第36話:廻の想い
カナタ達がボスゴブリンと戦っている姿を、
必死になっている姿を見て応援したり、危ない場面では悲鳴をあげたり、そんな中でもロンドの成長を目の当たりにして嬉しく思ったり、様々な感情の移り変わりがあった。
ボスゴブリンが倒されるとホッとし、まさか二階層に降りないかとハラハラし、戻ってくる姿を見て再びホッとしたり。
住民ではないカナタ達のことを心底心配しているのが一目で分かってしまう。
そして、誰一人として欠けることなく地上への道を進んでいる。ならば、出迎えの準備をしなければならない。
「よーし! ニーナさんに声を掛けて歓迎会の準備をしなきゃ!」
「メ、メグル? 冒険者が宴をするのはダンジョンを攻略した時くらいだにゃ。今回は、いわば攻略失敗だから、歓迎にならないのにゃ」
ニャルバンが言うことは正しかった。
カナタ達はジーエフを攻略する為にここまで来ている。だが、五階層ある中のたった一階層で全滅の危機に遭い、逃げ帰ってきている。
全員が助かったからといって、歓迎会というのは些か難があった。
「それじゃあ、ロンド君とアルバスさんのお疲れ様会でどうかしら!」
「そ、そんなに会を開きたいのかにゃ?」
「何かを口実に、三人が無事に戻ってきたことを祝いたいのよ!」
「でも、メグルはダンジョンの経営者で、ダンジョンが攻略されるのを阻止する側なのにゃ」
ニャルバンは廻の態度が経営者としてどうなのかと疑問を呈している。
それでも、廻はお構いなしだ。
「でもさ、三人が死んじゃってたらジーエフの評判が広がらないじゃないの。やっぱり生きて帰ってきてくれたのは良いことだよ」
「それはそうだけどにゃー」
「……ねえ、ニャルバン」
しかし、廻の声音が急に問い掛けるように変わり、ニャルバンは首を傾げながら見つめる。
「確かにダンジョンもモンスターも大事だなって思うよ。だけどさ、それと同じくらい……違う、もしかしたらそれ以上に、そこで暮らす人の良さって大事じゃないかって思うんだ」
「人の良さにゃ?」
「うん。どれだけダンジョンが面白くても、そこで泊まる宿屋の店主だったり、換金所の管理人だったり、道具屋の店主だったりが嫌な人だったら、その都市にいたくなくなるんじゃないかな? これって、経営者が悪い人ってのと同じくらい、嫌なことじゃないかな?」
「にゃにゃ……そう言われると、そうかもしれないにゃ」
ニャルバンはダンジョンのことは詳しいが、都市については全く分からない、知識がないのだ。そのせいか、ダンジョンが一番だと思っている節が強い。
一方の廻はダンジョンについては全く分からないが、人が大事だと言うことは知っている。大人になり、様々な国を訪れた廻だからこそ、その国や都市の良さに敏感になっているのかもしれない。
「ダンジョンと都市、そこに住む人。全てがうまく回らないと人気ダンジョンを作ることはできないのかもしれないね」
「そうかもしれないにゃ。ニャルバンもたくさん勉強して、メグルの役に立つのにゃ!」
「もちろん! 頼りにしてるんだからね~!」
そこまで話終わると、ニャルバンに断りを入れて
※※※※
「ニーナさん!」
「あら、メグルさん。どうしましたか?」
「三人が無事に帰ってくるから、ロンド君とアルバスさんのお疲れ様会をしましょう!」
「お疲れ様会ですか? うふふ、面白そうですね」
「ですよね! 三人も呼んで、みんなで楽しみましょう!」
廻の提案にニーナは笑顔で了承を示してくれた。
「あぁ、ですがロンド君が出ているので手伝いはどうしましょうか」
「私がやります!」
「そうですか? 経営者様に手伝いなんてやらせていいのかしら」
「言い出しっぺは私ですからね! これくらいお安いご用ですよ!」
