第8話 2度目のワールドジャンプ

私は悔やんだ、激しく後悔した。一緒に戦っていればあいつも助かったんじゃないか。虚無の大穴の前でいくら待ってもフェザーは帰ってこなかった。そして大穴も今はがれきでふさがれている状態だ。おそらく照と心中したのだろう。だったら助けをよんでくれれば、、、

「やあ、カレン」

「スミス、、、」

声をかけて来たのは村長、スミスだった。

「何かあったようだね、だいぶ顔色が悪い。付き人のメビルもいない。無理して事情を話さなくてもいいから、とりあえず来たまえよ」

私は呆然としながらスミスの家に行った。

「ようこそ、我が家へ!」

そこに並んでいたのは沢山のご馳走。そして、集落の住人も大勢集まっていた。

「なんで、、、」

「私たちは君を歓迎する。これからは一緒に暮らそう」

「なんで、私にこんなに優しくするんだよぅ、、、」

私の目からは涙があふれていた。そして彼らとしばらく共に過ごすと決めた。

「私は、、、」

ある日私は一人、ベッドの上で横になりながらつぶやく。

「私は、どうしたいんだろう」

そんなことをずっと考えていた。フェザーの最後の言葉が頭から離れない。私の使命、それは自分が一度破壊した世界を自分で元に戻す、いや、より良い状態にすること。だけど、私が本当にやりたい事って、、、?なかなか寝付けず私は『夜』と呼ばれる空の下、睡魔がやって来るまで散歩することにした。すると、、、

「やあ、カレン。こんばんは」

スミスがやって来た。

「ここではいつも『こんばんは』なんだな。なんだか不思議な感じだ」

「反転虚構の私は、、、」

ここで彼は私の言い出せなかった事を語り出した。

「反転虚構の私はどんな日々を送っているのだろうな。伝承によれば常に『太陽』という大きな球体が世界を照らしていると聞くが、、、」

「ああ、合ってるよ」

私も一応返事をした。

「私がここで村長をしているのは、ただ偶然人をまとめるのが上手かっただけだ。役職として上、というわけでもあるまい。だから、みんなとは対等な立場で接するように心がけてきた、そしてこれからもそうしていくのだろう」

スミスはそう言うとさらに続けた。

「恐らくそうやって赤子になり、いずれ死んでいく。この構造も反転虚構では逆なのだろう?」

「ああ、そうだよ」

「世界とは面白いな。果てしなく興味をそそられるではないか。お前はそんな世界からやってきた一人の旅人、お前からも話を聞かせてほしいのだが、、、」

私は思わず口をつぐんだ。言えない、とてもじゃないが言えない。私が表の世界でしてしまった事はとてもじゃないが許される事ではない。例えそれが、世界の理の影響だったとしてもだ。

「、、、そうか、無理して言わなくてもいい。それも一つの生き方なのだからな」

「!」

私はその言葉に救われた。仮に表の世界に戻り、自分が悪に戻ってしまっても、私はその言葉を忘れないだろう。それからは極力、反転虚構での生活を楽しんだ。常に空が真っ暗だったのは流石に応えたが、、、

ある日、彼らに何故表の世界(彼らには反転虚構と言った)に行かないのかを聞いてみた。すると、こんな答えが返って来た。

「私たちは今の自分に誇りを持っている。それはシャドウ(彼らは障害者のことをこう言う)とて同じことだろう。それに反転虚構になんか行かなくたって今の生活は十分楽しいしな」

彼らの、反転虚構の性質には最後まで慣れなかったが、その間もフェザーの事と、表の世界で自分が犯した過ちは片時も頭から離れなかった。


あれから数年、ついにこの時がやって来た。

「どうしても行くんだな、、、?」

「ああ、これは私がやらなきゃいけないことなんだ」

スミスの不安そうな声をかき消すように私はそう言った。そして2度目のワールドジャンプを決行するのだった。

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