第十五話 南の廃砦の戦い、野戦 後編

※ついに書き始めてから一年経ちました(小説家になろうでは2018/4/1に初投稿)。

お読みいただいている方に感謝申し上げます。


まぁ、ブックマークの数からもある様に、止めてしまおうかと思っていた事は事実ですが、始めた事を途中で止めるのもどうかなと思い、続けています。

もっと、読んでいただける方が増える様に、続けてまいります。





 飛ぶような速度で丘を駆け下りるエゼルバルド。その手には鈍く銀色に光る一メートル以上の刀身を持つ両手剣を握り締め、戦列が崩れつつあるアドネ領軍へ襲い掛かかった。


 アドネ領軍の兵士に恨みは無いが、あの紺色の全身鎧フルプレートを身に着けた化け物が出てくる前に戦いの帰趨を決めなければと考えている。エゼルバルド一人が奮戦した所で戦局に影響を与えるのは少ないのだが。

 それでも、化け物が出てこぬ前に、敵を撤退させねばならぬと考えれば、敵の命を奪わねばならぬのは悔やまれるのだ。


「道を開けろぉー!!」


 アドネ領軍に襲い掛かっている味方の兵士に大声で叫び、中央に道を作らせる。新調したヒュドラ装備を身に着け、魔法の両手剣を担ぎ、鬼の形相で駆け抜けていく。味方の解放軍からも、敵のアドネ領軍からも、その姿は人ならざる姿に映ったに違いないだろう。


 そして、アドネ領軍の殿に、エゼルバルドの攻撃が加わると、そこからは蹴散らすと言うよりも、虐殺との言葉が相応ふさわしく思える程の光景が見て取れたのだ。

 両手で扱う武器として作られたエゼルバルドの獲物両手剣は彼の速度と魔法付与の力もあり、人の体を熱したバターを包丁で切断するかの如く切り裂いた。


 閃!


 一閃するだけで、解放軍の攻撃から隊を守っていた腕自慢の一人が腕を失い、次の瞬間にギラリと光る両手剣が腕自慢の目に飛び込むと同紙に首を切り落とされ、鮮血が噴水の様に吹き出し倒れ行く。


 閃!!


 次に控えていた男も、腕と胴体を同時に魔法の両手剣で両断され、鮮血と臓物を無造作にまき散らし、その命を終える。

 返り血を浴びてもなお、エゼルバルドの足は止まらず、次の獲物へとその手を伸ばし続ける。


 一閃、また一閃と大きく横に振られるたびに、彼の目の前には様々な場所を切断され、命を失った骸が次々に生まれ出た。その地獄の様な光景に敵も味方も固唾を飲む状況になりつつあり、アドネ領軍は生きた心地を持たずに股間から熱いものを垂れ流しながら逃げ回る。味方の解放軍は味方であるはずの両手剣使いに恐怖し、戦いに参加せずアドネ領軍の行く手を阻むだけであった。


 エゼルバルドが振るった剣で最後の一人が倒れると、ようやく彼の動きが止まるのであった。彼の通った後には幾重にも重なり合ったアドネ領軍だった骸が残されただけであった。


「引き上げるぞ!」


 アドネ領軍が這う這うの体で逃げ出した後で、吐き気を催す程の戦場を通り、グローリアが自らの指揮する隊に撤退の命令を下す。


「まさか、ここまでするとは思わなかったぞ。鬼神のごとき働きとは、この様な事を現すのだな」


 返り血にまみれ、巨大な両手剣から血が滴る様を見ながらグローリアは恐れる様にエゼルバルドに声を掛ける。それを不思議そうな顔を見せながら、”そうなのか?”と首を傾げる。そして、血糊を剣を振る事によって吹き飛ばし、背中の鞘に収める。


「戦う意思を放棄した敵なんか、誰でも同じ事ができるだろう」


 腰の鞄からタオルを取り出し、頭や顔に掛かった赤い返り血を拭う。


 グローリアと話をしていると、そのもとにアドネ領軍を追っていた兵士が、わらわらと笑顔を見せながら戻り、隊列を組んでいく。怪我を負った兵士は少なく見て取れ、指揮するグローリアは、ホッと胸をなでおろす事が出来た。


 馬上から砦を見れば戦況が味方に傾いており、押し返している最中であった。

 この丘での戦いで、数の上でも、訓練の度合いの上でも勝っていたはずのアドネ領軍が我先にと逃げ出した様を見て恐怖を覚え、それがアドネ領軍の兵士に広まり体が硬直し出した結果であろうとグローリアは見ていた。タイミング的にそれがピタリと当てはなるのだ。


 隊列が整うと、グローリアは”進め”の命令を出し、疲れない程度の速度を出しつつ戦場へと足を向ける。兵士の足は仲間を失った悲しみより、自分達を苦しめている領主に仕える兵士を撃退した事で、今にも飛びそうな雰囲気を出していた。




    ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 ヴルフが気付いた時にはアドネ領軍は浮足立ち、組織だった攻撃を行う事も出来ずに次第に追い詰められていった。なぜかアドネ領軍の間に悲壮感が漂いだした事が原因であった。


