第二十六話 いざ、討ち入りでござるわ!

    ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「ふぁぁ~~ぁ」

「あふう~~ぅ」


 大きな欠伸をしながら二人の男はドア横の物見の窓から、降り続く雨の音に気を取られながら大通りを眺めていた。雨粒のはっきりと見える雨が続き視界の悪い夜は来客が多く、引っ切り無しに客が出入りする。

 生活が昼夜逆転して睡眠十分な見張りの男達であったが、客足が途切れたこの深夜に一息付けそうだと大きな欠伸をしたのである。


 欠伸と言うのは、一人がすると傍らにいる者に伝播し、次々と欠伸が移って行く。そう、この見張りの男二人も、一人が大欠伸をしたがために、相方の男にも伝播し、二人が時間差で大きな欠伸をしていた。


 見張りに付いてからまだ一時間程だったが、つまらぬ見張りの時間に”早く終われ”と思いながら見張るだけだっ。


「……ん?おい、外で何か動かなかったか」

「外だぁ?俺には何も見えなかったぞ、気の所為じゃないのか」


 もう一人が欠伸をしている間に見た窓の外、それも遠くにきらりと光る何かが見えた。相方は気の所為だと真面目に取り合ってくれない、とすればどうするかと考え、もう一度窓から外をじっと見つめる。


「ほら見ろ、何も無いじゃねぇか」


 相方はそう言うが、確かに一瞬光った何かが目に捉えられた。だが、相方の言う通り、気がしただけなのかもしれないと思い、頭を振り通常の見張りに頭を切り替えた。




 それからしばらく経過して、天から降ってくる来る雨がさらに激しさを増した頃、風景に溶け込む黒い外套を羽織った客が一人、物見の窓から見て取れた。だが、見上げる程の身長の大男は、腰をかがめなければ入り口を潜れぬだろう。そして、その客から威圧感を感じ、見張りの男達は身がすくむ思いであった。


 急な来客に驚きながら観察を続けていると、どの様に開けようかと悩んでいるようであった。

 客が悩むのも当然で、外側にはドアノブや取っ手の類は一切無く、内側から開けるしか無い。

 常連客なら当然知っている筈仕組みを知らぬ大男は、いまだに如何やって開けるか悩み続けている。そんな光景を目の当たりにすれば、大男が招かれざる来客であると断定出来る。


 それならば、この場所を知り得る大男をさっさと始末してしまった方が良いだろうと、相方に無言の合図を送ると屋敷の奥へ応援を呼びに行かせた。

 外套でから飛び出てる武器の柄も見えず、見掛け倒しだろうと思えば二人で十分に対処できるだろうと考える。

 だが、窓の外に見える大男の身長は見張りの男達より高く、不測の事態を考えて応援を呼びに行かせた。


 そして、応援が二人来て四人になった所で、ドアの前を”ウロウロ”している大男を始末しようと、脇にある秘密の出入り口からそっと外へ出る。


 見張りの男達が大男の後背に回り込んでも尚、ドアの前で”ウロウロ”している姿を見て少しだけ不憫に思う。

 だが、この場に居座られては業務妨害だと考えさっさと排除しようと息を飲んだ。

 声を殺し足音を消して”そろりそろり”と近付き大男を殺そうと剣を振り上げたのだが……。


「ようっ!遅かったじゃねぇか、後ろから襲えば俺を倒せると思ったか?」


 外套に打ち付ける雨音に消され、接近に気付かれない筈、と思っていた見張りの男達は、振り返った声の主を見て驚いた。

 四人で一気に襲撃し、一瞬で始末してしまうはずだった。その襲撃をこの雨の中で見破られてしまえば、彼らの勝利は遠くなるのだった。それが四対一で囲もうとも……。


「ち、畜生!こいつを始末するんだ」

「おう!」


 後背に密かに近づき襲撃を掛けるつもりが、正面からの攻撃になってしまえば、ゆっくりとした動作も無言を貫くのも、もはや無意味だった。見張りの男達は武器を握り、大男に向かって連携の取れぬ攻撃を仕掛ける。


 ”死ねぇ!!”と叫びながら一人が切り掛かる。そして二人目も切りかかる。

 玄関先の狭い場所で四人同時に攻め掛かれるほど広い場所は無い。ましてや、見張りが見ている玄関のドア先で戦闘など本来ならあるまじき出来事なのだ。

 そもそも、玄関からの襲撃時に守備し易い構造にしていた事が今回は裏目に出てしまった。


「おらぁ!!」


 大男は両手にブロードソードを一本ずつ握り、左右の腰から解き放つと同時に二人からの剣戟を受け止めた。


「ば、馬鹿な!」

「あ、ありえん!!」


 二人は渾身の力を込めて剣戟を放った筈だった。決して手加減や見くびりなどせず、全力で切り掛かったのだ。だが、その攻撃もあっさりと、しかも片手で受け止められてしまった。


