第二十七話 結婚式の用意はどこまで進んでいる?

※う~ん、最近、遅筆です。

腰をやってから調子が上がらず……。


腰をやると本当に立ち上がれないので注意が必要です。

未だに朝一番で起きる時に腰に痛みが走る事が……。

一番痛かったときは歩くこともままならずでした。

重心移動が出来ないんですからねぇ、まったく。


ちょっとした愚痴でした。




 朝食が終わり腹の膨れたスイール達はアドルファス男爵達と別れて領主館を後にし、エゼルバルドとヒルダが泊まる教会、--二人の育った孤児院である--を、目指していた。領主館から歩いて十分程の近場にあるために、送迎の馬車を断ったほどである。

 だが、鎧姿にバックパック、そして、別途荷物をぶら下げて歩けば馬車を断ならければ良かったと内心で悪態を付いていた。


 そんな中、これをちょうど良い機会と捉え、|疑問を口に出した。


「ねぇ、スイール。一つ質問していい?」

「おや、アイリーンが質問とは珍しいですね。答えられる範囲なら何でも答えますよ」


 ”ニッコリ”と笑顔で返すのだが、疑問を口にするアイリーンは妙に真顔を見せていた。


「スイールって何歳な訳?」


 アイリーンの突如として口から放たれた言葉にピクリと反応したのは、質問されたスイールではなく先頭を歩いていたエゼルバルドとヒルダだった。

 質問されたスイールはポーカーフェイスを決め込み、頬の筋肉をピクリとも動かさずにいた。


 二人がまだ幼い頃、神父やシスターの年齢を孤児院の子供達と聞いていた時に一度、尋ねたことがあった。だが、その時は何歳かとはぐらかされて、ついには年齢を口にすることは無かった。

 見た目も昔と変わり無く、歳を取っているのかもいつも目にしていて今は気にしなかった、のだが……。


 実際は気にする事がなかったと言うよりも、何となく聞いてはいけなのではないかと思い、口にしなかったと言った方が正解に近い。

 それもあってか、エゼルバルドとヒルダは目を”ランラン”と輝かしてスイールの答えを聞き逃さまいと聞き耳を立てる。


「では、何歳だと思いますか?」

「ちょっと、質問を質問で返すのは反則よ!」


 アイリーンは”ぷんぷん”と頬を膨らませて怒ってみせるのだが、仕方ないと思いつつも脳裏に浮かんだ年齢を適当に口に出してみるのであるが……。


「四十歳……位?」

「多分、その位ですね」


 いい線を突いているだろうと、スイールが自らの年齢を口にするかと思っていたが、なんとも間の抜けた答えが出てきて、アイリーンはビックリして口を開けていた。


「た、多分って何よ。年齢を当てて欲しいワケ?それとも、年齢を覚えて無いとか言わないよねぇ?」


 まもなく教会に到着するこの時に、年齢を当てなければならぬのではと思うと、アイリーンは呆れて頭を抱えようとした。


「じ、実はそうなんです。産まれた年を覚えていないのです。ですから正確に何歳と答えることができないのです」


 まさか、アイリーンが放った言葉が真実であると誰もが思わず、皆が驚いた表情を見せた。そして、いち早く正気に戻ったヴルフが溜息を吐きながら、スイールの肩を”ポンッ!”と叩いた。


「呆れた奴じゃのぉ。よくそれで生きて来れたもんじゃな」

「ヴルフの仰る通り、耳が痛いです。一応、身分証は四十九歳となっていますが、正直、わからないのです」


 四十九歳と言われても、その年齢に見えるはずもなく、四十歳になったばかりと言われた方がしっくりと来るだろうとヴルフも見ていた。


 スイール自らが語った事は、子供の頃の記憶が一切無く、年齢も身分証を取った時の担当官が適当に付けてしまった。なので、身分証に記された年齢と見た目の年齢が合うはずもなかった。


「まぁ、過去に何があったかは知らないけど、勝手に出て行くのは無しよ!ウチ等に黙って、自分探しの旅に出るとか、許さないんだからね」

「わかりました。気になる事があったら、是非とも相談に乗ってもらいましょう」


 アイリーンからキツイ一言を貰ったが、何とかこの場をやり過ごせたと内心に思ったスイールは胸を撫で下ろしたのであった。


 スイールと共に、”ホッ”と胸を撫で下ろしているのがここまで一言も口にしないエルザだった。昨日の湯浴みの時にアイリーンから出ていた質問を誤魔化していた手前もあり、それが明らかにされずに済んだと安心した。実際、スイールの実年齢は知らずとも、親からある程度の実情を耳にしているエルザには、それを話すことなど出来ないでいるのであった。


