第97話 幕間その1

「お、大宮さんが殺人犯!?」

 食堂へ事件の真相を伝えにきたのだが、結論を先に教えるや否や、由妃さんは大声を響かせた。

「これ、女の子らしくせんか」

「だ、だっておばあちゃん、さっきまで目の前にいた人が、さ、殺人、だよ?」

 あわあわ、と口の開閉を繰り返す。

 一見、周囲と相対的に判断すると、由妃さんが慌て過ぎに見えるが、これが本来の反応だ。赤崎は妙に慣れつつあるし、千恵子さんは年の功だろう。

「ちなみに、その悪人はどうしとるんじゃ?」

「あ、奴はロープでグルグルに縛って自室に監禁してあります。警察が来たときにすぐ引き渡せるように」

 何せ警察は明日にしか来られない。それまで殺人犯を野放しにはできないからな。

「そういうわけなので、明日、警察が来たら色々と大変になると思いますから、今夜はゆっくり休みましょう」

「そうじゃの」

 まだ動揺してる由妃さんを尻目に、オレは部屋の鍵を受け取る。

「あ、そういえば……1つお尋ねしたいのですが」

「ん?私に答えれることかね」

「些細なことですよ。千恵子さん、常に大宮のことを厳しい目付きで見てた気がしたんですけど、まさか彼の犯行を知ってたわけじゃ……」

「そんなわけあるかい。私は単に、あやつの由妃を睨む鋭い視線が気に食わんかっただけ。それに……」

 語尾を濁しながら、鈍い動きで屋敷の天井を見上げる。

「——あの人との出会いの場所であるこの屋敷に、不届き者を入れたのは最初から不服だったからの」


 あの人、というのは——千恵子さんの旦那さんのことだろう。由妃さんにとっての「おじいちゃん」。

 今は亡き、大切な人だ。


「……でもそれじゃ、オレも不届き者なのでは」

「そうじゃの。お前さんの目もかなり鋭い。じゃが、その鋭さは人を傷付けるものじゃなく、悪を断つものじゃ」

「……」

 今の、褒められたんだよな?多分。

 この目鼻立ちは父親譲りだ。だから、鋭利な目付きをしてるのは知っているが。

「……悪を断つ、なんて大層なものではないですよ」

 その言葉を最後に、オレは千恵子さんに背を向けた。赤崎を連れ出そうかと思ったが、困惑する由妃さんを宥めるのは赤崎の仕事だから、ここは放置していこう。


 それに、赤崎から伝えたいことも多いだろうし。




※※※




「まず!日頃から防犯グッズを身に付けること!」

「……はい」

「そして!こういう人目の少ない場所に1人で来ないこと!」

「でも、おばあちゃんいるし……」

「もし襲われたら、助けてくれると思う!?」

「………………分かりました」



 なんか予想外の言葉と怒声が聞こえてきた。

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