第22話 防具をつけよう
飴ちゃんを配った皆から礼を言われながら、僕らはその場を後にして、ルクスド武具店へと戻ってきた。
何も言っていないのに、僕らの晴れ晴れとした顔を見てほっとしたようにハザルは
笑って
「ティアール様をよろしくお願いします」
と、言った。
そして、用意してあった二人の分の数種類の武器を、接客用と
エミに用意されていたのは、三種類の武器。
一つは鞭。
そして、もう一つは短剣。これは、考え方としては魔法使いに近い。自分のテイムモンスターが離れた場所にいて、自分を守れない時にこの武器を使うといった感じだ。
そして、最後は……どう見ても……巨大なネコじゃらしだった。
「えっ、なにこれ? ……ふざけてる?」
「嘘ぉ!? これが武器!? 武器なん!?」
と言いながら、エミは興奮して嬉しそうにテン君の前でそれを振り回すが、テン君は反応していない。多少目では追っているが賢く座っている。
エミは反応してくれないテン君に、首を傾げながら少し不満げに口を尖らせた。
「ふざけてなんかいません。これは武器ですよ。物理攻撃はできませんけどね。これはそのように使うものではないんです。あくまでも、モンスターをいなす為のものなので。テン君が反応しないのは、すでにエミさんにテイムされたモンスターだからですよ」
「つまり、敵対しているモンスターの攻撃を受け流す為の…?」
「攻撃される前に、になりますかね。別の部屋に、武器を試す為の場所を設けてあります。そちらで後で使ってみましょう。あとは、ナナノさんの武器ですが……」
ナナノの武器は、四種類用意されていた。
一つ目は刀。短めの直刀で、抜いてみると刃は光が反射しづらいように、曇った物になっていた。刃文は
二つ目は鎖鎌。鎌の
三つ目は鎖刀。鎖鎌との違いは、鎌の部分が一つ目のに出されたものに近い短い刀になっているという点くらいだろうか。
そして四つ目は、ものすごく大きな十字型の手裏剣だった。刃の先から先までは地面から腰の高さくらいあるだろうか。
「最後に出す武器は、ちょっと色物にする決まりでもあるのか?」
「そんな決まりはございませんが、私が個人的におすすめなものは最後に持ってきたい性分ではありますね」
「そ、そうか…」
「ルクスドのオススメは、
そうティアは言うが……。ハザルを信じないわけではないが、少し試してみてもらわないとだめだな。
「あと、忍者はサブ武器に小型の手裏剣を持つのが主流ですが、どのタイプにするかも、後で使ってみて決めましょう。棒手裏剣が投げやすくお勧めです。平型ですと個人的にはこちらの四方剣が良いかと思います。刀もそうなのですが、ちょうどこの間来た東彩国出身の鍛冶屋が、良いものを安く卸してくれたので、勇者様が考えているよりは安価でお売りできると思いますよ」
そういって、ハザルは十字に変形する棒状の手裏剣、四方に刃が突き出た手裏剣、円状の先にいくつも刃が突き出た形状の手裏剣など、スタンダードなものから変わり種までいくつかの種類の手裏剣を出してきてくれた。僕の顔色を見て、値段を気にしているということに気づいてくれるとは流石だった。
そして、次は防具だ。
エミにはメリバイソンの革の服と紅いフレアスカート。左の胸元に心臓を守るように鋼のプレートがついている。
ナナノには動きやすそうなメイルアーマーの上に、東彩国式の濃紺の布の服。そして同色の額当て。ズボンはそのまま『幻影』付きのショートパンツ。
それらを持って、着方が分からない二人に付き添って、ティアが更衣室に一緒に入っていく。
僕は特にやることもないので、更衣室の外でテン君と待つことにした。
「あっ、なるほどぉ…これがエミの言ってた水玉の正体なのねぇ…」
「!! ティアさん、覚えてたんですかぁ!?」
「私、酔ってる時の記憶残るタイプなのよねぇ」
「そうそう、可愛いやろ。水玉忍者や」
「もう! エミさんその呼び方今度したら許しませんから!」
「許さない……とは? 具体的にどんな風に?」
「えっ、えと……えと……、おっ、お醤油とお味噌使わせませんから!!」
「えっ!? わ、割と痛いとこ突いてくるやん……。分かったわ……今度からその呼び方するのやめるし、それだけは」
「分かればいいんですよ、分かれば!」
衣擦れの音と、金属の
会話から推測するに、ナナノの水玉パンツがどうやら見えてしまったらしい? あくまでも推測するにだが。だがナナノはショートパンツは着替えない筈だが……。
「あら、エミってば着やせするタイプねぇ」
「………」
「大丈夫よお、ナナノもまだまだ大きくなるわぁ」
「ふぇ!? き、気にしてませんよ! そんなの全然!!」
「それに、大きくたっていいことないわよお」
「……それはティアさんが大きいから言えるんじゃ……」
「ウチはナナノちゃんの控えめなのも、好きやけど……」
「二人とも、そこそこあるからそんなことが言えるんですよぉ!」
「やっぱり気にしてるんじゃないのぉ」
「……うう……酷い、こんな誘導みたいな……」
んん……? この会話は……一体……。いや、ダメだダメだ、僕は勇者なんだ。 気になるが、こんな聞き耳を立てるよな行為は良くないだろうと判断し、僕は彼女達のいる更衣室から距離を取って、心を無にする。
少し待つと、彼女達は着替えて新しい恰好で出てきた。
「良いですね。私の見立ては間違っていませんでした」
そのハザルの言葉の通り、エミの少し茶が濃い目のメリバイソン革の服は、金色の髪によく映えて、美しい。それになんといっても膝より少し上の紅いフレアスカートが、本当にすごくいい。すらりとした長い足とのバランスが絶妙だ。
思わずハザルと握手したいくらいだ。
そしてナナノの服だが、ここまでぴったりとナナノにハマるとは正直思っていなかった。ノースリーブの濃紺の東彩服、しきりに合わせ部分を気にしている。着慣れない服だからその辺りの感覚には戸惑うだろう。下に細かな目のメイルアーマーを着ているのだから多少はだけても気にすることはないだろうに。
試着して、緩かったりきつかったりする部分もなかったそうで、ハザルの見立ては流石だった。測ったりしていないのに、目測だけでこの精度。熟練の武具屋店主は凄い。
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