第112話 屋上
「み、美咲さん……」
突然の登場に呆気にとられ、名前を呼ぶことしかできなくなる。
「あ、暴くって……まさか美咲さん、犯人分かったの!?」
「真希、そんな大きな声出さないで」
耳に両手を当て、真希さんから距離を置こうとする。どうやら体調は万全のようだ。
「でも事件の詳細なんていつ知ったの?全く別行動だったのに」
「一応、ずっと聴いてたからね」
「へ?」
『聴いてた』という謎の言葉を紡ぐと同時に、真希さんのズボンのポケットへ手を突っ込み———中から黒い直方体を摘み出す。
「こ、これって……」
「なんだと思う?」
「美咲さん……それは流石にマズイですよ」
パッと見ではまず分からないが、間違いなく盗聴器だろう。
「そうだよね、私もマズイと思う」
「他人事のように……」
美咲さんの悪行に言及したいところではあるが、今は置いておこう。というか、言及しても無駄だろうし。何より被害者の真希さんはサッパリ気付いてない。
最初から聴いていたなら、集めた情報について改めて共有する必要はないだろう。
「そういえば容疑者たちはどちらに?」
「みんな駐車場で警官さんと待機してるわ」
……容疑者たちは事件現場、刑事はホテルで聞き込み、そして事件の真相は掌中。
なら、やることは決まってる。
「じゃあみなさんを容疑者のもとへ……」
「いや、ちょっと待って」
いつも通りみんなを集めようと提案したところで、美咲さんに止められる。全く何がしたいのか分からない中、私に真剣な眼差しを向け、
「江には頼みたいことがあるの。屋上に行ってくれる?」
「……は?」
※※※
「ん?あれは……緑橋ちゃん?」
茜と一緒に刑事さんについていき、小松さんの目撃証言を聞き終わり、エレベーターで1階まで降りた瞬間だった。
私たちが降りたものと隣のエレベーターに駆け込む緑橋ちゃんが目に入った。どんどん上の階に向かっている。
「一体何を……」
しかもフロントには、赤崎ちゃんだけじゃなく茜のお姉さんもいる。青里ちゃん、とは呼びづらいなぁ。
「……ねぇ茜。さっき緑橋ちゃんがエレベーターに入ったの見てた?」
「ええ。目的は分かんないけど」
「追いかけてくれない?」
「え……」
目を丸くして、驚きを隠そうとしない。
そんな反応になっても無理はない。恐らくだが、姉妹の軋轢にあの少女もかかわってる可能性は高い。なら、茜としては忌避感を禁じ得ないだろう。
だが、そうは言っていられない。
「野放しにしたら、事件を先に解決されちゃう。探偵部として、それだけは阻止しなくては」
「またいらん意地を……なら水西さんが行ったら?」
「ならあかねんはお姉さんを見ててくれるのね?」
「うっ……」
一瞬の沈黙を挟み、「……分かりましたよ」とため息混じりに了承した。気の進まない様子は顔色だけじゃなく、エレベーターに向かう足取りにも見える。
その姿を見送り、振り返ると刑事さんたちは事件現場に向かっていた。
急いで追いかけ、手頃な警官さんに声をかける。
「すいません、この後はどこを調べるんですか?」
「あぁ、いや……どうやらあの女子高生が犯人を見抜いたらしく、今からその確認に行くらしい」
「……は?」
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