第06話 ニャーさん

━━━━━━━━城下町 (ニーナ視点)

「ニーナ様、本日の予定は、こちらの視察と、こちらの資料に目を通していただいて、昼食を召し上がっていただき、午後からは自治長会への出席となっております」

はぁ〜、はやくお兄ちゃん達と遊びたいなー。1人でこっそり城下町に来るのは楽しいけど、こう、お仕事としてくると全然たのしくないよぉ。早く終わらせてお兄ちゃん達と遊ぼっと。


━━━━━━━━視察終了

「視察、お疲れ様でした。お次はお城での仕事になりますので、戻りまs

「ん?どうかしたn······うぐぅ!?」

えっえっえっ??なにこれ・・・口がふさがれ・・・あっ、前も見えなく····あっ、だ、誰か助けて

「うぐぅ、うぐぐぐ」

だ、誰か···誰でもいいから助けて······


お兄ちゃん、助け···て······



━━━━━━━━王城にて(大空視点)

 今、ニーナが今日は外で仕事をするという事を心底嫌そうに話しているのを聞いていて、そういえば、まだこっちに来てすぐの頃にお世話になったあそこに行ってないなということを思い出し、外出の準備をしている。

 と言っても、国内を移動するだけだから、冒険のような装備はいらないだろうけど。

大空そら、どこか出かけるのー?」

「ん?あぁ、この国に戻ってきたことだし、昔お世話になった所に行こうかなって。別に遠出するわけでもないよ。ここのすぐ近くだったと思うし」

「じゃあさ、私も行っていい?」

「いいよ、んじゃ、麻央も起こすか」

麻央まおは、5年分の強化とかいうふざけたアイテムを使ったあの日以降、1日のほとんどを寝て過ごしている。ただ単にだらだらとしているという訳ではなく、5年分の強化とかいうふざけたことをしたので、体が追いついていないのだという。なので、かなりの睡眠が必要なんだとか。

 かれんがあの魔王さんから聞いた話通りなら、あともう少しで普通に過ごせるようになるそうだ。


「おーい麻央、外に出ないかー?」

ってこんなので起きたらどんな音でも起きちゃうわな。

「麻央、今から小さな料理屋に行くけど、一緒に行かないか?すっごい美味しいぞ〜」

起きないな。もし起きたら外出したって城の人に言っておいてもらおうかな。

「ふっふっふー、かれんちゃんにまっかせなさーい!」

あれっ、どこかの、もふもふ喫茶で自称お姉ちゃんな子がこんな感じのことを言っていたような・・・

「何か策でもあるのか?」

「プリンでつる」


「ほーら麻央ー、プリンだよー」

かれんは、この前城の料理人さんたちに教えたプリンを近づけている。さて、これで起きるかな?

ガバッ

「これ、何!?」

あ、起きた。プリンってすげーな。てか魔王の子どもでもプリンは好きなのかな。



「じゃあ、出発するよ」

王城から出るまでにちょっと距離があるから、【空間操作】で、門の前まで繋げた。あ、ないとは思うけど、俺らのことを城の人達が探さないように一応書き置きは置いている。



━━━━━━━━大空たちが城を出発して約30分後

「大空様!大変です!ニーナ様が・・・?あれ、いない」

書き置きを見つける。

「そんな・・・こんな時に限って外出されているなんて・・・」



━━━━━━━━街にて

 んー、やっぱり変わってないなぁ。この街を出てからかなり経ってはいるけど、本当に変わってないな。

「それで、どこに行くの?」

「俺がこの世界に来てすぐの頃、お世話になった料理屋だよ」

俺がこの世界に来てすぐの頃、何日も何も食べていなくて空腹で倒れてた俺に食べ物をくれ、そして少しだけだが、そこで働かせてもらいお金まで稼がせてくれた命の恩人たちだ。多分あの人たちがいなければ今の俺はいないだろう。


