4ーキリンと私と大家
玄関を開けたら、キリンがいた。
そんな出来事から数日経った。キリンを部屋から出す方法はまだ見つかっていない。どうやって鍵の閉まった私の部屋に侵入したのかも謎のままだ。
これはミステリーなのか、ホラーなのか。ジャンルのわからない映画を無理矢理見せられているようだ。そう考えながら、私はスーパーで野菜を買い、ついでにレンタルDVDショップに寄った。サバンナのドキュメンタリー映画を借りた。キリンが故郷を思い出すかもしれない。
「どうやって返せばいいのかわからないんだけど」
エレベータで一人呟き、目的の階に到着した。
エレベータを降り、自室に続く廊下の先に目を向けると大家さんが私を見ていた。いや、睨んでいると言っていい。家賃は滞っていないはずだが。
「こんにちは」
「こんにちは、じゃないよ」
いつも厳しい人だが、挨拶すら受け取ってくれない老人であっただろうか。私は思わず後ずさる。何をしてしまったのか、見当がつかない。
「あんた、契約違反だよ」
「はい?」
「わからないの?」
「はい」
「このマンションはペット禁止なの!」
「え?」
何のことかと目を見開くと、大家さんは玄関扉をばんと叩いた。
「き・り・ん!」
「え……」
「隠したって無駄だよ。外から丸見えなんだから!」
膝から崩れ落ちそうだった。
どうやら、私はキリンを飼っていることになっている。確かに、右手に提げた袋はキリンのごはんだ。しかも、サバンナのドキュメンタリー映画まで、娯楽まで提供しようとしている。
「いえ、誤解です」
「誤解なもんか」
そうだ、ここは七階だ。なんて言える空気ではない。
「あのキリンはペットではありません」
「じゃあ、何かね?」
「ええと」
私にも疑問だ。あのキリンは我が家のなんだ?頭を抱えつつ、必死に落ち着こうとした。
「た、立ち話もなんですから」
私は玄関の鍵を開け、大家さんを迎え入れようとした。外開きの扉はいつもより重い。
「あの、どうぞ」
「……どうも」
「どうも。いや、ええと?」
玄関を開けると、焦げ茶色のジャケットを着た小柄な男が頭を下げてきた。
どなたですかと聞こうとしたそのとき、例のキリンの声がした。
「泥棒です!」
キリンは自信たっぷりだ。
「この男は泥棒です!」
ちらりと隣の大家さんを見る。これはチャンスかもしれない。
「泥棒だそうですよ、大家さん!」
私は泥棒の腕をしっかりと掴んだ。決して離さないと力を込めたが、当の泥棒に逃げる様子はない。
「まだ何も盗んでねぇよ」
「じゃあ、不法侵入です」
お前もだ、という気持ちもあったが、私は大家さんを押し切った。
「大家さん、このキリンは……」
――防犯グッズです
――命の恩人だ
泥棒と私の意見は大きく食い違った。
唖然とする大家さんを見ながら、私はひとつ確信した。
この映画は『コメディー』だ。
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