「ふん、訓練が足りん。鍛え直しだな……。だが…」


 大男はブロードソードを動かして相手の剣を滑らせ、姿勢を崩させると左右の剣をそれぞれの男に振り下ろし、肩口から一気に袈裟切りにして二人を屠った。


「お前達にその時間は無い」


 命を刈られ、崩れ落ちる二人を見下ろしながら、残念そうに大男は呟いた。


「ち、畜生!仲間を殺しやがって」

「おいおい。お前たちが俺を殺そうとしてたんだろうが」


 一瞬で屠られてしまった仲間を見て残った見張りの男達は動揺を見せた。

 外套の中に慎重に見合わぬナイフを隠しているかもしれぬと考えていたが、まさかブロードソードが、しかも二本も表れた時はどうやって隠していたのかと考えてしまった。


 四対一で絶対的に優勢だった見張りの男達は一瞬で劣勢に立たされ、どうするかと頭をひねると同時に背中に冷や汗が流れ出た。逃げる事も攻める事も不可能なこの現状を如何にして解決するべきか瞬間的に悩んだが、大男が右手のブロードソードを高く掲げたのを捉えると、攻撃されると身を固くした。


 そして、暗闇に浮かんだブロードソードが男の頭上で”くるくる”と回される不思議な光景を見てしまう。それが何を意味するのか考える間も無く、男達は鈍痛を感じると視界が暗転し、そして、帰らぬ人となった。




 障害を排除した大男の側に数人の黒い外套を羽織った男達が何処からか姿を現した。


「お疲れ様です。しかし、団長自らが出張るなど我々は”ハラハラ”しておりましたよ」

「あんなの戦いでもなんでもありゃせんわ」


 足元に横たわる四つの物言わぬ骸に視線を落とし溜息を吐いた。

 全力を出すまでも無く倒された四人に運動にもならなかったと残念がった。

 二人はこの大男が倒したが、残った二人は部下がそれぞれをクロスボウで一撃の下に仕留めていた。

 打ち合わせの通りであったが、この雨が降りしきるの中で狙いたがわず頭部に命中させてしまう腕を褒めるしかなかった。実のところ、自らの剣で止めを刺したいと思っていた。


「まぁ、良い。合図を送れ、これから俺達はこのドアを破って突入する」

「あの、団長。取っ手がありませんが?」

「任しておけ、その代り、突入の先陣はお前達に任すからな」


 クロスボウを持った部下がランタンを腰のベルトから取り外し、来た道へ向かいランタンを掲げると、その先からも同じようにオレンジ色の光で返事が返ってきた。


「準備は良さそうだな。三十数えたら突入するぞ。あくまでも陽動だからしっかり引きつけるんだぞ」


 ランタンの光で返事が返ってきたのを確認した団長は部下に指示を出し、カウントダウンを始めた。


「……三、二、一、フンッ!」


 団長が逆手で握ったブロードソードをドアに突き立て、ドアノブのように引っ張り強引に開ける。真っ暗な口が彼らの前に現れると、屈強な男達は我先にと突入して行く……。




    ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「パティ様、始まったようです」


 団長達が襲撃する玄関とは反対の建物の裏手、垣根に隠れて耳を立てていたアンジュがパティパトリシア姫にそう告げた。合図を貰ってからおおよそ三十秒、予定通り正面から騎士団団長ギルバルドに率いられた五名が突入を始めたのだ。

 外套に激しく雨が打ち付けられているが、アンジュの耳にはしっかりと音が聞き取れた。


「もうしばらくだな、準備だけはしておけよ」

「はっ」


 打ち合わせでは正面からの突入して裏手から逃げる敵を一網打尽にする予定であった。だが、事前の偵察で裏手の出口がもう一か所存在すると判明し、五名がもう一か所に向かって行った。

 その五名が次に突入し、最後にパティパトリシア姫の率いる隊が突入して盗まれた石化症の薬を取り返す算段となっている。

 そして、最初の突入から六十カウントが進むともう一か所、二番目の突入が開始された。それもアンジュの耳に届いた事からわかったのだ。


「よし、こちらもそろそろ行こうか。打ち合わせ通り、アンジュはドアの鍵と罠を。アンブローズが先鋒、次いで私。アンジュ、カーラと続いて最後はアマベルに任せる」


 パティパトリシア姫の言葉に皆が頷くと、雨でぬれた手の平をズボンで拭き一斉に行動を開始する。

 その中で、殿しんがりを任されたアマベルは不満を露わにしていたが、怪我が癒えたばかりの自分を心配してくれたのかと思ったようだ。

 だが、パティパトリシア姫は装備を整えていなかったアマベルに先鋒を任せる訳にはいかずの判断だった。本当であったらアンブローズと並んで前衛を任せたかったが、彼から深慮を貰い、考えを変えたのだったが……。


