第6話 夕張メロンが付いて行きたそうにこちらを見ている

「おはようございます勇者様」

 幻覚じゃなかった。

 俺が家を出る準備をしているとメロンが変な心配をし始める。

「そんな鞄で私、入りますかね?」

 俺の通学鞄は学校指定のものだ。オシャレイケメンが他人との個体差を出す為にえてリュックサックを背負ってくる事を目撃しているし、それを教師が見て見ぬふりをしているのも知っている。だからこいつを運んでやる為にリュックサックを持っていくと言う選択肢もあるだろう。だが俺は敢えてに敢えていかないと言うアイデンティティを大切にしているのだ。所謂いわゆる、普通の学生。型にまり切った学生という究極の無個性の向こう側に個性を見出しているタイプの学生なのだ。こんなメロンの言う事を聞くあまりに、そのアイデンティティをぶち壊したくない。というか、いきなりリュックサックで通学したら、顔見知り程度の仲良し度微妙な友達が話しかけてくるかも知れない。それが美女ならやぶさかではないが、イケメンに話し掛けられたら大変だ。俺の平穏な学校生活が瓦解がかいする。

 それを抜きにしても、こんな重たい果物を持ち歩きたくはない。

「なんでお前は入ろうとしているんだ」

「近くに居た方が何かとサポートしやすいですし。何よりここには魔王が居るのですよ?」

「だからさ。持ち歩き前提の守護なら、もっと小さい物で来いよ」

「ですから。勇者様が夕張メロンをお好きなのがいけないのです」

 とは言えこのまま置いて行くわけにもいかない。

 まずはティッシュで包む。一見してボールからメロンかわかるまい。しかしどこに置くか。

 俺は悩んだ末、勉強机の一番下の引き出しにメロンを入れる事にした。取り敢えずこれで間違って母さんが切り分ける事はあるまい。

「俺以外が入ってきても絶対に喋るなよ」

「勿論です。この部屋に入ってきそうなのは勇者様を除いては魔王しかいませんからね。敵に命を差し出すような真似は絶対にしませんよ」

 よしよし。良い子だ。

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