力こぶを出して笑顔を浮かべる廻に対して、ニーナは料理をどうしようかと声を掛けてくる。そこにタイミングよくポポイがやってきたので巻き込むことにした。
まあ、ロンドとアルバスも強制参加なので、ポポイだけのけ者にするわけにはいかないから結局は巻き込むことになるのだが。
そうして台所でワイワイしていると——五人が戻ってきた。
「みんな! 無事に戻ってきてくれてありがとう!」
そう声を掛けた廻なのだが、当の三人はポカンとした表情を浮かべていた。
「えっと」
「その」
「あなたは」
「「「誰ですか?」」」
「…………えっ?」
よくよく考えてみれば当然である。廻からは三人が見えていたが、三人からすると廻は初対面なのだ。
「あー、そうですよね。皆さん、この方がジーエフの経営者様です」
「「「…………ええええええぇぇっ!」」」
三人のイメージからは大きく異なる廻の姿に驚きすぎて声を上げてしまう。
「な、なんでそんなに驚くのかな?」
「あー、えっと、僕達が暮らしていた都市の経営者様と違いすぎたので」
「そうなんだ。でも、私はこんな感じだから気を使わなくていいからね!」
「いいのかな、トーリ君?」
「ぼ、僕に聞かれても分からないな」
困惑する三人に助け舟を出したのはアルバスだった。
「こいつには本当に気を使わなくていいぞ」
「アルバスさんはもう少し私のことを敬ってくれていいんですよ?」
「誰がてめえなんかを敬うかよ」
「またてめえって! 私の名前は廻ですってば! め、ぐ、る!」
「へえへえ、そうですか」
軽くあしらうアルバスに腕を振り上げて怒っている廻。
二人のやりとりを見てさらに困惑する三人だったが、ロンドが苦笑を浮かべながら声を掛けた。
「いつもこんな調子なんだ」
「い、いつもなのか?」
「二人は仲良しだからね」
「「違う!」」
「あはは、ほらね? 息ぴったりでしょ?」
この中で笑顔を浮かべているロンドが一番の大物なのではないかとカナタは顔を引きつらせてしまう。
「みんなはアルバスさんみたいになっちゃダメだからね? 素直に生きるんだよ? 特にロンド君はアルバスさんに師事しちゃってるんだから気をつけるんだよ?」
「おいてめえ、俺が悪いみたいじゃねえか」
「どう見ても態度は悪いですよね?」
「こ、この野郎」
握りこぶしを見せるアルバスに対して、廻は満面の笑みを浮かべている。最終的にはいつもアルバスが引いているのだが、これは単純に面倒臭くなっているだけだ。
「皆さん! 後ほど私の道具屋にも寄ってくださいね! 面白い道具が売られていますから!」
「ちょっとポポイさん! 今は宣伝を控えてくださいよ」
「だけどさメグルちゃん! 宣伝は大事なのよ!」
「分かってるけど、今はみんなで楽しく食事をするんだからね」
「ぐぬぬ、それじゃあ、明日は必ず来てくださいね! 絶対ですよ!」
廻の注意を振り切ろうとするポポイにも呆気にとられている三人に、ニーナさんが優しい声音で話し掛けた。
「皆さんが無事で本当に良かったわ。今日はメグルさんのご意向で美味しい食事をご用意していますから、一緒に食べましょう」
「お、俺達もいいんでしょうか?」
「みんなが無事に帰って来たからこその食事会なんだもの、ぜひ参加してよね!」
「メグル様もそう言っていますから、みんなで食べましょう。僕もうお腹ペコペコですよ」
「……それでは、ありがたくいただきます」
「楽しみだね!」
最初は遠慮がちだった三人だが、ロンドに促されることで了承した。
そもそも、お金もあまりなかった三人である。ダンジョンではろくにアイテムを手に入れることができずに金欠が加速するところだったので、この提案は懐にも嬉しかった。
こうして、ジーエフ最初のダンジョン探索は終了した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます