第114話:初めてのダンジョン
オレノオキニイリは二〇階層まで開放されている。
目的のモンスターは一二階層と一五階層のボスに配置されているので最下層まで行く必要はない。
ロンドとして行けるところまで行きたいと思っているのだが──
「そ、そろそろランダムが出ますかね? 出ますかね?」
「そ、そのうち出てくると思いますよ」
エルーカが終始びくびくしながら進んでいくのでロンドは最下層まで行くことを諦めていた。
ジーンや他の冒険者とは何度もダンジョンに潜っているはずなのだが、どうしてここまで怖がっているのかがロンドには分からなかった。
「あれは、ゴブリンナイト?」
「ラ、ランダムですね!」
「ギャババババッ!」
奇声をあげて駆け出したレア度させて2のゴブリンナイト。
「ひいっ!」
小さな悲鳴を漏らしたエルーカだったが、ロンドはすでにライズブレイドを抜いていた。
ゴブリンから複数あるうちの進化を遂げたゴブリンナイトは直剣を操るモンスターで、基本的には攻撃一辺倒である。
レベルが上がればその限りではなくなるが、目の前のゴブリンナイトはレベルが低かった。
「ふっ!」
「ゴブリャガ!」
故に、ロンドのライズブレイドと正面からぶつかり合うという愚行を犯してしまう。
二等級品であるライズブレイドは、ゴブリンナイトが持つ直剣ごと肉体を上下に両断してしまうと、一瞬で白い灰へ変えてしまった。
何が起きたのか理解が追い付いていないエルーカは短槍を握りしめながら口を開けて固まっていた。
「あっ! ドロップアイテムですね」
「……そうですね」
「それじゃあ行きましょうか」
「……はい」
その後もロンドのライズブレイドが凄まじい斬れ味を見せながら、一気に五階層まで突き進むのだった。
※※※※
モニターを見ていた廻はロンドの活躍に笑みを浮かべていたのだが、ロンドの戦いぶりを初めて見る二杉は驚きの表情をしていた。
「さすがロンド君! これならエルーカさんも安心ですね!」
「ロンドは本当に駆け出しなのか?」
「まあ、私がここに来てもうだいぶ経ってますし、駆け出しってわけじゃないと思いますけどね」
「彼なら冒険者ランキングもいいところまでいきそうですね」
「本当ですか! やった!」
両手を上げて喜ぶ廻だったが、ジーンはなぜだか難しい表情をしている。
「ただ、実績を残していないので今の状態では難しいでしょうね」
「実績、ですか?」
冒険者ランキングについて詳しくない廻は首を傾げて聞き返す。
「冒険者にはダンジョンにどれだけ潜っているのか、レアアイテムをドロップさせたかなど、評価ポイントがいくつかあるのです」
「ロンド君は私のダンジョンで結構な回数を潜っていますよ?」
「自分が暮らしている都市のダンジョンでは評価が低く設定されてしまうんですよ」
「そうなんだ。でも、それで6512位ってことはすごいことですよね?」
「……えっ、ロンド君のランキングって6512位なのですか?」
「そうみたいですよ」
今度はジーンが驚きの表情を浮かべている。
今回は二杉も何が驚きなのか分からないようで廻と顔を見合わせていた。
「どうしたんだ、ジーン?」
「……ロンド君はダンジョンに潜る以外で何かしていますか? もしくはレアアイテムをドロップさせたとか?」
「宿屋を手伝ってもらったり、ジーエフにやって来た新人冒険者を助けてあげたり、レアアイテムでいうとライガーの親爪と魔石が出てきてましたね」
「うーん、それくらいでそこまでランキングが上がるとは思えないんですが……どこかのダンジョンに潜ったことは? もしくはレアモンスターを討伐したとか?」
「契約をした時が新人だったからレアモンスター討伐はないと思います。それに他のダンジョンに潜ったことがあるかどうかは分かりませんね。少なくても契約をしてからはないというのは分かりますけど」
首を傾げている二人を見ながら、ゆっくりと声を掛けてきたのはヨークだった。
「ロンドという少年は、レアモンスターと対峙したことはありませんか?」
「対峙、ですか? ……それなら思い当たりますね」
「そうなのか?」
「二杉さんと対決した時があったじゃないですか。あの時にレアモンスターをレアガチャ券で手に入れたんです。あれがなかったら私が負けていたかもしれないってやつですね」
「そうだったのか。……それで、そのモンスターは何だったんだ?」
ランドンのことを聞いていなかった二杉は興味津々で質問を口にする。
ジーンも気になるのか口を挟むことなく廻を見つめていた。
「ランドンです」
「……ランドン?」
「あっ! すみません、それは名前でした」
「モンスターに名前をつけているのか?」
「いいじゃないですか。ランドンはグランドドラゴンです」
「グ、グランドドラゴンですって!」
驚きの声をあげたのはジーンだ。
希少種というのは冒険者の中で有名なのかもしれないと廻は反応を見て感じていた。
「なんだ、レア度の高いモンスターなのか?」
「いえ、グランドドラゴン自体はレア度3だったはずです。ですが、他のレア度3とは違い希少種という珍しい個体なのです」
「そんなやつがいたのか」
「ちなみに、今はレア度4のサウザンドドラゴンになってますよ」
「「……はあ!?」」
さらりと伝えられた衝撃の事実に二杉とジーンは口を開けたまま固まってしまう。
そこに落ち着いた声音で口を開いたのはまたしてもヨークである。
「レア度3進化フードかしら?」
「それです! レア度3獲得数五匹突破の特典で貰えたんですよ」
「……あー、そんなものもあったな」
「……そのタイミングでグランドドラゴンが出るとは。ミツバ様は相当に運が良いのですね」
「本当に運が良かったらもっとレア度3が出てきてもいいんですけどね」
苦笑しながらそう呟いた廻だったが、その視線はモニターに戻された。
「五階層のボスフロアに到着したみたいですよ」
「五階層は確かアイスボムだったな」
「アイスボム?」
初めて聞く名前に廻の視線はモニターに映るボスモンスターを凝視した。
「青い大きな火の玉の姿をしたモンスターだ」
「アイスなのに火の玉なんですね」
「火と氷、両方の属性を持つレア度3のモンスターだ」
「レベルも高いですよ。ロンド君でもさすがに苦戦するかもしれませんね」
ジーンの言葉を受けて、廻はライズブレイドを構えているロンドに視線を戻した。
「……大丈夫、ロンド君なら大丈夫だよ」
自分へ言い聞かせるように呟きながら、ロンドとアイスボムの戦いが始まった。
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