第127話:ダンジョンのタイプ

 経営者の部屋マスタールームに戻ってきた廻はすぐにニャルバンを呼び出してダンジョンのタイプについて口にした。


「ニャルバン! ダンジョンタイプって何よ!」

「にゃにゃ? 岩窟タイプのことかにゃ?」

「それよそれ! タイプを変えられるって聞いたんだけど、本当なの?」

「本当なのにゃ。森林タイプや迷宮タイプ、毒の沼なんかを――」

「全く同じことをリリーナさんから聞いたのよ! それをニャルバンから聞いてなかったんですけど! ものすごーく大事かことだよね!」


 怒声を響かせながらニャルバンに詰め寄る廻。


「ご、ごごご、ごめんなのにゃ! まさかこんなに早く必要になるとは思わなかったのにゃ!」

「私がここ最近ずっと、ずっと、ずーっと! 悩んでるのを見てたわよね!」

「それはー……」

「……まさか、忘れていたなんてことはないわよねー?」

「……にゃ、にゃにゃ~」

「忘れてたんかああああああああいっ!」

「本当にごめんなのにゃああああああああっ!」


 両手で頭を抱えてしゃがみ込んでしまったニャルバン。

 一方の廻は腰に手を当てて頬を膨らませているのだが、数秒後には息を吐き出しながらニャルバンに声を掛けた。


「……はぁ。もういいわよ。それで、ダンジョンタイプを変えるのってどうやるのかな?」

「……か、開放している階層のタイプを変えることはできないにゃ。新しく開放する階層しかダンジョンタイプを変えることはできないのにゃ」

「リリーナさんも、これから開放する階層って言ってたっけ」

「にゃにゃ? リリーナはダンジョンに関して詳しいのにゃ?」

「元冒険者だから知っていたんじゃないのかな?」


 思案顔を浮かべるニャルバンだったが、その目の前に廻が顔を持ってきたのでダンジョンタイプの説明に戻る。


「えっと、新しく階層を開放する時にその階層のタイプを選ぶことができるのにゃ」

「それをどうして最初に教えてくれなかったの?」

「最初からダンジョンタイプを気にしてしまうと、そこにばかり意識が言ってしまってモンスターの配置がおろそかになることがあるのにゃ。だから、初めての経営者にはそこまで説明をしないのにゃ」

