第115話:ロンドの実力
地面から一メートル程で浮いているアイスボムは予備動作なく前進を開始すると、口と思われる部分が大きく開き青い火の玉を吐き出した。
後方に控えているエルーカが小さな悲鳴を上げながらも射線上から移動しているのを確認したロンドは即座に横へ飛び退き火の玉を避けると、こちらかも前進を始める。
一気に間合いが詰まったロンドとアイスボムだったが、アイスボムは突如として後退を始めるとそのままの態勢で今度は氷の槍を吐き出した。
「ふっ!」
ロンドが選択したのは回避――ではなく迎撃だった。
迫る氷の槍をライズブレイドで斬り上げると、後続の槍を袈裟斬りからの横薙ぎで次々と両断していく。
アイスボムからすると予想外の行動だったが遠距離攻撃を持っている分、自分が有利な立場にあるという事実に変わりはなく今度は火の玉を吐き出そうとした。
「——
距離を保ちながらの攻防ならばアイスボムが有利だっただろう。
だがロンドが彼我の距離を詰めるために切り札であるスキルを発動させたことで戦況は一気にロンドへと傾いた。
「ボムムッ!」
「はあっ!」
振り向かれたライズブレイドから逃れることができなかったアイスボムは一瞬にして白い灰へと変わりボスフロアへと広がっていった。
その様子を見ていたエルーカは、ロンドがゴブリンナイトを倒した時以上の衝撃を覚えていた。
「あっ! 今回もドロップアイテムが出ましたよ!」
「……」
「あの、エルーカさん?」
「えっ? ……あぁ、ドロップアイテムですね」
呆けた様子でアイテムを回収しているエルーカに、ロンドは不安を感じて声を掛けた。
「あの、どうしたんですか? 僕が何かしましたか?」
「……その、ロンドさんは、本当に新人冒険者なんですか?」
エルーカの口から飛び出した言葉にロンドは首を傾げてしまう。
「そうですね。でも、ジーエフに来てから日にちは結構経っているので新人と言っていいのかどうかは疑問が残るところですけど」
「……でも、ジーエフ以外のダンジョンに潜るのは今回が初めてですよね?」
「えっと、そうですね」
そこまで口にするとエルーカは黙り込んでしまった。
「……あの、エルーカさん?」
「……ロンドさんは、強いんですね」
「強い、ですか?」
「はい。私はジーンさんや他の冒険者の皆様にくっついていつもダンジョンに潜っていました。だから、今回ロンドさんと二人で潜るって聞いた時にはどうしたらいいのか分からなかったんです」
「……僕にくっついて行くのが怖かったんですね」
「違います! ……いえ、すみません、そうです。私は、怖かったんです」
ジーンの実力を知っているエルーカは二人でも大丈夫だった。
他の冒険者と潜る時は三人以上のパーティだったので安心できた。
しかし、今回はどちらとも違う状況で混乱していた。
「僕は自分が強いとは思っていません。今のだって、勉強していたモンスターだったから対処できただけです」
「それでも、体がすぐに動くのはすごいと思います」
「それは、エルーカさんがいたからですよ」
「……私が、ですか?」
予想外の言葉にエルーカはキョトンとしてしまう。
「エルーカさんがいてくれたから、僕は力を出せているんだと思います。でも、僕もまだまだ半人前の冒険者なので、一緒に戦ってくれると助かります」
最後は笑みを浮かべながら優しい声音でそう告げる。
「……私なんかで、役に立ちますか?」
「もちろんですよ。だって、エルーカさんはジーンさんが認めた才能を持っているんですから」
「……それなら、ロンドさんの方がすごい才能の持ち主なんじゃないですか? アルバス・フェローさんの弟子なんですから」
「あー、アルバス様はメグル様のお願いで僕を弟子にしてくれているので、僕に才能があるわけではないと思いますよ?」
苦笑しながらの答えに、エルーカは今日初めての笑顔を浮かべた。
「……うふふ、そうなんですか?」
「そうですよ。だから努力もしますし勉強もするんです」
「……よーし、私も頑張らなきゃ! ロンドさん、よろしくお願いしますね!」
「こちらこそよろしく」
気持ちの切り替えが完了したエルーカは気合いを入れながら短槍に力を込めた。
ロンドは大きく頷くと、六階層に続く階段を下りていった。
※※※※
モニターを見ていた廻達の反応は様々だった。
廻はアイスボムを圧倒したロンドの姿に喜び、二杉は感心したように目を見開き、ジーンは驚きのあまり口を開けたまま固まってしまう。
ヨークだけは体を寝かせたまま表情を変えることなくモニターを見つめていた。
「さすがロンド君! このままダンジョン攻略だ!」
「いや、俺のダンジョンはそう簡単に攻略できるものじゃないぞ!」
「……ロンド君、すごいですね。それと、今回の目的は素材であって攻略ではないですよ?」
ジーンだけが冷静にツッコミを入れていたのだが、内心ではこのまま二人でダンジョン攻略ができればエルーカの成長にもつながるかもしれないと思っている。
そんな思いを知らない二人はお互いにダンジョンについて言い合いを始めてしまった。
「ランキングは低いが冒険者からの評判は上々なんだ、新人冒険者に攻略されるわけがない!」
「ロンド君はもう新人じゃないですよ! それにアルバスさんに教えてもらっているんだから同期の中でも上なんですからね!」
ぐぬぬ、とにらみ合いになっている二人を見てジーンは溜息を漏らしながら冷静に意見を口にする。
「ロンド君の剣もとても良い品ですね。あれはアークスが打ったのですか?」
「そうですよ! えっと、二等級なんです!」
「なるほど、それならばあれだけの斬れ味も納得ですね。しかし、新人冒険者に二等級品というのは豪華すぎませんか?」
「ロンド君なら問題ありません! すぐに上位へ駆け抜けていきますから!」
「冒険者ランキングを駆け上がるのは難しいですよ? 私を含めて、多くの冒険者がしのぎを削っていますからね」
厳しくも正しい主張に、それでも廻はロンドを信じていた。
「ロンド君が努力している姿を私は見てきました。その努力が報われないだなんて、私は信じたくありません。もしロンド君だけの力で駆け上がるのが難しいなら、私が全力で協力するんですからね!」
「協力って……はぁ、もう私は何も言いません」
「……えっ、なんで呆れられてるんですか?」
「経営者がたった一人の冒険者のためだけに協力するだなんて、普通ならあり得ないからな」
経営者は都市のために契約者や住民たちに協力をさせることはあっても、自らが協力することなどあり得ない。
廻の性格をある程度理解し始めている二杉は納得していたのだが、ジーンはやや呆れてしまった。
ただ、二人よりも驚いていたのっはヨークだった。
「……メグルは、とても面白い経営者なのですね」
「そうでしょうか? みんなのために頑張るのは経営者だったら普通だと思うんですけど?」
「そう……そうですね、それが本来あるべき姿なのかもしれませんね」
「……ヨーク様?」
少し懐かしそうな声音になったヨークのことが心配になり廻は名前を呼んだのだが、ヨークはいつもの笑みを浮かべて口を開く。
「……どうやら、二人が一二階層へ到着したみたいですよ?」
「えっ! は、早くないですか!」
「しまった、全く見ていなかったぞ!」
「……もう、二人とも何をやっているんですか」
ここまで来たらジーンも廻への口調が砕けたものとなり、全員の視線はまたモニターへ戻っていた。
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