってよー!」

「リリーナも仕事は覚え始めているが、まだ認知されてねえんだよ。一人で立たせるにはまだ早すぎる」

「そこは経営者のメグルちゃんと立たせたら問題なくない?」

「おぉー! ジギルさん、それナイスアイデアかも!」

「でっしょー!」

「おい、小娘! お前がジギルの意見に賛成してどうするんだよ! ってか、何をしにきたんだ?」


 アルバスの問い掛けに用事を思い出した廻は、アルバスにライとストナの進化についての相談を口にした。


「なるほど、あの経営者がそんなことをなぁ」

「メグルちゃんも経営者としてやりくりしてるのねー」

「今回は二杉さんにおんぶに抱っこですけどね」

「何を言ってるのよー。そのカンザシだっけ? 私の耳にも入ってきてるわよー」

「そうなんですか?」


 女性冒険者の間で人気を高めている簪である。

 ジギルの耳に入るのも当然といえば当然なのだが、今のジギルは簪を挿していないので知らないものとばかり思っていた。


「まさかメグルちゃんがアイデアを出していたとは思わなかったわ。なんでこっちで独占販売しなかったの?」

「あれはクラスタさんを移住させるための手段でしたから」

「ふーん……はぁー。こっちで販売してたら、私も手に入れられたかもしれないのにー」

「えっ? もしかして、ジギルさんも欲しいんですか?」


 廻の言葉に、ジギルは両手を胸の前で合わせて乙女のような表情を浮かべた。


「そりゃそうよ! 女性冒険者ならちょっとしたオシャレもしたいものなんだから! それに、素材にこだわれば仕込み武器として活用することも……ふふふ」

「おい、そりゃオシャレからかけ離れた考え方じゃねえのか?」

「そうかしら。オシャレもしながら自分の装備を充実できるなら、それに越したことはないと思うけどねー」


 簪で話が盛り上がってしまい話が脱線してしまったが、ここで再びモンスターの進化についての相談になる。


「一気に二匹のモンスターを進化させるのはリスクがあるな」

「ですよね。長い目で見れば問題はないんですけど、早くて二日後にゼウスブレイドが来るとなると、レベルは低いままって可能性が高いですよね」

「経験値の実もないんだろう?」

「……はい」


 肩を落としている廻を見て口を開いたのはジギルだった。


「ふっふっふー! ここでこそ私の出番じゃないかしら!」

「……まさか、お前が潜るとか言い出さないよな?」

「そのまさかよー! 本当はアルバスと潜りたいんだけど、それは無理っぽいし、私にできることはダンジョンに潜る、それ以外ないしねー」

「あの、本当にいいんですか? 自分で言うのも変ですけど、私のダンジョンはまだ弱々ですよ?」

「構わないわよー。それに、ランドンっていうサウザンドドラゴンの実力もこの目で見てみたいしさ!」

「えっ! ちょっと、ジギルさん、一人でランドンに挑戦するつもりですか!?」


 廻が慌てて口を開くと、ジギルは笑いながら何度も頷いていた。


「そりゃそうよ。これでもランキング1位なのよ?」

「いや、それは十分知ってますけど」

「ランキング1位が最下層まで行かないなんて、それこそ他の冒険者に申し訳が立たないわよー」


 ジギルの言っていることも分かる。

 ジーエフにも少ないながら冒険者の往来は行われている。

 そんな中で冒険者ランキング1位のジギルがダンジョンに潜り、そして最下層のボスモンスターに挑まないとなればその評判はガタ落ちしてしまうかもしれない。

 本人が言わなければバレないというわけでもなく、ジギルという人物はそれだけで注目を集めてしまうので隠すことも難しいのだ。


「……心配です」

「ありがとね。でも大丈夫よー、無茶はしないからさ!」


 ウインクをしながらそう口にするジギルだが、廻はそれでも心配してしまう。

 そこで、廻から一つの提案が口にされた。

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