第107話 黒瞳

 愛する妹との唐突な別れ、そして幼馴染との形式的な絶縁。少女たちに降りかかった数々の悲劇を聞き、私は完全に言葉を失った。

 あまりに残酷過ぎる。

 どれも、「運が悪かっただけ」という言葉で片付いてしまうほど、偶然だけで成り立つ最悪の境遇。だからこそ、かける言葉が見当たらない。そんなセリフを口にしてはいけないのは、明白だから。


「……気遣ってくれてありがとね、真希」

 美咲さんは、頭に手を当てながら再び身体を倒した。

「事件の捜査はあなたたちに任せたわ。少しの間、1人にさせて」

「え、でも……」

「———今、優先すべきは私たちの昔話じゃない。もしあれが殺人なら、殺人犯を逃しちゃダメよ。それが探偵部でしょ」

 美咲さんの視線の先には、例の少女2人がいた。

 その2人を、憂いと慈しみが混ざったような、陽光が輝く瞳で見つめている。

「———行きましょう、真希さん」

「……分かった」




※※※




 ———スカイグラウンドホテルから離れること、およそ700メートル。

 2人の男が、誰もいない廃ビルの中でインカムを付けて座っていた。

 黒の上下スーツに赤いネクタイを付けた男は、窓辺で双眼鏡を覗いている。

「例のホテル……パトカーが集まってますね」

 ホテル周辺に少しずつ増える赤色灯を見つめながら、頬に冷や汗を溢す。

「まさか、作戦がバレたんじゃ……」

「んなわけねぇだろ」

 焦った声を漏らす男に対し、奥の暗闇の中、スマホを見つめて座る大男が渋い声で叱責する。

 目線だけで相手を殺せそうな強面に、血のような赤毛を携えた男。だが、そのどれにも目が向かない。

 注目が集まるのはその右腕———厚手のコートの肩から先が、中身を失って萎れている。

「さっき現場で待機してる仲間から連絡があった。俺らと無関係な殺しがあったらしい」

「ど、どうします?時期に標的ターゲットが現れますけど……」

「警察がいようが関係ねぇよ。着実に任務を遂行しろ」

 強靭な笑みを浮かべ、無機質な瞳をホテルに向ける。



「———俺たちは、あのホテルを奴ごと吹き飛ばすだけだ」

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