「敵の動きが散漫になって来たぞ!今一度、力を示せ!」


 棒状戦斧ポールアックスを一閃し、身近にいた敵の首を刎ね飛ばし、真っ赤な華をいくつも咲かせながらヴルフが吠える。彼の棒状戦斧はどれだけのアドネ領軍の血を吸ったのか、五つまでは数える事が出来たが、それ以上は数えるのを止めた。

 血にまみれた棒状戦斧を振りかざすだけで向かい来る敵兵は足を止め、蛇に睨まれた小動物の様に怯えるのだ。軽鎧の守りの薄い首を刎ねるなどヴルフには簡単であった。


 攻勢を掛けつつあったヴルフの部隊はここぞとばかりに力を発揮すべく、ヴルフに続けと皆が必要以上の力を発揮し始めた。


「敵は浮足立ってきたぞ、追い返すのは今が好機ぞ。全力で押し返せ!!」


 馬上のヴルフは、向かい来る敵の頭上に、真っ赤な鮮血に染まった棒状戦斧を振りおろし兜ごと頭蓋骨を真っ二つに割り、脳髄を辺り一面に撒き散らし、敵に恐怖を植え付けながら自らの力と言葉で部隊を鼓舞し続ける。

 ヴルフの働きに感化された解放軍は、それに続けとばかりに多少の傷などなんのそのと、アドネ領軍に被害を与えていく。それとは逆にアドネ領軍は向かう兵士がことごとく無残な死を迎える為、及び腰となる兵士が増えて始め、矛を交える事を拒否しようとする動きが目立ち始める。


 勢いづいた部隊と及び腰の部隊がぶつかれば、数で負けていたとしても勢いづいた部隊が優勢になるのは世の常である。

 ヴルフの部隊は敵左翼の部隊を前後に分断する事に成功し、分断した後部の部隊を牽制しつつ前部を後方より駆逐し始める。アドネ領軍の左翼部隊は、前方は砦からの部隊が、後方からは分断した部隊に挟撃され、成す術も無く全滅するかに見えた。


 アドネ領軍の左翼部隊が崩壊し始めたその時になって、ようやく動かずにいた中央の部隊が動き始めた。総勢千五百の歩兵と三百の弓兵からなるアドネ領軍は三つに分け部隊を編成していた。

 右翼の歩兵五百と弓兵百は敵の計略に乗ってしまい、敵を追撃してから返り討ちにあい、恐慌状態で戦いに参加できず、左翼の歩兵五百と弓兵百は挟撃されつつあり半数が壊滅寸前であった。


 無傷の中央部隊、歩兵五百と弓兵百は動くに動けない状態を作り出され、今の今まで待機を余儀なくされていた。その原因は右翼部隊を恐慌状態にしたグローリアの二百余の部隊が戦場に戻って来るかアドネ領軍の陣地へ向かうのか、不明であったからだ。

 そのグローリアの部隊がアドネ領軍の陣地に向かわずに戻って来る情報を得て、初めて無傷の中央部隊を動かす事が出来るようになったのである。


 アドネ領軍の中央部隊が真っ先に向かったのは砦の方角でも矛を交えている味方を助けるでもなく、左翼部隊を横から攻撃しているヴルフの部隊の後方であった。ある程度の駆け足でアドネ領軍の左翼後方を通りつつ時計回りで後方に迫った。


 その行動には二つの目的があった。一つは当然ながらヴルフの部隊に攻撃を仕掛け、アドネ領軍の左翼部隊を救う事にある。そして、もう一つは右翼部隊を打ち破って戦場に向かいつつあるグローリアの部隊を牽制する事だ。


 もし、ここで解放軍に全体を見通す目があったとすれば、ヴルフの部隊とグローリアの部隊でアドネ領軍の中央部隊を挟撃し、さらに砦からの部隊で攻撃する、三方向からの包囲戦を強いることが出来たのだが、急造された軍隊には難しかったし出来なかった。


 そして、ヴルフの部隊の後背に、グローリアの部隊よりも先に戦場に到着したアドネ領軍の中央部隊が襲い掛かる構図が出来上がる。

 それにより、ヴルフの部隊は被害を出しながらも折角分断した場所より追い出されてしまった。ヴルフが気付いた時には、後背にアドネ領軍が刃を突き立て始めたその時であった。もっと早く気が付いていれば被害は少なく、反撃も出来たのだろうが後の祭りであった。現場の判断のみで戦闘をしている弊害が出てしまったのだ。