「ほら、教会に到着したよ」


 スイールに移っていた興味を、教会に到着したと告げて引き戻す。スイールとヴルフには懐かしい教会のたたずまいと、何度も鳴らせと怒られた母屋の鐘が目に入ってきた。

 一つ異なるのは、雑草だらけの小さな庭に鞍を付けた馬が美味しそうに口を動かしていた事だろう。


「随分と懐かしい気がします」

「だな。だけど、あの馬はなんだ?教会には必要ないだろ?」


 教会の庭から見える懐かしい光景に思わず足を止めて見入ってしまう。そこに鞍を付けていつでも飛び出して行ける馬の姿を見れば、戦場にでも向かうのかと勘ぐってしまうだろう。

 だが、それは杞憂だとエゼルバルドが説明するのだ。


「えっと、その馬は旅の途中で譲ってもらったんだよ」

「常識外れだな!馬を簡単に手放すはずないだろうが」


 ヴルフが呆れるのも当然だ。

 農耕馬ならともかく、鞍を付けた戦闘に耐えれる馬を個人的に持つなど常識的に考えてもあり得ないのだ。育成や世話、それに躾、一番障害となるのは維持費であろう。

 だが、その維持費もエゼルバルド達にはあまり気にするそぶりを見せぬのは懐具合があっての事と思われる。


 ヒュドラを倒した地下迷宮で手に入れた宝石類や前年の内乱で得た報酬を含めれば馬一頭を百年単位で世話するなど簡単な筈だ。それに、馬の餌となる草木もここブールの郊外には王都アールストと違い豊富に生えている。


「でもね、譲って貰ったと言っても、追加報酬の代わりね」

「追加報酬?お前達は二人で首を突っ込んだりしてないだろうな?」

「あっ!」


 余計な心配を掛けぬようにと気を使っていたエゼルバルドはヴルフの質問を誤魔化すつもりでいた。それをヒルダがうっかりと口を滑らせてしまった事により、話さざるを得なくなってしまった。


「はぁっ~。まぁ、仕方ないか。ブールの街へ向かうだけだと時間を持て余すだけだと思って、商隊の護衛に混ぜて貰ったんだよ。その時に変な集団に遭遇して、そいつらを叩きのめしてやったんだ。この馬はそいつから乗っていた馬、報酬の追加というよりは戦利品って意味合いが強いかなぁ……」

「はぁ、また首を突っ込んで……。二人は結婚式を挙げるとわかっているのですか?ここで命を落としたら周りが悲しむんですよ……」


 手に入れた経緯いきさつを話し終えたエゼルバルドを睨みつけながら、スイールは軽率な行動を取った二人を戒める。

 二人が式を挙げると祝っているのは何も親代わりのスイールや神父にシスター、そして旅の仲間のヴルフ達仲間だけではない。受け取った手紙にもある様に王女であるパトリシア姫からも言葉を貰っているのだ。

 そうなると、二人だけの問題では無くなってくる。


「うぅ、返す言葉がない……」

「ごめんなさい……」


 猛省して下を向くエゼルバルドとヒルダに、”何時までも私の子供のままですね”とその姿にしみじみと思うと、仕方ないと二人の肩を”ポンッ”と叩く。


「起こった事は仕方ありません。今は二人が無事にいる事を喜びましょう」


 スイールが放った言葉に、エゼルバルドとヒルダは笑顔を取り戻すのであった。







「こらぁ!アンタ達ぃぃ!!外で喋ってないでさっさと入ってきなぁ!!」


 教会の庭での会話が聞こえていたらしく、イライラしているシスターが玄関から顔を出して、ブールの街に響くのではないかと大声で叫んできた。そんな声でいつまでも喋っていたら教会で祈りを捧げている信者の邪魔になるだろうと言うのだ。

