反異界主義者と異世界FTA(2)

僕が今回の能力の代償として選んだのは、5年前の記憶だ。


「カナタは男だな。髪がゴワゴワしている」

 そういって僕の頭を触る彼女は、女性にしては背が高く170cmを優に超える。

 僕は初めて女性に頭を触られたため、とても動揺して身じろぎした。

「…ああ。すまないな…」

 そんな僕を見て彼女はとても申し訳なさそうに、そして寂しそうに微笑んだ。

 僕は、焦って何かを彼女に伝えた気がする。とても恥ずかしい言葉だった。

 強く記憶されていた。そして僕はそれを上書き可能なゴミ記憶して分類した。


⇒予備消去記憶(対象:過去15分)






____________________

狡猾で卑怯な世界の者に告げる


我々は、貴様らが目論む支配に屈することは断じてない。

他の世界を奴隷とし富を築く目的に、我々を巻き込むことは断じて許されることではない。


紫電の龍

F そして R

____________________


「これがカードに記載されていた文章か…。少しバカっぽいな。直訳か…?」


僕はカードを読みつつ報告文を思案する。

あのハイヒールの跡、そして抜けた床から相手は相当の熟練度を持った戦士と考えて良いだろう。

変装はしているが、かなり体格が良く目立つ女性であるはずだ。

それがこのカードに書かれている F か R のどちらかという訳だ。


僕は、カードとその他で知覚した内容をメールにまとめ、秋山に送信した。


すぐさま秋山から通話が来た。

『柊。ご苦労さま。今日のところはそのまま帰っていいわ。放火の方からも、ハイヒールのピンの跡がでたわ。捜査が進むまで、あなたのやることはないわ』


「…ひとつだけ聞かせてください。これくらいの物証なら僕が行かなくても出てきたはずです。それに警察は対策局の協力を渋っている節がありました」


「…あなたには関係ないことよ」


秋山は面倒くさそうにため息をついた。


「確かに関係なかったです」

僕は只の現場作業員に過ぎない。保護された生還者サバイバーとして義務を果たしているに過ぎない。

「けど、身内が死んでいるんです。全力を尽くしたいです」


秋山は再度面倒臭そうにため息をついた。



XXXXXXXXXX



車で、世田谷区、千歳船橋にある柊家のお屋敷に帰った。

入り口でIDを通し、セキュリティを解除する。

その際、能力を発動したことによる残滓を探知されたのか少々時間が取られる。


「カナタ、帰りました」


エントランスにて館内連絡を入れる。


「お疲れ様。カナタ」


奥の部屋から冬美がのそっと顔を出す。


「冬美、お嬢様は?」


「今はお風呂よ。料理お願いしていい?私も入りたくて」


冬美もどうやら大分振り回されたらしく、くたびれていた。


「もちろんだ。といってもいつもの簡単な料理になっちゃうけど」


「カナタの料理はあれで、お嬢様のお気に入りよ。私も好きだし」


「ありがとう。腕がなるよ」


「フフっ。乗せると作ってくれるから楽でいいわ」


冬美はそう言って笑いながら奥に引っ込んだ。

料理は担当が辞めてからいつも作らされているが、冬美の笑顔は僕の癒やしだったので苦ではなかった。



XXXXXXXXXX



「それで、今回はどのような件だったの?」


「はい。お嬢様。詳しくは後ほど1課の秋山に送った報告書を転送させていただきますが、端的に申し上げますと、テロです。それもSTR型来訪者ビジターでかなりの使い手です」


「また物騒な…。実力的にはどれほどと見る?」


「第3級程度と見てます。わかっているだけでも、1人は拳1つで相手を爆散するほどの実力です」


「あなたは対策局2課に属してはいますが、まずは私の命を守ることが最優先よ。自分の首に何が着いているか決して忘れないように」


美鈴はそう言って首元をトントンと指で指した。

僕の首にあるチョーカー。僕が逆らうと爆発する首輪をしめしたのだ。


「わかっております」


「どうだかね…」


美鈴は基本的に僕を信用していない。この家に来てからもう4年になるが、未だにこの調子だ。

冬美はお嬢様の後ろで困ったように笑っていた。


「お嬢様に危険はないんでしょ?」


「経済政策へのテロ活動だと思う。お嬢様に直接の影響はないと考えているが、ただ、最善は尽くすべきだから…」


「カナタが居ない間は私が周りにいるから大丈夫だよ」


冬美はそう言って力こぶを作った。


「そうね。第4級生還者サバイバーのあなたより、冬美の方が安心だわ」


美鈴はそう言ってコーヒーを飲んだ。


「部屋に戻るわ。少し仕事を持ち帰ったの。明日の会議の資料を作るわ。あなたたちは好きにして結構よ」


そう言って美鈴はコーヒーが入った薄紫のマグカップを片手に部屋からでた。


「冬美、今までの経験で、第5級を一撃で爆散させるほどのSTR型にあったことある?」


食後美鈴が離れたことを機に、冬美に耳打ちをする。

第3級程度と美鈴には伝えたが、それは拳の破壊力という点でのみ伝えたに過ぎない。実際どの程度の危険さなんてまるでわからない。

冬美は軽く思案する顔を示した後、僕の耳元で囁いた。


「………私ならできるって言ったら、カナタはどうする?」


僕は軽く肩を上げて、おどけて見せた。

確かに冬美にならできるかも知れない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る