「それはニャルバンだからじゃないの?」

「ち、違うにゃ! ……違うと思うにゃ」


 はっきりしないニャルバンにジト目を向けながらも、このままでは話が進まないので置いておくことにした。


「どんなダンジョンタイプがあるか見ることはできるのかな?」

「メニューのダンジョン項目から見れるのにゃ!」

「……私もニャルバンのことを言えないわね」

「どうしたのにゃ?」

「よく考えたら、私もメニューの項目を全部見れていなかったなって思ったのよ」


 メニューを操作しながらそう口にした廻。

 自分でも項目を確認しておけば、疑問に思った事をニャルバンに聞けばいいなと思ったのだ。

 ダンジョンの項目を選択すると、次の項目にダンジョンタイプが出てきたのでそのまま選択。

 話に出てきていた森林タイプや迷宮タイプ、他にも市街地タイプや変動タイプといったタイプが確認できる。

 そして、罠という項目の中に毒の沼があり、他にも麻痺の床や動く床といった気になる罠があった。


「動く床とか面白そう!」

「お、面白いかにゃ? 移動先に毒の沼とかを設置しておけば冒険者を落とすこともできるのにゃ!」

「……その考え方は面白くないわね!」

「普通はこうやって考えるのにゃー」

「まあ、そうなんだけどねぇ……」


 毒の沼に落としてしまえば、その毒が原因で冒険者が死んでしまうかもしれない。

 麻痺の床も似たようなもので、動けなくなったところにモンスターが殺到したら同じことだろう。

 安全で楽しいダンジョンを目指している廻としては、ニャルバンが言ったような設置は思惑と違うので却下なのだ。


「うーん……ここはアルバスさんに相談するべきだね!」

「すぐにアルバスに頼るのにゃー」

「冒険者の意見は重要だよ! まあ、ほとんどがニャルバンが言っていることが正しいって言うと思うけど、アルバスさんは私の考えも酌んでくれるしね!」

「あまりアルバスに迷惑を掛けたらダメだにゃー」

「分かってるわよ! ニャルバン、ありがとうね!」


 善は急げと言わんばかりに廻は経営者の部屋を後にした。


「……あれ? でも、メグルは経営者だからアルバスに迷惑を掛けてもいいんだったにゃ」


 頭を掻きながら、ニャルバンは姿を消していた。


 ※※※※


 換金所に足を運んだ廻は、がらんとした換金所でヤダンと話し込んでいるアルバスに声を掛けた。


「おう! メグルちゃんじゃないか、今日は暇そうだな!」

「ヤダンさんも暇そうですねー」

「がはは! 一五階層まで下りなければジーエフの攻略は簡単だからな!」

「ぐっ! ……わ、私の心を抉り取りましたね?」

「だったらもっと手ごたえのあるダンジョンにするんだなー!」


 アルバスとではなくヤダンとの話が盛り上がってきた廻を見て、そのアルバスは溜息をついている。


「……おい、小娘は何をしに来たんだ?」

「あっ! そうでした、アルバスさんに相談があったんですよ」

「相談? ダンジョンのことか?」

「だったら俺は席を外すわ。また来るぜ、アルバスさん!」

「お前はダンジョンに潜ってろ!」


 悪態をつかれたヤダンは笑いながら換金所を後にした。

 誰もいなくなった換金所で、廻はニャルバンから聞いたダンジョンタイプと罠のことを聞いていく。


「……なるほど、ダンジョンタイプのことを知らなかったのか」

「す、すみません」

「いや、これはニャルバンの奴が悪いからな。だが、安全なダンジョンで罠かぁ」

「ですよねぇ。矛盾してますよねぇ」

「ダンジョンタイプを変えるのはありだと思う。特に変動タイプはダンジョンが常に変化するから難易度を上げるにはオススメだ」

「じゃあ、次の階層は変動タイプ?」

「いや、二〇階層までのどこか一ヶ所だけでいいだろうな」


 一階層ずつでダンジョンタイプを変えることも可能だが、基本的には五階層ごとで変えるのが普通なのだとニャルバンは言っていた。


「途中で変えちゃってもいいんですか?」

「変動タイプだけは問題ない。各階層で旨みのあるモンスターがいれば五階層全てを変動タイプにするのもありだが、そうでなければ面倒臭いダンジョンになってしまうからな」

「変動タイプって面倒臭いんですか?」

「まず、常に変動するからマッピングができない。その中でレア度の低いモンスターしか出て来なかったら、旨みのない面倒臭いダンジョンって印象が先行するだろうな」


 今のジーエフではレア度の高いモンスターがいないことが一番の問題である。

 この状況で五階層全てを変動タイプにするのは逆効果だとアルバスは言う。


「ならば、変動タイプを間に一階層だけ挟み、そこから下の階層でまた別のタイプを選択するのが一番だろう」

「岩窟タイプじゃなくて、森林や迷宮や市街地ってことですね」

「岩窟からなら森林か迷宮がセオリーだろうな」

「どうしてですか?」

「洞窟を抜けた先がいきなりどこかの市街地、なんてことが普通はないからな」


 アルバスの説明に対して廻は首を傾げてしまう。


「普通ではないのがダンジョンですよね?」

「……まあ、言われてみるとそうだな」

「だったら、セオリーを無視して洞窟を抜けた先がすぐに市街地でも良くないですか?」


 腕組みをしながら思案顔を浮かべるアルバス。

 その答えを廻も黙って待っていると、アルバスはゆっくりと口を開いた。


「……任せる」

「け、結局それですか!」

「まあ、決めるのは小娘だからな。だが、俺はありだと思うぞ」

「本当ですか?」

「あぁ。最初のモンスター配置からセオリー無視をしているんだからな」

「そ、そんな理由ですか」

「冗談だよ。だが、暗い洞窟を抜けた先に市街地が広がっているっていうのは、確かに普通ではあり得ないし、だからこそダンジョンとも言えるからな」


 アルバスの言葉で自信を持つことができた廻は、二〇階層まで開放する方向でこれからはダンジョンを考えることにした。

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