 ヴルフの部隊が追い払われたが、味方と合流すれば、当然ながら息を吹き返していく。

 少なくなったとはいえ味方の兵士を吸収したアドネ領軍の中央部隊は、全ての部隊を引き連れて全力で後退し、戦場を大きく回って陣地へと引き返して行った。


 アドネ領軍を率いる大将の指揮する判断は適切に行われ、撤退行動は見事であると言わざるを得なかった。

 だが、無傷のアドネ領軍が合流したとはいえ、撤退時には殿を務める部隊は被害を出さざるを得ない状況であり、戦場の半ばまで散々に殿に食いつかれていた。


 アドネ領軍が撤退し陣地に戻った後には、敵味方の兵士が入り混じた骸が戦場に転がり、血に染まった大地だけがそこに残った。

 おおよそであるが、アドネ領軍の死傷者数は左翼部隊が百五十弱、そして右翼部隊が五十強、中央部隊が数十であった。


 対する解放軍は北門から出た部隊が百弱、ヴルフの部隊が五十強、グローリアの部隊は数十、そして騎馬部隊が数十の死傷者を出していた。


 結果、解放軍は砦の扉を壊されたとは言え正規の訓練を受けているアドネ領軍に被害を与え、実質的な勝利を得ることが出来たと言えよう。出撃した数の上では解放軍の被害が大きいのだが。




    ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「何たる様だ!お前は命令を無視して動いた事がどんな事になったかわかっているのか?」


 ここは撤退したアドネ領軍の陣地の中。アドネ領軍第二隊の大将を引き受けたミルカが声を荒げて数人の男達を怒鳴りつけていた。三つの部隊に分け、その一部隊だけで戦況を終わらせるだけの力を持っていたにもかかわらず、有利な状況を崩され、全ての部隊を敗走させる程の悪材料をもたらしたのだ。ミルカが怒りを露わにするのも当然であった。


「しかし、あのままでいたら本陣を突かれ我々の帰る場所が無くなってしまいます。それを止めた事を褒められても良いのに、怒りを買うな……」

「黙れ!お前たちは何をもって戦場にいるのか……」


 怒るミルカに正論を吐くかのように反論する男達であったが、ミルカの怒りを買い、油を注ぐ結果となるだけであった。

 敵の一隊が本陣を突く素振りを見せた行動を見て、ミルカはそのまま動かずに待機しろと命令を出していた。

 それにもかかわらず動いてしまい、出さなくても良い被害を出したのだ。


 元々、右翼部隊はカタナへの出陣した部隊であり、何も無ければ戦いに参加させずに休ませておきたかったのだ。それを強引に動かされ、今後の予定が狂ってしまった。


「動くなと出した命令を無視して自分勝手に動いたのは、どの様に申し開きするのか?それにあの部隊が我らの本陣を突くと見せたのは策略だとわからなかったのか?本陣に攻撃を仕掛けるにしてもあの兵力でどの様に攻撃するというのか?言いたいことはまだまだ出て来るが、それよりも命令違反に対して罰を与えなければならぬ」

「たったあれだけの事で罰を受けるのか、納得いかん!」


 このまま言い争いで終わるのかと、周りの者達は思ったが、ミルカが幕内で自らの剣を抜き膝まづく男に刃を向け殺気を放つ。ミルカは男が非を認めるのであれば、それほど大きな処罰をしようとは考えていなかったが、与えられた命令を自らのいい加減な考えで破った非を認めずにいる為に、軍の規律が守れなくなると極刑を与えるべきと考えた。


「たったあれだけの事とお前は言うが、お前の行動でどうなった?作戦は破綻し、退却する羽目になったのだ。その罪は重い、ここで首を刎ねてやるから首を差し出せ」

「俺はお前よりも年上だ、その俺に刃を向けるとは何たる馬鹿者だ。お前たちもそう思うだろう」


 後ろの男達に同意を迫るのだが、その者達、すなわち右翼の部隊を指揮していた副長は”我々は隊長に従っただけですが、お咎めはお受けします”とその男とは真逆の態度を示した。


「だそうだ。お前はこの場で剣の錆としてくれる!」

「ヒ、ヒイィィ!!」


 鬼の形相で迫るミルカに恐れをなし、悲鳴を上げて逃げ出そうと後ろを向いた瞬間、目にも見えない速さで剣を振り被って背中めがけて振り下ろした。

 ミルカは相当な怒りをため込んでいたようで、金属の軽鎧ごと男の肩口から斜めに切り裂き、刃がどうなろうとかまわず一気に振り抜いて見せた。

 さすがに軽鎧を着ていただけあり、背骨辺りで刃が止まり、刃はミルカの力に耐えきれずそこで折れてしまった。


 幕内は鮮血が辺りに飛び散り、そこにいた者や幕にも、そして吹き出した鮮血は地面をどす黒い赤で染めていき、鉄さび臭が漂う戦場になったのかと錯覚する程であった。


「ここで宣言しておく。部隊を率いている大将たる私、ミルカが責任者である。この部隊を勝たせるためにここにいるのだ。そして、戦場にあって年齢よりも階級がすべてである。それを作戦中は忘れるな。もし、次にこのような事が起こればその場で私が処分を下す」


 血に濡れ折れた剣を掲げながらミルカは陣中に聞こえる様に叫んだ。


 その行為に、ある者は当然だと頷き、ある者は行きすぎだと声をあげる。それでもミルカの毅然とした態度を見たアドネ領軍は一部の特殊兵士を除き、気を引き締め直し、強固に意思を統一するのであった。

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