第141話:悪い知らせ?③
廻はもちろん、アルバスまでが口を開けたまま固まってしまい、ジギルは首をこてんと横に倒した。
「……二人とも、どうしたの?」
「お、お前はアホか! お前が剣を抜いたら、あいつらなんて一瞬で死んじまうだろうが!」
「元1位のパーティ弱すぎませんか!? っていうか、ダメですからね、ジギルさん!」
「えぇー! だってー、アルバスとメグルちゃんに敵意を向けるなんてー……そんな奴、私の敵なんだけど?」
「さ、最後の方だけ低い声で言わないでください! 本当に怖いですから!」
ジギルが本気になれば、冒険者ランキング2位がいるパーティでもただでは済まないだろう。
それがランキングをどんどんと落としているアルバスの元パーティが相手となれば、その結末は誰の目からも明らかである。
「だって、本気なんだもの」
「いいからお前は見ているだけにしてくれ。マジで、いいか?」
「アルバスさんの言う通りです! 助けてくれるのはありがたいんですが、さすがに剣を抜くのはアウトですから!」
「……まあ、メグルちゃんがそう言うなら仕方ないけど、私がヤバいと思ったら、その時は勝手に行動させてもらうからね? もちろん、ジーエフに迷惑は掛けないからさ」
「「……ものすごく不安だ」」
「うっふふー! というわけで、私は宿屋に行って部屋を取ってきまーす! あっ、でも……アルバスの家に泊めてくれても——」
「お断りだ!」
結局、ジギルが最終的に何をするつもりなのかまでは聞くことができず、笑いながらその場を離れてしまった。
廻とアルバスは顔を見合わせて大きな溜息をついていたが、その姿を見て隣で窓口に立っていたリリーナが苦笑を浮かべていた。
「ジギル様は、とても賑やかな方なのですね」
「今のやりとりを見てそう言えるとは、リリーナもなかなかに大物だな」
「本当ですね。私もリリーナさんくらい寛容になれればいいんですけど」
「私は寛容でもなんでもありませんが、ジギル様が味方でいてくれるなら心強いのではないですか?」
「……まあ、客観的に見れば確かにそうなんだけどな」
「何か、後ろめたいことでもあるのですか?」
リリーナの問い掛けに、アルバスは頭を掻きながら答えた。
「パーティを組んでた奴らと、ジギルがパーティを組んでた奴らは、俺が現役の時にやり合ってたんだ」
「確か……アルバス様がいたパーティがゼウスブレイド。ジギル様がいたパーティがゴールドカリスでしたか?」
「よく知っていたな」
「これでも元冒険者ですし、私が現役の頃はどちらのパーティも有名でしたから」
「でも、パーティ同士がやり合うことってよくあることじゃないですか?」
ランキングを競っているのと同時に、ダンジョン攻略でも競い合うのが冒険者の生業だろう。
それが当時のランキング上位のパーティであればなおのことだ。
「その通りだが、ゼウスブレイドとゴールドカリスは特に敵対していてな、あいつらがジギルを見ただけで逆に問題が大きくなりそうな気がしてな」
「えっ、そんなこともあるんですか?」
「……あいつら、短気だったからなぁ。落ち着かせるのにどれだけ苦労したことか」
「あのアルバスさんが、中間管理職みたいなポジションだったんですか?」
「……すまん、どういう意味だ? それと、軽く貶してただろ?」
廻の例えが通じずとも、アルバスに対して思っていたイメージとは真逆だったことについては伝わったようだ。
「ま、まさかー! その、パーティの調整役、みたいな感じだったんですか?」
「……まあいいさ。そんなことしたくなかったが、やらざるを得なかったんだよ」
「なるほど、そういうことですか」
「どうしたんですか、リリーナさん?」
二人のやりとりを聞いていたリリーナが突然納得したように頷いている。
何がなるほどなのか、当の廻には見当もつかなかった。
「おそらく、ゼウスブレイドはアルバス様が抜けたことで最強戦力と同時に、パーティの調整役も同時に失ったのです。そうなれば、新しく入ってくるメンバーが上手くいかないのも頷けます」
「あぁー! そういうことですか!」
「……ったく、あいつらは俺が抜けても全く変わらなかったってことかよ」
「だから難癖付けにくるんじゃないですか」
「そりゃそうだな。まあ、そういうことなら尚更問題はないだろうよ」
「どうしてですか?」
廻の問い掛けに、アルバスにニヤリと笑りはっきりと答えた。
「あいつらは弱い。それも、俺がいた頃よりもさらに弱くなっている。それはパーティがじゃなく、個人としてもな。おそらく、隻腕の俺にすら勝てないかもしれない。そんな奴らに遅れを取るわけがないだろう?」
「自信満々ですね」
「事実だからな。まあ、俺の予想が外れたとしても、問題は大きくなるかも知れんが現最強のジギルもいるんだ。荒ごとになっても大丈夫だろうよ」
「あ、荒ごとはやめてくださいね!」
「微力ながら、その時は私も手をお貸ししますね」
「ちょっと、リリーナさんまで! そんなことをしたらボッヘルさんが心配しますから、絶対にダメですからね! あとアルバスさんも!」
両手を何度も上下に振りながら怒っている廻をみて、アルバスとリリーナは苦笑するのだった。
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