第120話:帰還
廻は二人が無事だったことにホッとしており、二杉は攻略されなかったことにホッとしており、ジーンはエルーカの成長を再び感じることができて喜んでいた。
「もう! ロンド君も無理をするんだから! でも……本当に無事でよかった」
「ダンジョンは無事に帰還してこそ無事だって言えるんだぞ?」
「わ、分かってますよ! でもレア度3のグランディアスと戦って無事だったんだから喜んでもいいところですよね!」
二杉が言う通り、二人は無事だが現在いる場所は二〇階層である。ここから来た道を戻り帰還しなければ本当に喜ぶことはできない。
「ジーンさんが迎えに行くことはできないんですか?」
「いえ、ここで私が行ってしまうとエルーカの成長に水を差すことになってしまいます。今は見守ることが大事でしょう」
「そうだな。エルーカもそうだが、ロンドもしっかりと考えて行動しているようだからな」
「そうなんですか?」
二杉の言葉に廻は首を傾げていた。
「アイテムをそこまで使っていなかっただろう。あれは戻る時の為に残していたと考えるべきだろうな」
「ロンドさんは無事に戻ってくるところまでしっかりと考えているようでしたからね」
「……二人の方が、ロンド君のことを見てる! なんか悔しいんですけど!」
廻が意味不明に悔しがっているその横で、二杉は自身のダンジョンについて見直しが必要だと考えていた。
「しかし、本当に二人で最下層までいかれるとは思わなかったな」
「エルーカの成長がありましたからね!」
「……まあ、それも大きいがやはりロンドの実力が予想よりも高かったな」
「えっへん!」
「いや、三葉が威張るところではないと思うが……アルバス・フェローが威張るなら分かるけどな」
「アルバスさんも凄いですけど、ロンド君も凄いんです! 努力しているんです! どうだ!」
「……うん、もうそれでいいと思うぞ」
これ以上は何を言っても意味がないと悟った二杉は視線をモニターに戻す。休憩を終えた二人が帰還のために動き出そうとしていたからだ。
「……なんだ? エルーカが俯いているようだが、何かあったのか?」
「どうでしょうか。怪我をしたようには見えませんでしたが?」
エルーカが何故俯いているのか気づいていない二杉とジーン。
しかし廻だけは微笑みながらその様子を見ていた。
「うふふ、青春だなー」
のほほんとした雰囲気が経営者の部屋には流れていた。
※※※※
しばらく俯いたままのエルーカだったが、いざ
一方のロンドはグランディアスとの戦闘で傷ついた体をポーションを少し飲んで回復させている。
温存していた各種
「それにしても、たくさんのドロップアイテムを獲得できましたね!」
「そうですね。僕は深紅の針とバラクーダの甲羅があればいいので、残りはエルーカさんが貰ってください」
「えっ! そ、それはダメですよ! ロンドさんの方が活躍しているんですから!」
ゴブリンナイトやアイスボム、その他にもランダムや各階層のボスモンスターからもいくつかドロップアイテムを手に入れている。
全てを換金すれば相当の金額が手に入るのだが、エルーカは頑として独り占めはしたくないと言う。
「絶対にロンドさんの方が多く貰うべきです! 私は一割や二割くらいでいいと思います!」
「それはさすがに。ほら、僕はこの二つの素材を貰うわけですから、僕が一割や二割でいいですよ」
「ダーメーでーすー! そこまで言うなら……私が三割で!」
「いやいや、それなら僕が三割か、百歩譲って四割ですよ!」
「「……は、半々でどうですか!」」
最終的にはお互いに半々で手を打つことになった。
納得できない部分はあるものの、半々ならばロンドがアークスへの素材を手に入れていることでエルーカよりも多くの手柄を得ていることにもなる。
エルーカとしてはもっとロンドが貰ってもいいと思っているが、これ以上話し合っても譲ることはないだろうと諦めた格好だ。
「ロンドさんは欲がないんですね」
「それを言ったらエルーカさんもそうじゃないですか」
「私は今回の攻略で成長できました。だから、私は報酬なんていらないんです。成長したことが、私への報酬だと思っています」
「僕の目的はダンジョンに潜ることでしたから。そこにアークスさんの素材集めが付いてきただけで、報酬が目的じゃなかったので」
「……やっぱり、私たちには半々がちょうどよかったですね」
「そうですね」
お互いに笑い合いながらダンジョンを上へと移動していく。
そして三〇分後──二人は無事にダンジョンから帰還した。
※※※※
ラスティンが二人を出迎えると、換金所に立ち寄ってから二杉の屋敷に戻ってきた。
経営者の部屋から戻ってきていた廻達だけではなく、アークスもヴォルグの鍛冶屋から帰ってきている。
そこでロンドからアークスへ素材が手渡された。
「……すごい、本当に深紅の針とバラクーダの甲羅だ!」
「ここからはアークスさんの出番ですね」
「あぁ! 万全を期すために師匠のところで作りたいんですがいいですか?」
「私も行くわ! 言い出しっぺだから気になるし、何かアドバイスができるかもしれないしね」
「よろしければ私もお供してよろしいですか?」
廻の申し出は予想していたアークスだったが、まさかラスティンから同行したいと言われるとは思っておらず驚いてしまった。
「お手伝いさせていただいたことですから、私も気になっているのです」
「俺は構いませんが、こちらのお仕事はいいのですか?」
「ラスティンが行きたいのであれば構わないぞ」
「ありがとうございます、フタスギ様」
二杉からの許可も貰えたことで、アークスは廻とラスティンを連れてヴォルグの鍛冶屋へと向かうことになった。
「僕達は休みましょうか」
「そうですね。戻ってきて疲れが出てきたみたいです」
「でしたら三人でお茶でもしましょう!」
「「……えっ?」」
まさかの提案を口にしたのはジーンだった。
経営者の部屋ではエルーカの成長に感動しきりだったので、早く話をしたいと思っていたのだ。
「だったら僕は遠慮しておきます。お二人で話したいこともあるだろうし」
「いえ、ロンドさんもご一緒にお願いします。お礼をしたいこともありますから」
「お礼、ですか?」
お礼をされるようなことをした記憶がないロンドは首を傾げてしまう。
それでも有無を言わせずに二人の腕を取ったジーンは満面の笑みで屋敷を後にしてしまった。
「……あれ、俺だけ取り残されたのか?」
結果、二杉だけが屋敷に残ることとなり暇な時間を持て余すのだった。
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