第13話:モンスターの成長

 ニーナとの契約を済ませためぐるは、並行してモンスターの成長と配置にも頭を悩ませていた。アセッド大陸に転生して九日目なので当然といえば当然なのだが。

 今の廻は手元に複数のモンスターがいるので育てるモンスターと素材にするモンスターを選んでいるところだった。


「えっと、ライは確定で育てるとして、せっかくだし最初に手に入れたスラッチとゴブゴブも育てようかな。あとは――」

「メグルメグル! そんなモンスターはいないのにゃ!」


 廻の呟きを聞いていたニャルバンが声を掛けてきた。


「えっ? あぁ、今のはモンスターの名前よ」

「名前? そんな名前のモンスターはいないのにゃ」

「私がつけたのよ。ライガーのライ、スライムのスラッチ、ゴブリンのゴブゴブ」

「モンスターだにゃ? 名前が必要かにゃ?」

「せっかく育てるんだから、愛着があった方がいいでしょ」


 困惑するニャルバンを見て、何をそんなに困惑しているのか廻は聞いてみた。


「だって、モンスターに名前をつける経営者なんて聞いたことがないにゃ」

「そうなんだ。やっぱりみんな戦って死んで、復活したらまた普通に戦わせてってやってるんだろうね」

「それがダンジョンなのにゃ」

「そっか、それもそうよね。でも私は楽しく経営をしたいから名前をつけちゃうのです!」


 うふふと笑いながら再びモンスターを選んでいく。

 ライ、スラッチ、ゴブゴブは確定としても、それだけでは到底足りないのだ。


「ってかさぁ、このガチャって同じモンスターばっかり出てくるんだけどちゃんと機能してるのよね?」

「もちろんにゃ! 同じモンスターは昇華と進化に使えるから大事なのにゃ!」

「それは分かってるんだけど、三匹以外のモンスターがあまり出てこないからさ」


 本日のガチャも終えた廻のモンスターは二七匹。ライガーが二匹、スライムが八匹、ゴブリンが十匹。残りの七匹のうち二種類が新しいモンスターだ。

 三匹がキラービー、四匹がマジシャン。どちらもレア度1であり、オートに名前を連ねるモンスターだった。


「ザコモンスターばっかりじゃないの! レア度2がライだけって、しかも増えたのも一匹だけだし、どうなってるのよ!」

「ガチャは運だから仕方ないのにゃ」

「私の運がないっていうの!」

「そ、そんなことは言ってないのにゃー」


 キラービーは蜂を大きくしたような見た目のモンスターでお尻の針には毒を持っている。毒消しを持っていなければ徐々に体力を削られてしまう為、新人冒険者が最初につまづくことの多いモンスターだ。

 マジシャンはシルクハットを目深に被り右手にロッドを持っている。レベルが低いと名前負けしてロッドで殴りかかるだけのモンスターだが、レベルが上がれば様々な魔法を使う為、キラービーと並んで新人冒険者を脅かす存在である。

 レア度1の中では上位のモンスターなのだが、レア度にしか目が行っていない廻にとってはどうでもいいことだった。


「昇華させるにもレベルを最大まで上げないといけないんでしょ? 今のままじゃダメよね」

「モンスターもダンジョンも少しずつ成長するものなのにゃ。焦りは禁物なのにゃ」

「そうだけどさー。ロンド君やニーナさんと契約できて人は揃ってきてるのに、肝心のダンジョンとモンスターがこれじゃあ経営にならないよ」


 机に突っ伏してしまった廻は、メニューのモンスター画面を見ている。

 いくら見ていても増えることのないモンスターだが、ふと気になったことをニャルバンに聞いてみた。


「他の人達はどうやってモンスターを集めてるのかな?」


 廻の場合はギフトでノーマルガチャを一日三回引くことができる。他の人達も同じようにギフトで引いているのか、それともレアガチャとは異なりノーマルガチャを引く方法があるのだろうか。


「ほとんどの人がギフトで引いてると思うにゃ。レアガチャと同じでランキングとかイベントの報酬もあるにゃ」

「それじゃあレアガチャと全く同じじゃない。ノーマルなんだから簡単に引ける方法とかないの?」

「それならお金で引くこともできるにゃ」

「えっ? お金でガチャが引けるの?」


 初耳なだけに体を起こして前のめりに聞く態勢に入る。


「引けるけどノーマルガチャだけにゃ。それに、引くには千ゴルが必要だからお金持ちじゃないとすぐにお金がなくなるにゃ」

「せ、千ゴルもかかるの? そりゃ無理だわ」


 淡い期待が崩れたこともあり再び突っ伏す廻。


「はぁー。モンスターを使わずに、殺されずにレベルを上げる方法ってないのかなー」

「ん? 経験値の実のことにゃ?」

「…………えっ?」


 サラリと重要なことを言ったニャルバンを見つめながら廻は固まってしまう。

 首を傾げているニャルバンは、自分が大事なことを言い忘れていたことに気づいて慌てて補足を付け足した。


「ご、ごめんなのにゃ! 経験値の実のことを伝え忘れてたのにゃ!」

「それって、とっても、とっても、とーっても、大事なことよね?」

「本当にごめんにゃ! でもでも、すぐには手に入らないものだから許してほしいのにゃ!」

「……何で手に入らないのよ」


 許す代わりに質問に答えろ、そう無言の圧力かけてくる廻に答えるニャルバン。


「経験値の実もランキングやイベントで手に入るけど、それ以外だとモンスターの所有数とかでプレゼントされるのにゃ!」

「モンスターの、所有数?」

「累計でどれだけモンスターを手に入れたとか、何種類のモンスターを手に入れたかとかにゃ! たくさん手に入れたら、その分のご褒美として神様からプレゼントされるにゃ!」

「それって、プレゼントというよりは決められた特典じゃないの?」

「そうとも言うのかにゃ?」

「……まあいっか。とにかく、たくさんのモンスターを集めたら経験値の実は手に入るのね?」

「その通りにゃ!」


 ただガチャを引いてレア度の低いモンスターを集めることに飽きていた廻にとって、経験値の実が手に入るとなれば話は変わってくる。

 モンスターを極力減らさずにレベル上げができるのならそれに越したことはない。


「種類は全然集まってないから、狙うなら累計よね。何匹目から貰えるとか分かるかな?」

「最初は五十匹だったはずにゃ!」

「……まだまだ先ね」

「それまでには残りの人とも契約して、ダンジョンに専念できたらいいにゃ!」

「それもそうね。できるところからやっていかなきゃだもんね」


 今できることはモンスターの配置を考えることと、残りの道具屋と換金所の人を雇うことである。

 モンスターは一日三回という制限があるので、ニャルバンが候補の人を見つけてきたらすぐに交渉することが現実的だろう。


「頼りにしてるわよ、ニャルバン」

「任せるのにゃ!」

「まあ、頼れるのがニャルバンしかいないってのが本音だけどねー」

「そ、それは酷いのにゃ!」

「あはは、冗談だよ」


 廻の一日のほとんどはこのように過ぎていく。

 ダンジョンの開放もしていない今、交渉がなければガチャを終わらせるとやることがないのだ。


「……はぁ、暇だわ」

「すぐに忙しくなるからそれまでの辛抱にゃ!」

「だといいんだけどね」


 早く人とモンスターを揃えてダンジョンを解放したい、そう思う廻なのだった。

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