第7話 朝薙紗凪
朝日を浴びて草花の香りが一層強くなる初夏の風。
本来は清々しいはずの風を浴びての通学も、今日はその風の粘質的な特性や陽射しの所為でじっとりと汗ばんで肌にまとわりつくYシャツの不快感が先だってしまい、そんな爽やかさを味わう余白は無かった。
するとそんな俺の背中を優しく押すように追い風がふわっと吹いた。
風の先には自転車に乗った女子生徒。
腰まで伸びた
――キギャンッ!
今のブレーキ音かよ!? と一瞬自転車から発せられた音なのか解らなくなるほどの
くるりと振り向く。
気だるげな
「
何かを疑うような、問い掛ける様な言葉だった。
「ああ、おはよう。
「おはよう。ううん。疑いを掛けているわけではないわ。どちらかと言えば私の視覚の方が疑わしいくらい。燈瓏君を後ろ姿で判別できなかったのだから」
俺が歩いて行くと彼女に追いつく。
それよりも彼女の場合気にしなくてはいけないのはサイズだ。どうやら彼女に聞くところによると、これが一番小さいらしいが、それでもまだスカートの
周りの女子を見ると、
彼女も彼女なりに女子高生らしく丈を短くする為、腰の部分を何重か折って
いっそ裾を切ったらどうかと言ってみた事もあるが、それは校則に触れるという事でやりたがらなかった。
ブレザーの方も、肩が落ち切っていて一見してだらしないが、見様によってはオシャレかもしれない。ドロップショルダーだと思えば、寧ろ時代に迎合している感は出せる。しかしその辺はもう当人が諦めている。オーダーメイドをするほどの資金的な余裕もないそうだ。
二人並んで歩くと、俺の胸元より下に紗凪の頭の天辺が来る。俺とて背の高い方ではないので、それを考えると相当小さい。
「燈瓏君。何か今日はいつもと違う感じがする。何かあったの?」
「いや、別に」
いや、超絶あった。
時計を巻いた猫が喋り始めたと思ったら神様だった件。
友人から送られてきた夕張メロンが天使だった件。
お母さんは魔王さまっだった件。
おいおいラノベのタイトルかよ。と突っ込まざるを得ないような実体験を話したところで、信じて貰える訳がない。
話を聞いて貰えれば楽になる事もあるだろう。だがそもそもこんな
俺はそれからも紗凪のともすれば真相を見抜きそうな瞳を避ける様に、適当な笑い話をするだけだった。
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