ダンジョン攻略・オレノオキニイリ

第113話:いざ、ダンジョンへ

 翌朝、ロンドはジーエフ以外のダンジョンに潜れるとあって気合が入っていた。

 そのせいで朝も早くから起きてしまい、窓から差し込む光に目を細めている。


「……アークスさんのためにも、頑張るぞ!」


 ロンドが気合を入れている理由はもう一つ――アークスが作るかんざしを完成に導くため。

 素材のモンスターはどちらもレア度3の強敵である。知識として知ってはいるものの、実際に対峙してみないと分からないこともあるだろう。

 万全を期すために昨日は今日に備えて早い時間に就寝していたので体調も申し分ない。

 腰に差したライズブレイドの柄に触れながら、ロンドは部屋を後にした。


 ※※※※


 一方、エルーカの表情は晴れることなく今日のダンジョン攻略に不安を覚えていた。


「ほ、本当に大丈夫なのかな? ロンドさんの後ろに隠れているつもりだけど、やっぱり何かあった時には私が前に出るべきだよね? でもでも、そんなこと今までしたことないし……」


 そんなことを繰り返しブツブツと呟いている。

 特にレア度3のモンスター素材が必要ということで、対峙することは確定事項である。そのこともエルーカの不安を煽る一因になっていた。


「……私、生きて帰ってこれるかな」


 後ろ向きな発言ばかりのエルーカを慰めてくれる人は子の場にはいない。

 自分で自分を鼓舞しなければならないのだが、今のエルーカにはそれができないでいた。


「同じ新人冒険者……実力にはそれほど違いはないわよね? ……ふ、不安しか出てこないよ!」


 という感じで自分が二人いてもダンジョン攻略はできないのだと思いこんでしまっていた。

 エルーカは暗い表情のまま、部屋を後にした。


 ※※※※


 朝食を食べながら本日の予定を確認するのだが、予定は一つしかない。


「ロンド君! 絶対に無事に帰ってきてね? 何かあったらジーンさんが助けに行くから諦めないでね!」

「あはは、大丈夫ですよ。エルーカさんもいますし、無理はしませんから」

「三葉、お前は心配し過ぎだ。そんなに心配されたら信用されていないと思われるぞ」

「私がロンド君を信用していないだなんて、あり得ませんから!」

「いや、それは分かってるが、例えじゃないか……」


 そんな廻と二杉のやり取りがあったりしながら時間は過ぎていき、朝食も終わりロンドとエルーカが立ち上がった。


「それでは皆さん、行ってきます」

「……はぁ」

「エルーカ、あなたはまだ溜息なんかついているの? ミツバ様が信用しているように、パーティを組むあなたもロンド君を信用しなければならないのよ?」


 ジーンの叱責を受けて、エルーカは涙目を浮かべながらも何も言わずに再び俯いてしまう。


「仕方ありませんよ。僕も新人冒険者ですし、何より初めて潜るダンジョンですから」

「だからこそ、エルーカがしっかりしてロンド君をサポートしなければならないのです」

「ダンジョンを進みながら、少しずつ信用してもらえればいいですよ」


 笑顔のロンドに軽く頭を下げているジーン。この光景も初対面からは全く想像できないだろう。


「ダンジョンには私がご案内いたします」

「ありがとうございます、ラスティン様」

「……はぁ」


 往生際の悪いエルーカの背中を叩いて食堂から追い出したジーンの表情はやや疲れている。

 ジーンとしてはここまでエルーカが渋るとは思っておらず、廻達に申し訳なく思っていた。


「まあ、エルーカちゃんは女の子だもんね」

「それを言ったらスプラウト様の女性ですよ?」

「そこはほら、経験の差だよ!」

「お前、軽くジーンのことをディスったか?」

「そ、そんなことないわよ! なんでアークスさんも二杉さんも私を陥れようとするんですか!」

「あは、あはは」


 しかし、廻とアークスと二杉の会話を聞いた後では申し訳ないという気持ちもどこかに飛んでいってしまう。

 最後はジーンの乾いた笑い声が食堂に響いた後、アークスだけは経営者の部屋に入れないこともありヴォルグの鍛冶屋に向かうことになった。

 アークスを見届けた廻、二杉、ジーンの三人はそのままオレノオキニイリの経営者の部屋へと移動した。


 ※※※※


 経営者の部屋は話に聞いていた通りどこも真っ暗である。

 それでもお互いのことがはっきりと見えているのはここが経営者の部屋だからだろう。

 廻は神の使いがニャルバンのように猫なのだろうと勝手に思っていたのだが――


「――おかえり、レオよ」

「只今戻りました、ヨーク様」


 オレノオキニイリの神の使いは猫ではなく――大きな羊だった。


「……ひ、羊?」

「見た目はそうだな。ニャルバン様は猫だったな」

「ほほほ、そちらの経営者にはニャルバンがついているんだねぇ。……あの子、物忘れが酷いんじゃないのかい?」

「まさしくその通りです! ヨーク様はニャルバンを知っているんですか?」


 ずばりニャルバンの正確を言い当てたヨークに廻は驚きの声を上げる。


「私は神の使いとして長年仕えていますからね、知っていますよ」

「……こ、こんなに落ち着いた神の使いだなんて、ニャルバンとはえらい違いだわ」

「俺もニャルバン様を見たが、全く違うよな」

「ほほほ」


 そんな話をしていると何もない空間に机が一つと椅子が三脚現れて、机の上には冷えた水が注がれたグラスが三つ載せられている。

 このあたりはジーエフも変わらないのだなと内心で思いつつ椅子に腰掛ける廻。

 二杉が次に座り、それを見てジーンが腰掛けた。


「そろそろラスティン達がダンジョンに到着する頃か」

「だったら早速見ましょう!」

「ま、まだ潜ってはいないだろうに」

「二杉さんは心配じゃないんですか!」

「……分かった、モニターを映そう」

「ほほほ、面白い経営者だこと」


 ヨークは大きな体を横たえて首だけを伸ばしモニターを見つめる。

 全員の視線が集まったモニターは、ダンジョンの入口を映し出していた。


 ※※※※


 ダンジョンの入口前に立つロンドは表情を引き締めており、エルーカもここまで来たらと心を決めたのか口を引き結び入口を見つめている。


「それではロンド様、エルーカさん、いってらっしゃいませ」

「はい」

「……はぃ」

「……エルーカさん、大丈夫ですよ。無理はしませんから」


 短槍をギュッと握りしめているエルーカに優しい笑みを浮かべて声を掛けるロンド。


「だ、大丈夫です! 腹はくくりましたから」

「……あはは、はは」


 ロンドはエルーカの態度に一抹の不安を抱きながらダンジョンへと潜っていった。

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