第101話:神様とは?
廻が目を覚ますと、目の前にはエルーカの顔がありとても困惑した様子だった。
「どうしたの、エルーカさん?」
「いえ、あの、扉の外から何度もお呼びしたのですがお返事がなかったので、フタスギ様が心配されていたんです」
「あー、そうだよね、ごめんなさい。ちょっと夢の中で神様と話してたの」
「……へっ? か、神様?」
「うん。たぶん、二杉さんなら知ってると思うけど……ご飯だったよね、行こうか」
「……は、はぁ」
いつもと変わらない廻の様子にホッとしたような、それでいて困惑しているエルーカと共に部屋を後にした廻は食堂へと向かった。
※※※※
廻達が食堂に着くと他の面々はすでに揃っていた。
「三葉、大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
「……本当か?」
先ほどまでとは打って変わり反応が芳しくない廻を見て二杉は心配そうに声を掛ける。
その様子に気づいたのか、廻は早速神様に着いて聞いてみることにした。
「……二杉さんは転生した時のことを覚えていますか?」
「転生した時のこと? ……いや、俺は自分が死んだと思って意識を失い、気がついたらこの
「……えっ?」
予想外の答えに今度は廻が困惑する。
「あの、神様には会いましたよね?」
「神様だと? そんな存在には会ったことがないぞ。神の使いのことではないのか?」
「……うそ」
「あの、メグル様。神様っていうのは、よく話に出てきたあの神様ですか?」
「う、うん。私はてっきり転生者は全員会っているものと思っていたんだけど……」
二杉は会っていないと口にする神様という存在。
神の使いがいるのだから神様が存在するのも間違いはないはずなのだが、いったいどういうことなのだろうか。
「……そ、それじゃあ、真っ白な空間については?」
「それも知らんな。
「ち、違います! ……それじゃあ、私は誰に会って、どこにいたの?」
廻は神様の存在に疑問を抱くようになってきていた。
「……どうでしょう。気分を変えるためにもそろそろ食事を始めませんか?」
ラスティンは廻の様子を見て気を利かせて、二杉もこの提案に乗っかり食事を運ばせることにした。
気落ちしていた廻だったが、並べられていく食事を目にして徐々に気持ちが浮上してきたのか曲がってした背筋がまっすぐになっていく。
そして、最後に登場した鳥の丸焼きを目にした途端に両手を上げて歓喜の声を上げていた。
「肉ー!」
「……よ、喜んでもらえて光栄だ」
「二杉さん、ありがとうございます! しかも丸焼きですよ、こんなもの日本でもなかなか食べたことないですよ!」
しかしあまりの喜びように二杉は引き気味になってしまう。
そんなことはお構いなしの廻の視線は鳥の丸焼きに釘付けで他の料理には目もくれていない。
「……ミツバ様、ちゃんと前菜から食してくださいませ」
「うっ! ……ラスティンさん、私は食べたいものから――」
「ダメでございます。食事はバランスが大事なのであり、フタスギ様にもバランスよく食べていただいております」
「私はお客様であって――」
「ダメです」
「……」
「あー、三葉。こうなったラスティンは俺が言っても譲らないから前菜から食べてくれ」
表情は笑顔なのだが、目が笑っていないラスティン。
経営者である二杉の言葉にも譲らないと言っているのだから廻の我儘を許すとも思えない。
「……分かりました」
「ありがとうございます」
「で、でも! 鳥の丸焼きは少し多めに食べさせてください! ものすごく食べたいんです!」
「かしこまりました」
「本当ですか!」
「その分、他の料理も食べていただきますね」
「……いや、そういうことではなくてですね?」
「食べ盛りというのは良いものですねぇ」
「……もうそれでいいです。頑張って食べます」
「……三葉、何だかすまんな」
何故だか二杉が謝る羽目になってしまったものの、そのまま食事は始まった。
最初は落ち込んでいた廻だったが前菜を口にした途端にさっきまでの態度はどこへやら、あまりの美味しさに手が止まらなくなっていた。
「うわあ! これ、素材の味がとても濃厚ですね!」
「食事にはこだわっているからな。当然、材料から新鮮なものを取り寄せている」
「うぅーん! スープも美味しいわ! これ、ものすごく時間を掛けて煮込んでいますね!」
「分かるのか?」
「もちろんですよ! これでも日本にいた頃は色々なバイトを掛け持ちしてましたからね! 飲食店のバイトもその一つでよく厨房の手伝いもしていたんですよ」
「そういえばメグル様の料理も美味しかったですね」
「うふふ、ありがとうロンド君」
カナタ達を助けた時に行われたお疲れ様会で振る舞われた料理の中には廻お手製の料理も含まれていた。
簡単な手の込んでいない料理ではあったものの褒められると嬉しいもので、廻は自然と笑みをこぼしていた。
「経営者が料理とか、普通はしないんだがな」
「でも、二杉さんだって日本の料理が食べたくなる時ってありませんか? 私はありますよ。だからニーナさんにお願いしてたまーに厨房を貸してもらっているんです」
「えっ! あの時だけじゃなかったんですか?」
「私が食べたい時に私だけが食べてるからね。もしかして、ロンド君も食べたかったの?」
「……はい。あまり食べたことのない味付けでしたけど、とても美味しかったので」
ロンドの言葉に本気で照れてしまった廻を頬を少しだけ紅く染めている。
二杉はというと、この世界の料理に慣れてはきたものの廻の言う通り日本の味付けを食べたいと思ったことが時折あった。
しかし自分が料理をできないこともあり諦めていたのだ。
「……も、もしよかったら、うちの料理長に日本の味付けを教えてくれないか? いや、無理ならいいんだ。忘れそうになるが、三葉も経営者なんだからな」
「全然構いませんよ」
「本当か!」
「もちろんですよ。この世界の料理も美味しいですけど、たまには懐かしい味に舌鼓を打つのもいいものですよね」
笑顔の廻に対して、二杉は顔を真っ赤にして何度も頷いている。
「だけど、私なんかの味付けでいいんですかね? バイトはしていたと言いましたけど料理人ってわけじゃないですよ?」
「構わん! むしろ庶民の味付けの方がいいに決まっている!」
「そうですか? それなら安心しました」
それからはみんなが料理に舌鼓を打ち、廻も待望の鳥の丸焼きに辿り着いたことでひたすらに食べ進めていく。
最初は緊張していたアークスも廻と二杉の会話を聞いてほぐれてきたのか普段と変わらない様子で食事を楽しみ、ロンドとも普通に会話をしていた。
「……うぅ、お腹が痛いです」
二杉に声を掛けられて日が浅いエルーカだけが唯一緊張しており、そんな言葉を落としていたのだった。
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