「よしっ、ついた」

チリーン

「いらっしゃ······おっ、あんちゃん、もしかして大空か?」

「あ、おじさん、お久しぶりです」

「がははははは、なーにかしこまってんだよ、それにしても急にどうしたんだい?それに、連れは······あーそういう」

絶対何か勘違いしてるよね、これ。

「違いますよ、この2人のことは後で説明します、で、今日ここに来たのは久しぶりにこの国に帰ってきたので、ここに来ようかなって思ったからですよ。まぁ、帰ってきたのはもう1ヶ月くらい前ですけどね」

「おーい、大空が帰ってきたぞー」

バタバタバタバタ

そんなに急がなくてもいいのに。

ドンッ

あっ、こけたな。

「あ!ほんとだ!大空だ!」

涼太りょうただ。

「おー大空だぞ」

「そこのお姉ちゃんたちは?」

「旅の仲間ってとこっかな」

まぁ、1人は魔王の秘書みたいなもので、もう1人は魔王の子どもなんだけどね。

「はじめましてーかれんでーす。あ、こっちは麻央」

「あ、はじめまして。僕は涼太っていいます」

涼太は、日本で言うところの小学6年生くらいの年齡の子だ。

「あれ、ニャーさんは?」

音心ねこは、涼太の姉だ。そして、倒れていた俺を助けてくれた恩人でもある。音心は、えーっと、あれから計算して大体中2くらいかな。んで、ニャーさんってのは、音心って名前から勝手に俺がつけたあだなだな。