 アンジュがタイミングを見計らいドアへと近づき、罠と鍵の確認をするが、すぐに手信号でどちらも掛かっていないと知らせてきた。

 不用心だと思ったが、逆に逃走ルートに罠を仕掛け、解除している最中に捕まる間抜けとなるよりは、よっぽど賢いだろう。

 彼女がドアノブに手を掛けゆっくりと回し、アンジュが目配せをしてくる。


「よし、私達も行こう!」


 戦槌ウォーハンマー円形盾ラウンドシールドを構えたアンブローズがドアの横にぴたりと張り付き、パティパトリシア姫達もそれに倣う。

 アンジュがドアを引くとアンブローズを先鋒に突入を始めた。


 正面、そしてもう一つの位置口からの突入が功を制したのか、アンブローズ達が入った場所には人の姿は見えなかった。そして、狭い部屋を抜け、次の部屋へと入った時、ふんぞり返り指示を出している者、--恐らく親玉であろう--の、姿を捉えた。


『何をやっておる!ここまで侵入されているではないか、さっさと排除しないか!』


 五名ほどで偉そうな男を守る取り巻きはその指示に従い、一斉に武器を構えて襲い掛かってきた。

 広い部屋、とは言っても一人に十人が襲い掛かれるほどの広さでもないし、ましてやパティパトリシア姫とアンブローズの二人が揃っているのだ、一度に襲い掛かれるのも一人に限定されてしまっている。


「たぁっ!!」

「ふんぬ!!」


 パティパトリシア姫のミドルソードが、アンブローズの戦槌ウォーハンマーが空を切り裂き敵に襲い掛かる。

 安定した戦いで敵を圧倒するアンブローズに対し、まだ危うさの残るパティパトリシア姫の剣筋であるが、中堅に配置したアンジュが援護をする事で優勢に攻撃を当て始めている。

 こうなればパティパトリシア姫達のペースだ。


 アンジュの投擲したナイフが敵に一時の隙を生み出す。弾かれ傷を負わす事は無いが、攻撃を躊躇させることに成功させる。

 その僅かな隙にパティパトリシア姫は一歩踏み込むと握っている剣を教科書通りに振り上げ、敵の手首を斬り落とした。

 その切断面から”ドバドバ”と鮮血が吹き出し床を汚して行くが、パティパトリシア姫は振り上げた剣を一旦引き、平突きを怯んだ敵の首に向けて繰り出した。

 その切っ先は敵の延髄までを一気に貫いて、敵の息の根を止める。


 去年までのパティパトリシア姫であったら、こうも簡単に剣を振るうなど出来ずにいただろう。

 これは、去年の夏前から始まった青痣を作る程の訓練の賜物であった。

 それに、生きていた獣達を殺す場面もその目でしっかりと見ており、血を見ても動じなくなった。

 犯罪者に対する引け目は王族に対する教育を受けているがそれほど感じず、逆に国民を守るためならばこのくらいなんでも無い、と闘志を燃やして行った。


 安定した、とは言い難いが、対人戦においては訓練が生きており多少のフェイントなどに引っかからなくなっていた。

 それにアンジュが後方より睨みを聞かせ、余計な横槍が入らず、一対一を保ち優勢に事が運んだ。




 視界の隅にパティパトリシア姫を捉えながら、アンブローズは安心して戦槌ウォーハンマーを振るう。少し離れてはいるが、あれなら怪我を負う事なく敵に打ち勝てるだろうと。

 まだまだ危うい場面はあるが、あれなら大丈夫だと自らの敵を打ち倒すべく、一歩前に出る。


 敵の攻撃を円形盾ラウンドシールドで受け流し、戦槌ウォーハンマーを突き出し敵を小突くように攻撃を掛ける。戦槌ウォーハンマーを見れば、一撃必殺の打撃に注意を払う筈だが、アンブローズはそれを逆手に取り、小さく振り敵に当てる。

 明らかに教科書通りでない戦槌ウォーハンマーの使い方に敵はイライラとして、動きにムラが出始める。

 冷静になれなければ、アンブローズの敵ではない。


 一瞬、大降りになる敵の攻撃を後方に飛び跳ねて躱すと、濡れて滑りやすい床を注意しつつ膝のバネを使い敵に向かって飛び込むと、戦槌ウォーハンマーの一撃を頭に叩き込み、脳漿を撒き散らして敵を絶命させた。


 アンブローズは苦しまぬ様にと一撃で仕留めたのだが、敵の親玉はそれに恐怖し、真っ青な顔をして叫び声を上げる。


『お、お前ら!そいつらを通すんじゃないぞ。儂が逃げるまで時間を稼げ!』


 親玉からの指示に無傷で残っていた三人はパトリシア達との間に立ち塞がり人の壁を作った。パティパトリシア姫達は親玉が逃げる時間を稼ぐために立ち塞がった三人を見て一瞬、驚きの表情を見せた。

 金で雇われているだけの部下が、親玉の為にするのだろうか、と。

 だが、眼前で起こる現実を受け入れねばならぬと気を引き締める。


 そして、椅子から立ち上がって後ろの壁を何やらいじり、隠し通路を開け放った親玉にパティパトリシア姫は叫んだ。


「こら!逃げるなー!」




※地下組織のアジトへ侵入、そして戦闘。えっと、王族が前に出るの?

 まぁ、良いじゃないですか(笑)

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