第142話:来訪に備えて

 夜になり、廻は経営者の部屋マスタールームに戻ってきている。

 ゼウスブレイドが迫っているということで、ダンジョンを改めて確認しようと思ってのことだ。

 しかし、実際にやれることはないので本当に確認するだけなのだが。


「ランドン以外は簡単に突破されるんだろうなぁ」

「ランキングを下げているとは言っても、元上位パーティだからにゃ。ヤダンが臨時パーティで最下層まで行けているからにゃ」

「そうだよね。ヤダンさんには悪いけど、一人ひとりの冒険者ランキングでいえば上だろうしね」


 ジーエフのモンスターはそこまで大きく変わってはいない。

 ランドン以外の主力はライとストナがメインとなっており、次いでアウリーとクイーンピクシーのクーピーである。

 スラッチ、ゴブゴブ、キラビ、ミスターも昇華と進化を繰り返し、今ではレア度3の主力として一翼を担っている。


「これでも攻略されてるんだから、もうどうしようもないんだけど」

「レア度問題は、今もなお起きているってことだにゃ」

「うーん、せめてレア度4がもう一匹いてくれたら違うんだろうけど……」

「進化できそうなのはライとストナだけど、進化に必要なもう一匹がまだ育ってないのにゃー」

「それに、もし進化できたとしてもレベルが1になっちゃうからゼウスブレイドが来るまでにはレベル上げが間に合わない」

「「八方塞がりだ」にゃー」


 二人して机に突っ伏してしまい、何もできないことを改めて実感することになってしまった。


「……配置も、変えようがないわよねー」

「……そうだにゃー。ジーエフはセオリーを外して冒険者を驚かせているから、今さらセオリーに戻すのも変な話だにゃ」

「そうなのよねー。……ん? これ、何かしら?」


 経営者の部屋にポンッ! と音が鳴り、廻は顔を上げてニャルバンを見る。


「これは誰かから連絡が入った時の音だにゃ」

「連絡って……二杉さんしかいないよね」


 なんだろうとメニュー画面を開くと、そこには受信の項目がありタップすると目の前に文章が浮かび上がってきた。


「なんだか、メールみたいだね」

「なんて書いてあるのにゃ?」

「あっ、それもそうだね。どれどれ……うわー、なんか、ゼウスブレイドがジーエフを目指しているのって、いろんな都市に話が広がっているみたい」

「それって、オレノオキニイリにも話が行っているってことだにゃ?」

「そうみたいね……えっ!」

「どうしたにゃ?」


 ゼウスブレイドがジーエフに来ることはあまりよろしくないのだと理解を深めたところで、最後の文章は二杉からの提案が記されていた。


「……二杉さんが、必要なモンスターがいればトレードで譲ってもいいって書かれてるの」

「ほ、本当かにゃ!」


 友好ダンジョン都市を結んでいる都市同士なら、お互いに納得したならモンスターをトレードすることができる。

 これは階層を深くしていき、よりレア度が高いモンスターや強い個体のモンスターを多く手に入れた経営者同士が行うことが多い。

 ジーエフもオレノオキニイリも発展中の都市なのでそこまで余るモンスターはいないはず。

 実際にジーエフはダンジョンに配置しているモンスター以外はほとんど余っていない。それはレベル上げのために融合させているからだ。


「うーん、二杉さんに提供できるモンスターがいないんだよねぇ」

「それは……確かに、そうだにゃ」

「連絡って、私から二杉さんにできるの?」

「手紙と通信、どっちでもできるのにゃ」

「通信? もしかして、ここから二杉さんと話すことができるの?」

「できるにゃー!」

「……それを早く言いなさいよ!」

「ご、ごめんだにゃー!」


 いまだに知らないことがあるのかと頭を抱えた廻だったが、ここから二杉と直接話ができるならその方が早いと判断し、一度手紙で返信する。

 内容は、『直接話をしたいから通信をしたい』というものだ。

 返信をして数分後――


 ――ピロピロリン!


 これまた初めて聞く音が聞こえてきたのですぐにメニューを開くと、通信の項目が点滅していたのでタップする。


『――もしもし? 二杉だが、三葉か?』

「うわあっ! 本当に繋がってるよ! 私だよ、私!」

『――三葉だな。お前、名前を言わないとオレオレ詐欺みたいになるぞ』

「い、いきなり指摘が酷すぎない?」

『――まあ、三葉は何も変わっていないということだな。さて、話というのはゼウスブレイド、それにトレードのことでいいんだよな?』


 早速本題に入ってきたので、廻も気を引き締めて話を始めた。


「……そうです。その、トレードの話はとても嬉しいんだけど、私から二杉さんに渡せるモンスターがいないんですよ。それで――」

『――あー、そういうことか。いや、別に俺からあれが欲しいとかこれが欲しいとかを言うつもりはないよ』

「……どういうことですか?」

『――欲しいモンスターがいれば俺から提供するだけだ。三葉からはいらないモンスターをトレードに乗せてくれて構わない』

「で、でも、それだと二杉さんに得がありませんよね?」


 お互いが納得していればトレードは成立する。それはレア度に差があっても問題はないということだ。


『――以前に話を聞いたが、ハイライガーとゴーストパラティンがいるんだろう? それのレベルマックスがこっちにいるから、それを使って進化させろ』


 そして、一番欲しいと思っていたモンスターの名前が出たことに、廻は返事をするのを忘れて固まってしまった。

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