「はは、相変わらずだね。また怒られるよ?姉ちゃんは今風呂に入っているよ」

何だかんだ言っても、この2人は俺が長男かのように接してくれ、おじさんも息子のように接してくれて、本当の家族みたいな居場所で、なぜか安心するんだよなぁ。

「ふー気持ちよかった。え?ん?」

「よっ、久しぶりだな、"ニャーさん"」

「ニャーさん言うなー!」

おっと、危ない。

「おいおい音心、大空が帰ってきて嬉しいのはわかるが、他のお客さんもいるんだから、木皿を投げるのはやめような。まぁ、投げたのが木皿だからまだいいけどよぉ」

「おっ、音心ちゃーん、随分危なっかしい旦那さまのお迎えだねぇ。俺らのことは気にせず普通に喜んでもいいんだぜ?」

「おう、俺も気にしないぜ」

「数年ぶりに未来の夫と再会したんだもんなぁ」

常連さんたち、昔とちっとも変わってないなぁw

「バカーーーー」

あっ、部屋に帰っていった。

「ちょ、大空いいの?怒っちゃったけど」

あ、そうか。こんなやり取り、かれんたちは初めてだもんな。そりゃ心配もするか。てか、麻央は既におじさんになにか作ってもらっているしwまぁいいか。

「あー、ニャーさんはいつもあんなだったからね、大丈夫だよ」

「なるほど」

大丈夫だといったけど、そんな説明で納得しちゃうのかwまぁいいや、めんどくさくなくて結構。

「それで?大空は、随分久しぶりだがどうしたんだい?あ、やっぱり音心ちゃんを取りに来たのか?w」

「バーカwそんなんじゃねーよ。久しぶりにこの国に帰ってきたからここに寄っただけだよ」

「そっかー、そうだよな。もう子どもまでいるんだから今更音心ちゃんもっては流石にできないもんなー」

「いやいや、この2人は、旅の仲間だよ」

この人達は、どんだけ恋愛話にしたいんだよw

「小さな料理屋だからこそ生まれる人間関係というか信頼ってこんなのなんだねー」

「あぁ、この人達は、お客様ではあるが、友達のようなもんだからな」

「だから敬語とか一切使ってなかったのかー」

この人達に敬語を使う時なんて、冗談のときだけになるなw

「やっと、いつものあんちゃんらしくなったな。さて、ご注文は何にしますか?お客様」

「うむ、そうだな、オムレツを1つ」

「かしこまりました」

「「・・・・・・・・・・」」

「「ハハハハハハ」」

「あーおもしれぇ、嬢ちゃんたちはどうする?」

「じゃあ、カレーください」

「今のやつ、もう1個」

「あいよ、おい涼太!手伝え!」

「はーい」



「ねぇ大空、ここって日本じゃないよね?」

「?何いってんだ今更」

「いや、だって、日本で見たような料理がたくさんあるからさ」

「それは、ここで働いていた頃、おじさんに教えたんだよ」

「え、大空って一応勇者なんでしょ?」

「あぁ、一応な。勇者様の正体は、なんとただの日本人でした!てね」

「最初は、住むところとお金が全然なかったから、住み込みでこの店で働いていたんだよ」

いくら鍛えてもステータスが上がらなかったから、随分な期間ここに居座らさせてもらったけどね。あの頃は、いくら鍛えてもステータスが上がらなかったのは、まさか【情報収集】の方にまわっていたなんて思いもしなかったよなぁ。



バタバタバタバタ

ん?なんだ?あ、ニャーさんだ。

「大変!なんかこの国の王様の秘書が誘拐されて何故か勇者大空を呼べって!ラジオで」

は?えーっと、なんだって?この国の秘書が誘拐?ん?え?

「誘拐!?秘書さんが?」

「う、うん。そうみたい」

くそ、待て、待つんだ。確か今日ニーナは秘書さんと一緒にどこかの視察に行くって心底嫌そうにニーナは言っていたよなってことは、ニーナも!?

「くそ、国のトップを誘拐とは」

「え?だから秘書さんだって」

あぁ、そうか。感覚が薄れてたど、この国の人達は、ニーナのことを知らないのか。

「いいや、この国のトップもいるさ」

「え?なんでわかるの?」

「そりゃ、俺の妹は今日、心底嫌そうに城下町のどこかを視察しに行ったからな」

「い、妹!?大空って王族だったの!?」

「いいや、単にその国のトップさんが俺のことを『お兄ちゃん』って呼んでくるから、もう妹って認識でいいやってだけ」

「よし、誘拐した奴らをボコりに行こうか」

「え・・・?かれんさん・・・?」

わーお、かれんさんもかなりご立腹の様子で。てか、こんなかれん初めて見たな。

「あ、あの、それが、ラジオでは、『勇者大空を1人で連れてこい。でないと人質は開放しない』らしいんです」

「くっ、仕方ない。大空、もうチリにしちゃっていいよ、うん。私の分もボコってきて」

「あぁ、まかせろ!とりあえず一旦王城に帰ってから行くわ。【空間操作】」



━━━━━━━━王城

「誰かいないかー?」

バタバタバタバタ サッ

「ここに。大空様、緊急事態です」

「あぁ、わかっている。それで?」

「はい。犯人は時計塔の上で人質をといます」

「よし、わかった。そういや、この国では裁判とかは誰がやるんだ?」

「今はそのような場合では」

「教えてくれ」

「わかりました。この国では、犯罪者などの裁判は、基本的にニーナ様がします。また、国の重要人物への暴行や、誘拐などをした場合、まず死刑を逃れられることはないでしょう」

「ということは、もしボコって殺っちまっても問題は?」

「ないです。むしろ助かります」

なんて国だよ。まぁ、あんなこと言った自分も馬鹿だけど。ま、殺りはしないけどな。

「じゃあ、行ってくる」

「ご武運を」



━━━━━━━━時計塔にて

「さて、俺の妹を返してもらおうか。俺は今かなりキレている。場合によっては命の保証はできないぞ」

「ふっ、来たか、勇者大空。この2人は返してやる。だが、お前はちょっと俺に付き合ってもらう」

「なにをいっt・・・」

なんだこれ。眩しいっ。



━━━━━━━━???にて

「勇者大空を連れてまいりました」

は?何だこの状況。てか、ここはどこだ???

「勇者大空、まずは私の部下がバカな方法で貴方をここに連れてきたことと、急なことを謝罪する。あのバカにはあとで罰を与える。それで許してくれ」

「は、はぁ」

この声、どこかで聞いたことあるなぁ。どこだっけ。

「私は、君の視点でいうと、地球がある世界の神みたいな者だ」

あー神様ね、ってえっ!?

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