第二十七話 敵を討ち取ろう!

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 降りしきる雨音を外套越しに聞きながら、アマベルとカーラは並んで走っていた。

 アマベルはともかく、カーラもゆっくりとした長距離移動は何時もの事であり、負荷になる事など無いのだが、駆け足で追い掛けるなど普段では考えられなかった。


 前衛のアマベルには”少し早いかな?”程度であってもカーラには体力を奪う運動その物だった。

 かなり無理して走っているが、そろそろ体力の限界が来て、アマベルに任せて足を止めてしまおうかと思った。だが、視界に入るアマベルの必死な表情を見れば、足を止める訳にもいかないと吐き気をもよおしながらも必死に動かし続けた。




 二人が抱いた印象は共に、”とんでもない人達に遭遇してしまった、いや、付いて来てしまった”だった。

 この襲撃の渦中の中心にいるのは、間違いなく自分達二人であると理解はしていたが、こんなにも組織だって動く集団に入って解決に動くなど、思いもよらぬことだった。

 人数の掛け方もそうだが、用意された馬車の数、揃いの装備、命令一下で動く統一された動き、そして、襲撃に際しての命令など、数人で動いていたアマベル達には未知の世界をその目に見ていた。


 一つ例を上げるなら戦闘能力の高さだろう


 アマベルは剣の扱いには自信があった。

 中等学校を出てから一年程、普通の仕事をしていたが何となく肌に合わず、地下水路の鼠退治を小さい時からしていた事から剣を使った仕事をしたいと訓練所に通い直し、それから約五年怪我もしたが、生き抜いて来た自負もありそこら辺の男達に負けない腕前は持っていると思っていた。


 だが、それが脆くも崩れ去り、剣の腕だけではなく作戦遂行能力にも優れる者達がこんなにもいるとは思わず、自信を無くしていた。

 それはカーラにも言える事であり、走り回った後での戦闘、そして支援している姿を見ていれば、今までがぬるま湯にどっぷりと浸かっていたいたとさえ思えて来た。


『ほら、”ぼ~”っとしてないで援護お願い!』


 前衛で剣を振っているパティパトリシア姫が、カーラに向かい援護を要請してきた。頭でわかっていてもなかなか攻撃のタイミングが掴めない。彼女の後ろで援護しているアンジュがカーラをしまっていて、その場所を退いて欲しいと思っていた。


 その後、アンジュの援護によってパティパトリシア姫はなんとか敵を打ち倒した。


 パティの隣では戦槌ウォーハンマーを振るう頼もしい仲間、--パティはアンブローズと呼んでいる--が、重い武器を扱いながら敵を圧倒し、彼もまた敵を一人打倒した。


 後ろから戦いを眺めていた二人は戦いに圧倒され、何故こんな所にいるのだろうと自問自答をしていた。




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「お嬢様、敵の親玉が逃げます」

「こらー!!逃げるなー!!」


 暗い隠し通路に身を滑り込ませる敵の親玉に大声を上げるが、パティパトリシア姫とアンブローズの声は三人の護衛に阻まれ完全に無視されていた。


 彼女等は親玉を追い掛けようとするも、その三人が行く手を塞ぎ時間を稼ごうと武器を構え今にも飛び掛かって来そうな気配であるが、敵との間に鮮血を流して息絶える男二人が横たわっている関係で、一足飛びに向かって来ることは無いようだ。

 それはパティパトリシア姫達に言える事で、攻撃するには躊躇するのだ。


 そうこうしているうちに敵の親玉を何処かへ逃がしてしまう焦りが出てくる。


「どうにかして親玉を追えないか?」

「この状況では無理です、敵を倒さぬ限り」

「如何すれば……」


 じりじりとにじり寄るが、倒した敵が横たわる現状はさすがにばつが悪いのか、アンブローズでさえ手が出せずにいる。

 そこに、親玉の行方を予想したアンジュが叫ぶ。


「パティ様、恐らく外へ逃げたと予想します」

「外?逃げ道があるというのか?」


 近づくのを止め、下がり気味になりながらアンジュへ聞き返すと彼女は”はい”と軽く頷いた。

 襲撃前に確認した出入り口は三か所で、その全てから突入していた。それ以外に逃げ道があるとすればと、牽制しながらパティパトリシア姫は考える。


「もしかして、裏に逃げ道が繋がっているのか?」


 パティパトリシア姫の脳裏に、この建物の裏手にゴミ捨て場の様な小さな箱が置かれていたのを思い出した。暗い隠し通路の先がそこならば、地下を通ってそろそろ外に出ても良い時間だと感じた。

