第76話 顕れる証拠
探偵部が4人集まってから、すぐ事件発生現場の情報収集が始まった。まずは玄関から。
人型の白線は頭を玄関に、足をリビングに向けている形状で貼られていた。
頭が靴箱のすぐ傍にあり、その辺りを中心に血の池が広がっている。
平一が情報を整理する中、真希はふと靴箱の上に視線を向ける。
そこには、さっきの警官が言ってた通り部屋の鍵が置いてあった。
この鍵の謎が解けない限り、内部犯だとは言いきれない。もし外部犯なら、鍵が部屋にあってもおかしくは無い。
「このことは白澤くんも分かってるはず……」
散々内部犯だと言い切っている以上、内部犯でない可能性が僅かでも残っていることは許されない。
真希は密室の謎を頭の片隅に置いておきつつ、平一たちとの捜査に再び意識を向ける。
「やはり死体の周りからしかルミノール反応は見られませんでした。血液の渇き具合や、この209号室全体の状況からして、犯行現場は特にこの玄関だと断定して良いでしょう」
手帳を見ながら、鑑識班の警官が飯間に概要を伝えた。やはり彼も刑事と同行する高校生の存在に顔を顰めつつ不問にしているところからして、飯間に説得されたのか。
「ありがとうございます。一度、リビングと寝室も直接見に行こうと思うのですが、他に気になることはありましたか?」
「あとは、靴箱にあった鍵から全く指紋が検出されなかったことと、もう1つあるんですが……それは奥の部屋を皆さんが調べてここに戻って来たときに改めて伝えます」
なぜ出し惜しみをするのか、真希は少し疑問に思ったが、他の4人は何の異論もなく先に進むので、当然真希に口を挟む猶予は与えられずに先に進むことにした。
また通る時のお楽しみに取っておこう……という真希の場違いな期待は、彼女の胸の内に仕舞われた。
※※※
その後、リビングは簡潔に調べられた。
リビングの状況は事件発覚時に平一が調べ尽くしてしまったので、特に新たな発見はされなかった。あとは破られた窓の破片から僅かなルミノール反応が見られるのを待つしかない。
そして一行は寝室へ。
「ここは私が最初に調べましたね」
江が言うと、近くで捜査してた鑑識の男性が目を丸くした。しかし飯間が何も気に留めないところをみて、リアクションするのを抑える。
真希が心の中で同情する中、平一はその鑑識に声を掛ける。
「ってことは、江の指紋や毛髪なども見つかりましたか?」
「あ、でも手袋は使ったので、あるのは微々たる量の髪の毛くらいですよ」
彼女の『手袋を使った』という発言に再び目を丸くしているが、平一はそれに構うことなく「どうでした?」と促す。
「え?あ、ああ。毛髪は採取したけど、怪しいものは全部で4種類があるみたいだよ。リビングなら色んな人の毛があっても分かるけど、寝室から被害者とその奥さんの毛髪以外が見つかるのは違和感があるからね」
「4種類……」
内2種類は鑑識の言う通り住人の夫婦のものだろう。そして残りのうち1つは江が
となると、残りの1つは一体……?
「その他部屋の物に指紋や部外者の痕跡は見当たらない。ハッキリ言って、この寝室に人が入った可能性はありますが、物を弄ったとは考えにくいでしょう」
※※※
「謎の毛髪、か……」
平一がそれに引っかかっているのには理由があった。
1つは、事件と関連があるのか。
犯人が寝室に入ったとは考えにくい。入る意味が無いので、その毛髪は正直無関係に思える。
もう1つは、そもそもその毛の持ち主は侵入者なのか。
寝室にはクローゼットもあった。外で服に他人の髪の毛を付着させて持ち帰ってきたかもしれない。
だからと言って、頭から切り離せる事実でも無い。態々報告してきたということは、かなりの量が検出されたのだろう。
モヤモヤしながらリビングを出ると、先程話した鑑識がまだ捜査していた。
「お疲れ様です。一応、部屋は全て確認させてもらいました」
飯間が告げると、背中を向けていた鑑識は5人の存在に気付き、振り返る。
「あ、お疲れ様です。何か発見はありました?」
「ぶっちゃけイマイチでしたね。とても犯人像を特定できるような代物は」
「じゃあ、これも微妙なのかな……」
呆れ半分に鑑識が視線を移動させる。
その先には、玄関の靴箱があった。
そこに、彼が出し惜しみしていた『気になること』があるのだろうか。
「被害者の右手が不自然に伸びていました。見てみると、靴箱の壁に血文字が残されてまして」
靴箱の隣でしゃがみ、壁の一部を指差す。
そこには、横棒が血で書かれていた。
それも4本、縦に並ぶように。
「文字の指紋や字体の歪み具合や渇き具合、そして被害者の頭で見にくい位置にあったということは、被害者が絶命直前に残したと見て間違いないでしょう」
確かにグラグラに歪んだ横棒が4本、平行に記されているのを真希は視認して、思わず息を呑んだ。
こ、これが、ダイイング・メッセージってやつか・・!
相変わらず1人場違いな昂まりが燻っていると、隣からの視線を感じてそちらを見る。
「こ、江ちゃん?どうしてそんなニヤニヤしてるの?」
いつしかの悪戯っ子のような笑みを浮かべる江にびびっていると、真希から見て江の奥にいる美咲が追撃を放つ。
「真希の思考はこの子にかかれば余裕で見抜けるってことよ。まぁ、あなたの場合は私でも分かるけどね」
「良かったですね。ドラマやアニメで見たことあるようなものに出会えて」
案の定、美咲の言う通り心を見透かされており、真希は思わず口をへの字に曲げる。
女子3人が場違いな盛り上がりを見せる中、平一は1人でその言寄せを静観していた。
「またダイイング・メッセージかよ……」
彼の呟きは、誰にも聞かれなかった。
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