 確かに、スイール達が立つ庭の横には礼拝堂がみえ、厳かな雰囲気に関係ない声が漏れ聞こえれば荘厳な雰囲気も台無しになってしまうだろう。


「「ごめんなさ~い」」


 エゼルバルドとヒルダはスイールに下げた頭をシスターに向け再び下げるのであった。スイールに戒められ、シスターに怒られ、散々な目にあったと涙目になっていた。


「初めて見る顔もいるから、早く入っておいで。とりあえず、お茶でも淹れてあげるよ」


 そう言うと、振り向きもせず母屋の中へと戻って行くのである。


「それじゃ、スイール達は先に行ってて」

「エゼルバルドとヒルダも一緒じゃないのですか?二人揃って、何処へ行くのですか?」


 気を取り直したエゼルバルドとヒルダは、庭に放されている馬の手綱を取り外へ向かおうとする。当然、それを見たスイールは不思議に思う。

 今、領主館から帰って来たばかりで、母屋にも入らず出掛けるなど余りにも急ぎ過ぎではないかと。


「結婚式の衣裳の打ち合わせなの」

「まさか、泊りになるほど飲まされるとは思わなくてさぁ」


 それならば仕方ありませんねと思うと、スイールは馬に跨り”パカリパカリ”と響かせ進みゆく二つの音色を見送った。

 見送られ揺れる尻尾が、”二人は任せておけ”と力強く語っていた様に見えたのは気のせいではないだろう。


「それじゃ、旅の疲れをとることにしましょう」

「旅の疲れじゃないわよ。飲み過ぎの疲れよ!」


 スイールが母屋へと入ろうと声を掛けるが、旅の疲れなど酒の前にはすでに吹っ飛んでしまったと告げてきた。

 そして、”その通りじゃ”との表情をしながらヴルフが先頭に立ち、シスターが怒声を浴びせて来た玄関から入って行った。







 母屋のリビングにはすでに四つのコップがテーブルに置かれて、井戸水で冷やされた心地よい葡萄ジュースが並々と注がれていた。お茶にしようかと思ったが、夏に向かう天気では冷たいものが欲しいだろうと、ジュースに変えていたのだ。


 シスターの他には誰も見えず、広いリビングが寂しく見える。だが、部屋の端にシスターやヒルダとも違う女性の持ち物が置かれていれば、どこかへ仕事にでも向かっているのだろうと思えなくもない。


「ホント、久しぶりだね。あの子達も元気だったけど、お前さん達も無事で何よりだ!」

「私こそ、あの二人には助けられてばかりですけどね」

「ふん、嘘ばっかりだね!」


 シスターが口にする相変わらずの言葉遣いに、昔を思い出すスイールとヴルフ。悪気が無いだけに達が悪いのだが、それも性格なのだろうと諦めることにした。たった二年、離れただけでは口の悪さが治る事はあり得ないだろう。


「そうそう、そちらの二人は何だい?もしかして……」

「旅の仲間ですよ。変な事を思い浮かべないで下さい」


 ニヤケ顔を浮かべるシスターに勘違いをしては困ると邪な考えを否定する。そして、アイリーンとエルザをシスターに紹介するのだが、やはりエルフは珍しいのかまじまじと観察をしていた。

 若さの秘訣はとか、肌の艶はどうやって保っているのかと質問されるが、当のエルザは種族的な事なのでと、困惑気味に答えていたのが見てみて微笑ましかった。


「そうそう、あの二人エゼルとヒルダがいない間に聞いておきたいんだが、スイールはお城の姫様から何か聞いているかい?」

「もしかして、結婚式の事ですか?」


 ”まだ帰って来ないだろうか?”と、リビングの入り口を気にしながら、真剣なまなざしをスイールへと向けた。

 コップの葡萄ジュースを飲み干しながら、そう言えば、パトリシア姫から言われたなと思い出しながら答える。


 それを皆が耳にすると”ピクリ”と視線だけをシスターに向けた。


「聞いてるのなら話が早い。今、あの二人エゼルとヒルダが何処に向かったか知っているだろう?」

「結婚式の衣裳の打ち合わせでしょ。羨ましいったらありゃしないわ」


 ”アンタ、まだ一人身なの?”と、答えたアイリーンを憐れむような視線をシスターが送りながらさらに続ける。


「どうやら、これもお姫様の悪戯の一環らしいさ。何をするかまだ教えてくれないけど、確実に衣裳に何かするつもりだ。アンタらも覚えておくといい」


 悪戯をすると聞いていたが、まさか、ここまで指示をしているとはスイール達は思いもしなかった。式の真っ最中に嫌がらせみたく怒鳴り込むか、知らぬ間に参列者に交じっているか、その程度かと予想していたのだ。

 予想を外れ、想像の範囲を超える悪戯を計画するパトリシア姫に少なからず恐怖を覚えてしまうのであった。


「そんな訳だから、あんた等も黙っているように」


 コップの葡萄ジュースをグイっと飲み干すと、他言無用だと釘を刺すのであった。


「そうそう、シスターにお願いがあるのですが?」

「ん?宿かい」


 スイールが告げた言葉に即座に反応した。まるでそれを聞かれる事を事前に予測していたかのように。


「エゼルとヒルダから聞いてるよ。二人追加になっているってね。二人相部屋で良ければまだ余ってるから心配いらないさ。だけど、人数が増えるんだ、手伝って貰うからね」

「それはもちろん、喜んでお手伝いしますよ」

「食費もね」


 さすがに無料タダで泊める訳には行かぬと、含み笑いをしながら右手を出して宿泊費を求めるのであった。




※スイールの年齢?さて、何歳なのでしょうか?

 結婚式の準備は着々と進んでいます。

 当然、姫様が予定している悪戯も?

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