 あの親玉が入った暗い秘密の通路は、建物の中央を目指すように伸びているとすればそれが正しいはずだ。


「アマベル、カーラ。二人は奴を追い掛けてくれ」

「えっ?私達、二人で」

「こっちは手が離せない。お嬢様の指示通り、二人にお願いする」


 パティパトリシア姫の指示にアンブローズも同意して二人に別行動を促す。三人の敵を今から打ち倒し追い掛けるのは無理がある。かと言って、ここで撤退しながら親玉を追い掛けるなど追撃してくれとお願いしていると同義であろう。

 今の段階で、遊兵となっている、アマベルとカーラに任すのが一番だと二人は考えたのだ。


 それに、パティパトリシア姫が”追い掛けて”と叫び声を上げた時に一瞬だけ見えた敵の表情にそれが正しいと確信した。


「いいから、さっさと指示に従って追い掛けろ。この場とお嬢様は何とかする」

「わ、わかった」


 サッと、踵を返してフードを被り直すと、押し入ったドアへと二人は急いで向かった。

 パティパトリシア姫は二人なら大丈夫、捕まえてくれるだろうと委ねる。


「さて、アンブローズ。終わりにして取り戻すとしよう。アンジュも一人任せて良いか?」

「はい、お嬢様。攻勢に転じましょう」

「パティ様、お任せください」


 主人を守りにここを抜け出したい敵と、親玉を追うアマベル達へ敵を引き留めたいパティパトリシア姫達と形勢が逆転した所で戦闘が始まった。




 二人の横へ並ぶようにアンジュが前衛に出てナイフを投擲したところで、戦いの火蓋が切って落とされた。

 ナイフがすべて手から放れ、空手となった右手には順手で、そして左手に逆手で短剣ダガーを瞬時に取り出し敵に駆け寄り右手を突き出す。当然ながらそんな簡単に屠れる相手ではない事はアンジュもわかっていた。


 アンジュの目的はあくまでもパトリシアとアンブローズの援護であり、二人を勝たせる場面を作り上げる、そう、三人のうち一人を引きはがす事だ。

 敵は男一人に女二人とみて甘く見たのだろう、アンジュの策略に易々と乗ってきた。


 そして、短剣ダガーを敵の目の前でワザと空振りしてから後ろに飛び退き間合いを取る。ここからがアンジュの本領発揮だ。

 間合いを取った事で敵はアンジュが不利な状況を打破しようと間合いを取ったと勘違いしただろう。それは敵の構えを見ればすぐに理解するだろう彼女に対して武器を向けていれば。


 アンジュは敵を見て、ニヤッと口角が上がったのがわかった。そう、彼女の計略通りに敵一人をアンジュが引き離したのだ。これでアンジュの仕事は一応の終わりだが、探偵事務所の所長ミシェールの期待に応えようともう一踏ん張りしようと考えた。


 ショートソードを細かく振るう敵は、アンジュの接近を容易に許す訳もなく、巧みに距離を取っていた。

 短剣ダガー二刀流のアンジュは左手の逆手で握った短剣ダガーを盾代わりにして近接戦闘に持ち込もうとしていた。敵のショートソードが上段から、左右から振られるたびに短剣ダガーで受けて、攻撃を叩き込もうとしたが敵が一枚上手なのか、なかなか隙を見せない。それでも、持ち前の素早い動きで敵を翻弄してゆくが、最後の一撃を叩き込めずにいた。


