第140話:悪い知らせ?②
アルバスを貶めた相手なのだからどうなろうと知ったことではないが、そんな相手と顔を合わせるだけでもアルバスは嫌なのではないだろうか。
「アルバスさん。もし顔を合わせたくなかったら、私とリリーナさんで換金所の窓口を――」
「俺がいないと話にならんだろう。それであいつらが帰っちまったら元も子もない」
「でも……」
「全く、何度も聞いていると思うが、お前は俺が信用できないのか?」
「信用しています!」
「そうだろう。だったら気にすることなく任せていろ」
アルバスのことは信用している。
それでもメグルの不安が消えることはなく、これは性格の問題なので仕方のないことでもあった。
「安心してよ、メグルちゃーん!」
そこへ声を掛けてきたのはジギルである。
ジギルはアルバスの肩に腕を回すと、満面の笑みを浮かべながら口にした。
「元パーティがジーエフを離れるまでは、私がここに残ってアルバスをサポートしてあげるからさ!」
「おま! 何を言ってやがる! そんなもんはいらないからさっさと次の都市にでも行きやがれ! しっしっ!」
「私の目的はジーエフだったしー、次に向かう都市なんて決めてないから急ぐことはないのよねー」
「面倒だからとりあえずここを離れろよ!」
「えぇーっ! こんなに面白そうなものが見られるんだったらー、残っておくのが普通よねー」
「……お前、楽しんでるだろ!」
アルバスが右拳を握りしめてジギルを睨みつけるが、ジギルはどこ吹く風でニコニコと笑みを絶やすことをしない。
そして、廻はそんなジギルの言葉に大きな安心感を得ることができていた。
「ジギルさん、よろしくお願いします!」
「おいおい、小娘までジギルの戯言に付き合うのか? 勘弁してくれよ」
「戯言でもなんでも構いません! 私はアルバスさんの助けになることならなんだってしまうよ!」
「……それなら、ジギルをさっさとジーエフから追い払ってくれよ」
「それはアルバスさんのためになりませんから却下です」
「なんでだよ! 元パーティの時は来るのを断るみたいなことを言ってたじゃねえか!」
「それとこれとは話が全く持って違いますからね!」
「……はぁ。もういいよ、好きにしろ」
頭を掻きながら溜息をつくアルバスを見て、廻とジギルは顔を見合いながら笑みを浮かべた。
「それで、あいつらが向かってるってことを知っているなら、どれくらいで到着するかもおおよそ分かっているんだろう?」
ジギルを追い払うことは諦めたアルバスは、次に対処するべきことのためにジギル問い掛けた。
「早くても二日後くらいじゃないかしらね」
「二日後か……どうせなら金も落としていってもらおうか」
「どうするんですか? まだ酒場は造れてませんけど……」
「何も飲み食いだけが金の落しどころじゃねえさ。眼鏡には道具の在庫を充実させておけと伝えておけよ」
「……あぁー、なるほど」
「えっ、それって私が買ってもいいわけ?」
「いいわけないだろうが!」
「だってー! お金を落とすのは一緒でしょー? ポポイちゃんの道具って便利で性能も高いから使い勝手がいいんだよねー!」
ルンルン気分でそう口にしたジギルだったが、その言葉を一番嬉しく思っていたのは廻だった。
「ジギルさん。ポポイさんの道具はそんなによかったですか?」
「もちろんよ! 正直、なんで今まで埋もれていたのかが不思議なくらいよ」
「そうですか……ポポイさん、やったね」
廻はポポイの生い立ちをつい先日聞いている。
自分が作った道具の性能にバラつきがあるかもしれないと商品として並べてもらえず、そのせいで道具屋としての人生を諦めようとしていたことも。
それが冒険者ランキング1位であるジギルに認められたのだから嬉しいに決まっている。
「……あっ! でも、それだと元パーティの人達もポポイさんの道具に惚れ込んでジーエフに通うようになりませんかね?」
「あん? それはそれで構わねえじゃねえか」
「ダ、ダメですよ! アルバスさんは本当に――」
「本当に大丈夫だ。俺はあいつらのことをなんとも思っちゃいねえ。いい加減信じろよ」
「……すいません。でも、ダンジョンに関してはランドンに任せるとして、直接アルバスさんに復讐するってなったらどうするんですか?」
自分のモンスターが倒されることは今でも少しだけ悲しくもある。それでも倒されることで、戦うことでレベルが上がりより強くなって復活するのだと思えば気持ちも楽になることができた。
しかし、相手がアルバスをさらに貶めようと考えているのなら、話は変わってきてしまう。
宣伝や売上げなどかなぐり捨ててでも、廻は元パーティを追い払うつもりでいた。
「メーグールーちゃーん! そこで私の出番なのよー?」
「ジギルさんの?」
ジギルはアルバスから離れて廻に近づくと、後ろに回り抱きしめながらはっきりと口にする。
「あいつらがアルバスに何かしようとしたら、私が剣を抜いてあげる。そして、害を与えるようなら斬り捨ててあげるわよ」
満面の笑みで、それも明るい声音で恐ろしいことを口した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます