3:幼子に歌
リィリャ竜謡騎士団は、大きく五つの部隊に分かれる。ファースやキドゥーエ卿が統率する、第四大隊や第二大隊の括りがそれだ。その下には、一人と一頭からなる竜騎小隊や、第三部隊第十二歩兵などの科ごとに小隊が編成されている。
騎士団に所属する大多数の兵は兵舎にて共同生活を命ぜられるが、大隊長や、その下で各部隊を預かる高位席次の幹部ともなれば、その限りでない。別棟の幹部兵舎に私室が与えられている他、本部の外に別邸を持つことも許されていた。
しかし、生憎と俺は別邸など持っていないし、欲しいと思ったこともない。よって、自由の利く場所といえば、兵舎の私室のみとなる。
「はい、お湯かけるよー。目を瞑ってー」
「つむ るー」
「痒いところはないですかー」
「かゆー ないー」
……だが、何故に俺は自分の部屋で、あろうことか浴室の扉の前で、ひたすらに天井を見つめて無心になるしかない待ちぼうけを食らっているのか。背を預けた扉の固さが、やけに身に迫って空しい。
「ろー いるー」
「……ああ、いる」
否、理由など自問するまでもなく明白である。数分――下手をすれば数十秒おきに、こうして呼びかけてくるこどもがいるからだ。
当初、俺はラドを第三大隊第十二歩兵小隊のイレイン・ウォルドロンに預け、一般兵舎の大浴場で風呂に入れさせるつもりでいた。ウォルドロンは二十歳前後と見える、人のよさそうな朴訥とした雰囲気の娘で、これならばラドもあからさまに警戒はするまい、と託すに足ると踏んだのだ。……だが、その目論みは、当のこどもに泣いて拒否された。
泣くどころか、叫び泣き喚くの大騒ぎだ。父との別離を言い渡された時の様子は何だったのかと思うほど、それはもう大声でギャンギャンと泣いた。更には文字通りかじりつかんばかりに首に縋られ、哀れ俺のシャツは涙やその他諸々の液体で、見るも無惨なぐしゃぐしゃの有り様と化す始末である。
こうなっては預けるどころの話ではなく、ちびすけを風呂に入れさせている間に報告に戻ろうという計画は、完全なる水泡に帰した。仕方なしに第十二歩兵小隊から代理の伝令を出してもらうことにし、着替えついでにウォルドロンを伴って私室に戻ってきた次第だが、そこでまた一悶着あったことは言うまでもない。
とにかく、ラドは俺から離れたがらなかった。浴室の中にまで踏み込み、そこで下ろそうとしたが、頑なにしがみついて離れない。四苦八苦して引き剥がし、すぐそこにいると言い聞かせてウォルドロンに任せたが、今度は数分おきに名を呼ばれるので、着替えに行くにも苦労した。
「ろー うた」
「歌? 後でな」
「うたぁああ」
「ローレンツ卿、ラドちゃんが泣きそうです!」
何でだ、と思わず項垂れた。どうしてそうなる。
「悪いが、子守唄なんぞは知らん」
「子守唄って、寝かしつかせる時に歌うんじゃありませんでした?」
……それもそうか。いや、だからといって童謡も知らんが。
「ろぉおおぉ」
「あーっ、泣かないでぇ!」
扉越しに聞こえる、まさに阿鼻叫喚。どうしてこうなった、と二度目の嘆きがため息になってこぼれた。……全くもって、仕様のない。
思い返すのは、かつて士官学校に通っていた時分に流行っていた大衆歌。十年以上も前の歌だ。古いと言われれば返す言葉もなく、幼子が好むようなものでもあるまいが、咄嗟に思い浮かんでしまったので仕方がないと勘弁してもらおう。
軽く息を吸い、囁くように音色を紡ぐ。
「――運ばれてゆく。船乗りのいない船のように。道を辿る。大空をさまよう鳥のように。綱も鍵も、おれを留めてはおけない。蜂蜜、麦酒、祭りの歌に乙女の囁き、なにものも……」
歌い始めて程なくして、背中を預けた扉の向こうの騒ぎは収まっていった。叫ぶ声は止んで、ウォルドロンがちびを宥めすかしながら、手を上げろだの後ろを向けだの指示を出しているのが聞こえる。
ひとしきり歌ってから、扉にもたれかかっていた身体を起こす。途端、それを見計らっていたかのように、勢いよく扉が開いた。
「ラドちゃん、まだ髪拭ききれてないからぁ!」
ウォルドロンの叫びも無視して、開いた扉から飛び出してくるこども。
幼児向けの衣服など用意があるはずもなく、仮に俺のシャツを与えておいたが、襟ぐりから覗く浮き出た鎖骨や、裾の下にちらつく骨ばった膝が、どうにもなけなしの良心を刺してならない。ぼさぼさに乱れた、長すぎる髪を引きずりながら駆け寄ってくるこどもは、俺の腰よりも随分と下に頭がある。
人間の子供に換算すれば、四、五歳といったところか。ひょっとすれば、もっと幼いくらいかもしれない。そんな小さな身体で、精一杯に腕を伸ばしてくるのだ。不思議と何やかやと考えるのも通り越して、とにかく応じねばならないような気がしてしまう。俺のような冷淡な人間にも父性だとかいうものがあるのかどうかは、まあ、定かでないが。
「ろー いた!」
「どこにも行かないと言ったろう」
求めに応じて抱え上げてやれば、また首に腕を回して頭を押し付けてくる。竜というよりは、どうにも人懐こい犬や猫が連想される仕草だった。
まだ少なからず水気を含んだ髪のお陰で、悲しいことに着替えたばかりの服が早々に湿っていくのが感じ取れてしまったが、この分では諦める他あるまい。悲惨な着心地も、今は吐息一つで耐えておくこととしよう。
「ロ、ローレンツ卿」
そして、浴室の扉が二度開く。
ウォルドロンは、この部屋にやってくるまでとは打って変わり、くたびれきった様子だった。律儀に袖や裾を折り上げて、ちびを洗っていたらしい。制服の袖や裾、あちこちが飛沫に濡れていた。
「手を煩わせてすまなかったな」
「お役に立てて、何よりです……」
「ああ、助かった。礼を言う。――確か、午後は丸ごと俺の補佐をして構わないと指示が出ていたな」
「はい、その通りです」
「では、もう一つ頼まれてくれるか」
「何なりと」
疲れは隠せていないものの、歯切れよく答える返事は小気味よい。後で第三大隊長にでも、それとなく何か一言伝えておくべきか。
つらつらと頭の中で考えながら、部屋を縦断して所定の机にしまっていた財布を取り出す。中を確認してみると……ああ、それなりにあるな。
「まず、五万ラーデを頼みごとの為の資金として与える。街に赴き、それでラドの衣服を一式揃えてもらえるか。どのようなものを選ぶかについては、君の良識に一任する。だが、資金を全て使い切る必要はなく、持ちきれないほど購入する必要もない。残った金額は、手間賃として受け取ってくれ」
そう告げると、ウォルドロンは鳶色の目を大きく見開かせた。ぱくぱくと魚のように唇を開閉させていたが、敢えて反応はせずに続ける。
「それから、街に向かう途中で食堂に立ち寄り、何か消化のいいものを用意してもらえるよう頼んでもらいたい。眠り続けていたとはいえ、数日の間何も食べていないはずだな」
ウォルドロンは、根が善良な娘なのだろう。ハッとした様子で、勢いよく頷いて見せる。
「そうでした、少なくとも隔離房に入れられてからは飲まず食わずで……急いで何か用意して、運んでもらえるようにお願いしてきます!」
「よろしく頼む」
かくして、ひどく慌ただしい様子でウォルドロンは部屋を出て行った。おそらく、などと不確定の語をつけるまでもなく、善良で人のいい性質なのだろう。俺の他人を見る目も、中々どうして馬鹿にしたものではないらしい。
「ウォルドロンは優しかったか」
「うぉ?」
「今の……あー、お姉さんだ」
「いれ いん?」
「何だ、名前は知っていたのか」
手持ち無沙汰ついでに喋りかけながら、今度は浴室とは真逆の位置にある給湯区画へと足を向ける。
幹部兵舎の個人私室は浴室だけでなく、湯を沸かし、茶を淹れることができる程度の設備も用意されており、保冷術式の施された小型の食料保存庫も配備されていた。俺は食に執着する類ではないので、これまで保存庫が活用されたことはほとんどなかったが、こんなことになるのならば、少しくらい何か入れておくべきだったと一抹の後悔を抱かなくもない。さすがに絶食明けの子供に、酒の肴にと買っておいた、塩気の強い燻製類を与えるのはよろしくなかろう……。
ウォルドロンが街への出がけに食堂へ寄っていったとしても、さすがにすぐに食事を用意してはもらえまい。かといって、離れたがらないラドを連れたまま、兵舎をうろつくのも躊躇われる。外出するのは、せめてまともな服を得た後でなくては。
「いれ いん やさ しい。すき」
「そうか」
「ろー も すき」
「それはどうも」
「ろー うた も すき。やさ しい」
あちこちの戸棚や引き出しを開けてみたものの、子供に与えられそうなものは一向に見つからなかった。せめて菓子でもあれば良かったが――いや、それはそれで食事の前に与えるなと指摘されるか? 子供の世話はよく分からんな……。
「喉は渇いているか?」
「みず のみ たい」
「分かった。……こんなことになるなら、茶葉の一つでも常備しておくべきだったな」
周りに酒飲みはいても、茶の方はいない。それにしても、こうして子供を抱えて見て回っていると、戸棚の中に酒ばかりが並んでいるというのも、変に後ろめたいような気分になってきて困るものだ。いや、別に咎められる筋合いもないとは思うが。
給湯区画は、保存庫と小さな流し台と卓上炉、食器棚が一列に横並びしている。水をくむから、と説得したラドを床に下ろしてから、食器棚を開けてガラスの杯を取り出した。水は流しの上部に設置された歯車を回すことで、本部の敷地内に整備されている井戸の一つから引き込まれる。複数ある井戸には全て魔術が施され、この歯車の動きと連動する仕組みになっていた。
カチカチと歯車を右に回せば、流しの直上の空間に塊となった水が徐々に現れ始める。後は、適当な物体操作の術で扱えばいい。
塊から流し台の中へと細く水を引き出し、杯を軽く洗ってから、一旦水流の操作を停止。濡れた杯を布巾で軽く拭き、その中に水を注いでから、意外にも大人しく待っていたこどもに差し出す。
「こぼさないようにな」
ラドの片手は俺の服の裾を掴んでいたものの、片手で持てそうにないと判断したか、裾を離して両手で杯を受け取った。窺うように見詰められたので頷き返すと、口をつけて飲み始める。あっという間に杯は空になり、「もっと!」と突き出されたので、再び水を注いでやった。
ただ、さすがに一度で大量に飲ませすぎてしまっては、身体に障りが出ないとも限らない。最初の半分程度に留めて渡してみれば、何やら物言いたげな目で見られた。……何も嫌がらせで、そうしている訳でもないんだがな。
そうして、すわ駄々をこねられるか、と警戒したものの。幸いなことに、二杯目の水を飲み終わるとほとんど時同じくして食事――細かく刻まれた野菜や鶏肉の入った粥だった――が届けられたので、こどもの意識は水から逸れてくれた。
部屋の居室区画には、テーブルセットも置かれている。ちょろちょろと人の周りをうろつくラドを制しつつ、居室区画へ向かい、四角い盆に載せられた円い深皿をテーブルに置き、
「ここに座れ」
椅子を示して言えば、こどもは大人しく従った。素直で良いことだ。――と、思っていたのだが。
「何故俺の上に座る」
俺が向かいに座るなり、ラドは折角座らせた椅子から飛び降り、わざわざテーブルを迂回して、俺の膝の上によじ登ってきたのだ。しかも、粥の皿をきちんと俺の前に引っ張ってきてからという、無駄な段取りの良さまで発揮して。
思わずため息が出たが、ここで無理矢理に下ろしたところで、どうせ二度三度と同じ流れを繰り返すに決まっている。諦めて状況を受け入れ、拙い手つきでスプーンを動かす姿を見守ることにした。
「それにしても、食べ方が下手だな……」
「んあ?」
万が一のことを考え、事前に手拭いを用意しておいて良かった。無言で、飛び散ったスープで汚れたこどもの顔を拭く。
……後でもう一度、顔を洗わせよう。
ウォルドロンは意外に早く、仕事を頼んでから二時間と経たずに帰還した。
「お、お待たせ致しました……!」
入室を許可するなり、そう言って部屋に持ち込まれたのは、街の服飾店の名前が記載された、いくつもの紙袋だった。自分一人で持てる程度で構わないと伝えておいたはずだが、どこまで律儀なのやら、腕中に紙袋を提げんばかりだ。これでは渡した金額も、ほとんど残らなかったのではないか。
「いれ いん おか えりー」
相も変わらず人の上に座っているこどもが、呑気な声で言う。ウォルドロンは「ただいま」とラドに笑顔を見せてから、生真面目な表情を作って俺に向き直った。
「ローレンツ卿、脱衣所お借りして構いませんか? きちんと合うように買ってきたつもりではありますが、念の為確認させて頂ければと。それから、着替えも済ませてしまいたく思うのですけれど」
「ああ、頼む。――ラド、行ってこい」
「ろー」
「俺はここにいる」
「けち!」
「お前その語彙どこから出た?」
図らずも真顔で聞き返してしまったが、捨て台詞を吐いたラドはもう振り向きもせず、俺の上から飛び降りてウォルドロンの許へ駆けていく。
まあいいか、とひとまず久々の身軽に息を吐くなどしていれば、
『さっきまで何してたの?』
『うた! きい た』
『ローレンツ卿に歌ってもらってたの?』
『そう! ろー うた すき。でも あとでな よく いう』
『ご多忙……えーっと、忙しいからだからね、怒らないであげてね』
『うん』
……自分のことを話されているのを聞くのは、何と言うか、居心地が悪いな。盗み聞きをしている訳でもないんだが。
何とはなしに頭など掻きながら、立ち上がって居室区画とは別の、少し離れた机に向かう。食事に使ったテーブルとは異なり、こちらは書き物を主用途として用いる。言うなれば、執務用だ。
普段引き出しにしまっている財布は、先刻のやり取りを受けて、まだ机の上に置いたままだった。そのまま渡しては、向こうも受け取りづらいだろう。さりとて、この部屋には封筒だの袋だのといった洒落たものもない。三枚ばかり取り出したものは、適当な紙に包んでおくことにした。
そんな作業をしていると、ガチャンと勢いよく扉の開く音が聞こえ、
「ろー!」
たたた、と軽やかに音を立てて走り寄ってくる気配。衣服の背中の辺りを掴まれたかと思うと、
「……何で登る……」
しかもお前、靴を履いただろう。普通に人の脚や背中に靴裏を立ててよじ登るな。猫かお前は。
「なに してる?」
順調に人の服の背を掴んで引っ張りながら、肩越しに顔を出すほどには登りきってくれたこどもが、あどけない声で問い掛けてくる。
その問い掛けは、割と俺の台詞だが。
「ちょっとな」
「ちょと?」
「秘密」
「ひみつ」
背中にこどもを貼り付けたまま、踵を返す。すると、折りしもまた情けない声を出しながら、
「ラドちゃん、待ってって言ったでしょぉー!?」
ウォルドロンが薄手の上着らしきものを片手に、脱衣場から出てくるところだった。そして、ちびすけが俺の背中によじ登った姿を見つけるや、目を見開いて「ヒエッ」と裏返った声を上げる。
「ラドちゃん、何してるのぉ!?」
「のぼってる」
「登っちゃ駄目でしょ!」
「たのしい」
「お前、いつの間にか喋り流暢になってないか」
「ふふん!」
自慢げな顔をするのは、まあ、何だ、多少微笑ましく思えなくもないが。
「ウォルドロン、気にしなくていい。これは割と人の話を聞かん。何から何まで、世話になったな」
言いながら、その手から上着を取り上げ、代わりに小さな紙包みを差し出す。これは、ときょとんとした様子の娘には、ただ一言。
「礼だ、取っておけば何かの際には使えるだろう」
中身はやや無粋といえば無粋やもしれないが、誰にとっても使い道のあるものであることは否定できまい。それに――
「口止め料を含んでいると思って、受け取ってもらいたい。まだ、ラドのことは対外的には伏せておいた方がいいだろうからな」
「あっ、は、はい! 了解致しました!」
こういう使い方も、できる訳だ。
紙包みを受け取り、慌てて敬礼を返す若き兵士に「結構」と頷き返す。
「幸い、これも君には慣れたようだ。何かあれば、また手を貸してもらうことがあるやもしれんが」
「私でよろしければ、何なりとお申し付け下さい!」
「そう言ってもらえると助かる。第三大隊長には、俺からも一言伝えておこう」
「恐縮です」
「では、只今をもって、補佐の任を解く。素晴らしい働きだった」
「とんでもございません! ――それでは、失礼致します」
きびきびと返事をし、ウォルドロンが退室する。それを見送ってから、書き物机に戻り、備え付けの通信術具を起動した。
半透明の白いオーブ型のそれは、双方が術具を持ち、相手の識別番号を知ってさえいれば、およそ国内のどこにいようと対話を可能とする優れものだ。十年ほど前に開発されて以来、その有用性を見込まれ、騎士団のみならず民間でも、驚くべき早さで導入されていった。
オーブの表面に手を当て、識別番号を検索する。目当ての番号は、すぐに浮かび上がってきた。
とん、とオーブを指先で叩き、通信を試みる。
『……ファースだ。ガザートか。どうした?』
短い沈黙の後、通信術具特有の雑音混じりの声が聞こえてきた。なにこれ、と驚いた様子のラドには「後でな」とお決まりの台詞を掛けてから、
「ひとまず、問題の案件は片がついた。コブ付きで構わないのであれば、報告に出られそうだが」
『もういいのか?』
「一応はな。ただ、衣食整った分、いつ昼寝に入ってもおかしくない」
『……分かった。大隊長連中には、こちらで声をかけておく。十分後に会議室へ来い』
「了解した」
それきり、通信は途切れた。
「ろー」
「どうした」
「いまの なに?」
「遠くにいる誰かと話す魔術だ。上司――と言っても、さすがに分からんか。ともかく、これから少しお出掛けだ。我慢できるか?」
肩に掴まり、顎を乗せたこどもを横目に見て、問い掛ける。ラドは青く煌めく眼をぱちぱちと瞬かせた後、こくりと顎を引いた。
「だい じょぶ」
「いい子だ。眠くもないか」
「ねむくない」
「結構、では降りろ」
「なん で!!」
愕然とした顔をされた。
何を言っているんだ、このちびすけは。それこそ俺の台詞だろうが。
「出掛けると言ったろう。まさか、このままくっついて行く気だったのか」
「うん。らく」
「即答するな。横着をするんじゃない」
「ろー は けち」
「お前、要らん主張だけ流暢すぎないか?」
因みに、結局ちびは俺の背中に貼りついたまま離れることはなく、俺はその体勢のまま兵舎から本部棟までの移動を余儀なくされた。
無論、この程度で音を上げるほど柔な鍛え方はしていない。いないが、肝心のこどもが転げ落ちやしないかと気になるわ、運悪く俺たちに遭遇してしまった隊員が軒並み唖然とするわで、面倒なことこの上なかった。幻覚でも何でもないので、真顔で三度見とかしなくていい。
それから、別に俺の趣味でこんな事態に陥っている訳ではないので、くれぐれも勘違いは止めてもらいたいところである。誰が人攫いだ。
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