 アンジュは実戦経験で言えば、この三人の中で一番少ないとみて良いだろう。

 基本、暗闇で敵を背後から不意打ちで屠る訓練を一番しているだけあり、正面からの戦いは苦手だった。出来なくもないが、今はまだ決定打に欠ける戦いしか出来ない。

 あと一歩、敵に近づけばアンジュのペースに持ちこめるのだが、実戦経験の少なさから、出来ないでいた。


 だが、アンジュの今回の仕事は敵を引き離す事だ。勝たなくても生き残ればそれで良いと、今の状態を甘んじて受ける。




 ”ぴちゃぴちゃ”と、脳漿や鮮血で染まる床を踏みながら動き回り、アンブローズは敵と一騎打ちに入った。息絶え、横たわる敵を怪訝に思いながらも、足を滑らせない様にと神経を集中させながら戦槌ウォーハンマーを振るう。

 逃げた敵を実力もわからぬ二人にパティパトリシア姫が追わせたとは言え、敵を早く打ち倒し追わなければならぬ事は変わらない。


 はっきりと言えば、敵の実力はたいしたことが無かった。

 いつも通りに戦えば、あっという間に決着が付いていただろう。だが、そのたいしたことの無い敵に相対するも、アンブローズは苦戦を余儀なくされていた。


 原因は幾つかあって、一つが巧妙な位置取りだ。剣の腕前はたいしたことが無いのはその通りなのだが、幾多の戦いを生き残ってきた経験を生かし、アンブローズの足元に息絶え横たわる敵を来るように位置取りをしていたのだ。死んだ味方をも利用する無慈悲な男に怒りを覚えるが、怒りをぶつけようとしても、すんでのところで躱され、いや、攻撃範囲から外れてしまう。

 かと言って、攻撃の手を緩めれば攻撃を迫られ、防戦一方になりかねない。何とも巧みに動くのだと感心するしかない。


 悠長に敵に時間を許す訳にもいかぬと、腹を決めたアンブローズは敵を打ち倒そす算段を取ろうと一度後ろへ飛び去り、自分の身を確認する。


(予備の武器はちゃんと定位置にある!)


 左手を外套の中に一度収め、腰に帯びている予備の武器のショートソードを確認した。普段の公務であれば無様な戦いを見せぬが、今は特殊任務の真っ最中であり勝つ事こそが全てなのだ。

 あらゆる手段を使い、敵を打ち倒す事こそが自分に与えられた仕事であると割り切った。


 円形盾ラウンドシールドを体の前に出して敵に備え、戦槌ウォーハンマーを肩に担ぐ。

 その奇妙な姿勢に敵は、盾殴シールドバッシュでもするのかと、それに備えて剣を前に出し、身構えるとアンブローズを待ち受ける。


「はぁっ!!」


 アンブローズが床を蹴ると同時に、肩に担いだ戦槌ウォーハンマーを思い切り、敵に向かって投げ付ける。数歩の距離であったが、まさか武器を投げて来るなど思わぬ敵は、度肝を抜かれ思わず体を捻って躱した。

 そこに、アンブローズは息絶え横たわる敵を飛び越え、”グラッ”と姿勢を崩した敵に接近し、ついには円形盾ラウンドシールドを敵の顔面に叩き込んだ。


 ”ゴフッ!”と鈍い音と共に鼻を折った衝撃が盾を伝いアンブローズに届く。

 その勢いのまま敵を背中から押し倒すと馬乗りになり、ショートソードを引き抜いて目を回し無抵抗となった敵の首筋に勢い良く突き立てた。

 ショートソードをゆっくりと引き抜くと、口と貫かれた首の傷から、真っ赤な鮮血があふれ出し、それに加えて”ヒューヒュー”と息が漏れ出る音が聞こえ出した。

 持って数分の命だが、流血の惨状を見ればもう助かる事は無いだろう。呆気ない末路とは言え、虚しさを覚えるのだった。




 アンブローズと同じように息絶え横たわる敵を間に挟み、パティパトリシア姫も苦戦をしていた。アンブローズと戦っていた敵程ではないが、この敵もそれなりに実戦経験を積み、命を失った味方を盾にパティパトリシア姫と対峙していた。


