100%の壁
100%を超えるとは?
「今までいくつかの小技を述べてきた。しかし他にももっと技は沢山ある。私はプロではないから全てを伝えることはできないが、プロの作品を読めばそんな技法で溢れていることにきっと気づくだろう」
「なるほどな……全ては腕次第ってことか」
キザワと名乗る白い影はようやくゆっくりと本当の意味で頷いた。
「そうだ、それと私は映像は100%を表現出来ると言った。だがな、言い換えるとある意味映像は『100%しか伝えられない』これが弱点とも言える」
「ん? 100%までしか?」
白く揺れるシルエット。その口元が少し緩んだように見えた。
私は思わずその表情に食いついた。
「しか、って——。100%で十分だろう。そもそも100%以上ってどういうことだ?」
「知りたいか? 100%のそのさらに奥……映像では決して到達することのできない、その神聖な領域を」
こうやってこいつはまた溜めるんだから——私はこみ上げるイライラをぐっと押し込めた。
「この話をするには君がさっき言った『懐中電灯』がしっくりくる」
「懐中電灯? 暗闇の舞台を照らす?」
「そう。懐中電灯の明かりが照らせる範囲は少ないかもしれない。でもうまくやれば読者は想像するんだ。例えば突如暗闇に現れた大きな頭を持つ生き物。こんな大きな頭であれば、きっと翼は大きいだろう、重量もすさまじいだろう、火だって吹くかもしれないって」
想像? うーん……
「見えないからこそ、残りの部分を読者が自由に想像力を膨らませて世界を作ることができるんだ。こうすることで実際の映像を見せるよりはるかに深いイメージを読者に叩き込める、そんな可能性を秘めているんだ」
そう言い切ったキザワは、どうやら満足げな様子だった。その縁が白くゆらゆらしている。
しばらくしてやっと、こちらが今一つ話についていけていないことに気づいたようだった。
「ん? その顔はピンと来ていないようだな。ほら、よくあるだろう、小説を読んでせっかく良いイメージの主人公が出来上がっていたのに、映画化されて『この人が? イメージと違った……』ってがっかりすること」
「あぁ、それなら何となく」
「つまり、小説家がせっかく読者のイメージを最大限引き出せるような言葉遣いで最高の世界を作り上げた——それは10人いたら10人とも異なるかもしれないが、それぞれにとって最大限のイメージを作り上げたとする。
なのに映像という形で100%固定化してしまうことで、可能性が100%で止まってしまうということなんだ」
うーん、まあなんとなく分かったような気はする。
「しかしな、これはとんでもないリスクも孕んでいるのだよ」
キザワはもうこちらの表情は見ていない。
アドレナリンという物質がやつの中に流れているのなら、きっと今はMAXかもしれない、これはとりあえず待ったほうがよさそうだ。
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