第99話 『目的』

「何の用だ?——母さん」

 いやいや、それ母親に対する態度か?

 私は心の奥底で静かにツッコミを入れながら、密かに耳を傾ける。


 いや、少しウトウトしてしまい、ふと気が付いたときには確かに白澤くんは黙っていた。てっきり、会話は終わり寝床に就くのかと思ったら、突然の電話でバッチリ目が覚めてしまった。なので盗み聴きに悪意はない。決して!


「……ああ、忘れてないさ。ただ今日は少し手が空いてなかったんだ。来週にでも行く」

 なんだか業務連絡をしてる上司のような声色だ。とてもじゃないが肉親との会話のテンションじゃない。

「そういえば、そっちは大丈夫なのか?以降は忙しかったんだろ?」

 ——唐突に出てきた、『テロ』という単語。

 しかも『例の』ということは、探偵部が絡まれたあの事件のことに違いない。どんな会話の流れがあれば、テロの話を母親とするんだ?


「……まだそんなこと言ってんのか。何度も言わせないでくれ」

 白澤くん本人への疑問から、その生みの親への疑念へと変わり始めた直後、彼の口からさらなる追撃が飛び込んでくる。


「何を言われようと、オレの意思は決まってる。全ては『目的』を果たすためなんだ」

 暗闇に包まれながら、さらに不穏な空気が立ち込める。

 それは、同級生の口から紡がれた、悪魔のような言葉が原因。




「——父さんを殺した犯人を、殺す。その『目的』を成し遂げるために」




 暗い声色で、厭悪えんおに満ちた殺意が告げられた。

 鳥肌が治らないのは、真冬の寒さのせいではないだろう。





【第5章『氷刃の殺意』 終】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る