 ミドルソードのパティパトリシア姫と同じ刀身のブロードソードを振るう敵に、彼女は力負けをしていた。

 強烈な初撃を剣で受けてしまった。剣は敵の剣戟を受け切れるだけの余裕を持つが、そのまま二撃三撃と受け続ければパトリシア自身が消耗してしまう。

 幾らパトリシアが剣を振るう訓練を続けているとは言え、男と女の筋力を逆転するなど生半可には出来るものではない。


 防戦一方の劣勢になりつつある戦いを切り替えようと戦闘スタイルを思い切って変える事にした。攻撃を受けて振るのではなく、受けずに突く先方に変えた。

 振るよりも体力の消耗は少なく、そして、切っ先の向けられた場所によっては受け難く態勢を崩し易いと考えた。

 それに、敵の戦法と同じように、息絶え横たわる敵を十二分に活用してギリギリで攻防を始める。


 息絶えた敵を盾に戦うなど、ならず者のする事と言われるかもしれないが、彼女の先生はエゼルバルドやヒルダ、そして二人を教えているヴルフだ。戦場の怖さを誰よりも知るヴルフに師事すれば、そんな些細な事よりも生き残る事を考えろと言われる。

 騎士道精神など戦争にあって無駄なだけとヴルフは常々口に出していた。それを利用する事も当然あるのだが……。


 そして、パティパトリシア姫がこんな高度な攻撃を出来るのは、毎日の訓練の賜物だ。特に騎士達との訓練に参加し、常に負けてばかりで如何にして負けぬ戦いをするかを常に考えさせられていた。

 それで、自らが有利になるような攻撃を考えるのが、訓練中は課せられていると思う様になり、その成果がこの場で出てきた。


 とは言え、敵はパトリシアを上回る経験の持ち主であり、今の状態でパトリシアが勝つ事はありえないと感じた。

 突きを繰り出してもあっさりと躱され、すぐに反撃されて剣先を弾かれてしまう。有利なのは敵の剣筋が見え、何とか躱している状態だ。


 パティパトリシア姫が敵からの攻撃をこらえていると、その敵に隙が生じた。

 アンブローズが戦槌ウォーハンマーを敵に投げつけ、敵に迫りそのまま敵を打ち倒した光景を一瞬視界に捉えたからだ。戦槌ウォーハンマーが強烈な激突音を出したのもそうだし、盾殴シールドバッシュの打撃音もそうだった。

 二つの轟音がパティパトリシア姫の敵に隙を作ったのは紛れもない事実だった。


 パティパトリシア姫は一度目の轟音と同時に攻撃を繰り出し、二度目の打撃音が聞こえた時には敵の意識がパティパトリシア姫からわずかに逸れ、繰り出した彼女の切っ先が敵の喉元を”ブスリ!”と貫いた。

 女の力とは言え、鋭い切っ先は敵の喉深くにまで貫き通し、延髄まで到達していた。

 固い首の骨を折るまでは行かなかったが、そのダメージはすさまじく敵は掲げた剣を振り下ろす事なくその場へ崩れ落ちた。


 剣を引き抜き、自らを見れば敵からの攻撃を何回も受け、切り傷から血が滲んでいた。その痛みを感じぬほどにパティパトリシア姫は敵に集中していたらしい。




 アンブローズとパティパトリシア姫の二人が敵を打ち倒した光景を見て、アンジュと対峙していた敵は三対一では敵わぬと、武器を捨てて降伏を申し出たのである。




※シールドバッシュの当て字を考えようと、”bash”をGOOGLE先生に尋ねたら、UNIXのシェルコマンドが先に検索結果だ出たんですけどぉ・・・。

ちなみに意味は殴るだった・・・。


派手な戦闘もいいですけど、一対一の戦いをじっくりと書き込むのもいいですね(実力不足はありますが)。

色々とシチュエーションがありますけど、一周回って、ガンダムの対グフ(ランバラル)が最近のお気に入りです。

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