解説編

 だらだら説明をするのはNGだ。どうしてつまらない文章になるのか、それは裸の文章だからだ。内容だけを伝えるならそれで構わないが、もし他人に読んでもらうことを前提とするなら、いくつかの装飾が必要になる。今回の例文で気をつけてみたいくつかの装飾テクニックを挙げてみる。


1:出だし

「駅前のスクランブル交差点——全ては信号機の仰せのままに」


 カッコよく映画やドラマのオープニングみたいにしたかった。主人公が闊歩する様子から入ってもいいのかもしれないが、何だか少し味気ない。なので、まずは辺りの風景にスポットを当てて(スポットワーク)それから、滑らかに八木、そして奈良崎と滑らせていった。

 これらを表現するとき、小説は映像のように一瞬で全てを映すわけにはいかない。だから一つ一つ懐中電灯で照らすように丁寧に(スポットワーク)、かといって単調な言葉の羅列にならないよう生きた言葉(後述)を意識してみた。


2:八木の情報を動作に交えてさりげなく説明

「あー、あちぃな。そう言葉—— 一瞬だけ踊る」


 裸の文はこれ。


「八木の髪の毛は茶色のウェーブがかかったセミロングだった。彼は、あぁあちぃな、と言い、ため息をついた」


 これでは説明感が否めないし、読んでいて面白くない。なので、これも一つ一つ流れるようにさりげなく説明してみた。


3:今の季節、環境をさりげなく、感情を交えて描写

「陽は沈みかけているとはいえ、蒸し暑さが残るこの季節。ほんの数秒の信号待ちですら、死活問題だ」


 裸の文はこんな感じ。

「今の季節は残暑、時刻は夕方だった。」

 この内容を説明っぽくならないように何とか工夫してみた。


「気温は32度、猛暑だった」


 より、


「うだるように暑さ、アスファルトさえ溶けてしまいそうだった」

 のほうが生きた文章になる。

 感情、擬人法、倒置法、比喩などなどを駆使してみるといいかもしれない。



4:動作に交えて服装をさりげなく説明

「下肢に張り付いたスラックスを手で無理やり引き離し、パタパタ、と風を送る、せめてもの労い。同様にワイシャツも一部をつまんでパタパタしてみるが、所詮焼け石に水だった」


 ここでさりげなくスラックスとワイシャツを身につけていることを説明、と同時に暑くて苦しそうな光景も付け加えてみた。


裸の文章

「八木の服装は上はワイシャツ、下はスラックスを穿いていた」

 この情報を伝える際に、さりげなく動作をついでに入れることで、暑くて苦しがっている様子も一緒に説明することができた。

 ここでこの人達は会社員かな? 仕事帰りかな? と思っていただければこちらとしては成功、となる。


5:他人を利用せよ!

 今回は奈良崎の「真面目で仕事もきっちりこなしていそう」な雰囲気を出すために、対照的な存在である八木を登場させてみた。そして八木に奈良崎の印象を喋らせることで、だらだらの説明を脱してみた。また対照的なキャラを登場させることで、お互いの色が引き立つ効果も狙っている。


 また他にも、こんな状況を説明するとしたら、どのようにするだろうか。


『カナは星の形のピアスをしていた』


 この説明をする際、他人を利用して書いてみる。


***


「あれ? カナそんなピアスしてたっけ?」

 カナは耳元で揺れる、星形のピアスを少しつまんでから、

「あぁ、これね。前からしてたよ」

 これ、両親の形見なんだ、と付け加えた。

 そういえばカナの両親はカナが若いうちに亡くなり、祖父母に育てられたと聞いたことがあるのを思い出した。ユキは自分で招いたこの気まずい雰囲気に、思わず言わなければ良かった、と後悔した。


***


 他人が見て気になったら聞くだろう、聞かれれば答えるだろう。これは自然な流れである。こうすることによって、さりげなく説明させることができる。




 ここまでのエピソードを数多くの作家の方、中には実際に書籍化された方も読んで下さっている。是非ともその方々の普段気をつけている事や、こんなテクニックを使うといい、などというものがあればコメント頂きたい(というかお願いします。キザワ論調は上から目線でごめんなさい)。


 次はいよいよ100%を超える、その現象について。

 もうなんと既に「矢指 嘉津」様がコメントでかなり的確にその現象を表現して下さっている、さすがポエムで生きている方だと感服せずにはいられない。キザワとしてもとても心強いこと限りない。

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