第143話:トレード

『——……三葉、どうしたんだ?』

「えっ! ……えっと、その、本当にいいのかって」

『——構わないよ。俺の方はかんざしのおかげで財政が相当潤ってきているしな』

「そうなんですか?」


 廻は知らなかったが、簪はオレノオキニイリの特産品にまで成長していた。

 鍛冶師から他の都市の鍛冶師に、そこから多くの冒険者に話が広がったのだが、ここで一番活躍したのが女性冒険者だった。

 ダンジョンに潜りモンスターと戦い生計を立てているとはいえ、そこはやはり女性である。

 オシャレもしたいし、異性を気にする場面もある。

 二杉は簪をワンポイントのオシャレとして売り出し、さらに素材にもこだわりを見せており様々な形や材質のものが販売されていた。


『——本当に、ラスティンには感謝してもしきれない』

「そうなんですね、よかった」

『——もちろん、三葉にもな』

「わ、私は何もしていませんよ!」

『——いや、三葉がいなかったら簪なんてアイデアも出てきていなかったはずだ。言っておくが、簪を買いに来た冒険者がダンジョンに潜り、俺のダンジョンランキングも上がっている。そろそろジーエフに追いつくかもしれんぞ?』

「えっ! そ、そうなんですか!」

『——まあ、それはそうとだ。さっきの提案、受けてくれるよな?』


 正直な話、とてもありがたいことではある。

 しかし、廻としては簪の販売を許したというだけで直接何かをしてあげられたわけではない。


「……な、何か二杉さんが欲しいものはないんですか?」

『——なんだ、まだ気にしているのか?』

「だって! 簪だって元を辿れば私が作ったものではないんですよ? ただアイデアを口にしただけで、実際には何もしていないんですから」

『——……全く、律義な奴だな。それじゃあ、そうだなぁ……俺からは、三葉にそのアイデアをくれないか?』

「……へ?」


 何を言われているのかさっぱりな廻に、二杉は説明を始めた。


『――そっちの神の使いが説明しているかは分からないが、ダンジョン経営には都市の発展度も十分関係してくる。それにはただ施設があればいいというわけではなくて、ちゃんと施設として機能しているのかも重要になるんだ』

「それって、鍛冶屋があっても鍛冶をしてなかったら意味がないってことですか?」

『——そういうことだ。俺の例で言うと、ジーエフよりも住民は多くいて、ダンジョンの階層も深いしモンスターも多くいた。それでもランキングが低かったのは、鍛冶屋が鍛冶屋としての機能を十分に発揮できていなかったからだ』

「……お客さんが来てなかったってことですか?」

『——その通りだ。もちろんランドンだったか? そのモンスターの影響もあるだろうが、こっちも少なからず関係していたはずだ。だけど今は簪を目的に人が集まり、比例して鍛冶屋に訪れる客も増えた。元々職人は優秀な人材を集めていたからな、自ずと鍛冶屋も十分な機能を果たしてくれる。その結果、ランキングが上がってきたってわけだ』

「へぇー……うん、後でニャルバンを問い詰めてみるよ」

「……にゃは、にゃははー」


 廻がジト目を向けると、ニャルバンは申し訳なさそうに苦笑いを浮かべていた。


『——……ま、まあ、そういうことだから、俺からは廻が思いついたアイデアが欲しい。もちろん、ジーエフでできることは教えなくていいから、そっちでできそうもないアイデアを思い付いて、俺のところでできそうならで構わない』

「こっちでできそうなアイデアって、それなら二杉さんのところでもできますよね?」

『——お前なあ、自分達のところでできるなら、そっちでやった方がいいに決まってるだろう! アイデアなんて本当はポンポンと人に教えていいものじゃないんだからな!』

「ご、ごめんなさい!」


 まさかここでも怒られるとは思っていなかった廻は反射的に謝ってしまった。


『——……まあいい。それじゃあ、ハイライガーとゴーストパラディンをトレード欄に入れておくから、そっちからはいらないモンスターをトレード候補に入れてくれ。やり方は神の使いに聞けば分かるはずだ』

「ちょっと待っててね」


 廻はニャルバンを手招きしてトレードのやり方を教えてもらった。

 友好ダンジョン都市の欄からトレードを選択し、そこから申請されているトレード一覧を見ることができる。

 トレードに必要な条件が付けられることもあるが、今回は二杉が特に条件を付けていないのでレア度1のモンスターでもトレードが成立する。


「そ、それじゃあ、登録しますね?」

『——あぁ、頼む』


 一覧の中からハイライガーとゴーストパラディンを選択、そして廻からは朝のノーマルガチャで出てきたレア度1のゴブリンとスライムを登録して、完了ボタンを押す。

 すると、目の前にトレード完了の文字が表示された。


「……これで終わりですか?」

『——あぁ。モンスターの一覧の中にトレードしたモンスターが入っているか、確認してくれ』

「は、はい」


 言われた通りにモンスターの一覧を開いた廻は、確かにレベルマックスのハイライガーとゴーストパラディンを確認した。


「……あ、ありがとうございます、二杉さん!」

『——いや、こっちもちょうど余っていたモンスターだからな。進化をさせて、レベル上げをして、ゼウスブレイドに備えておけよ』

「もちろんです! アルバスさんのことは、私が守るんです!」

『——当然だ。お前は経営者なんだからな』

「はい!」


 そこから少しだけ世間話をした後、二人は通信を切ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る