第75話 空白の犯行時刻

「私は今日の昼、ずっと部屋で1人仕事をしていました。もちろん、そこの探偵部さんが呼び鈴を鳴らした時もね」

 自己紹介を終え、次いで12時以降の行動を説明し始めた白石。しかし、他の2人と同様明らかにアリバイがなく、彼女も容疑者に揺るぎないことを平一は悟った。

 アリバイの有無はもはや確認せず、飯間は踏み込んだ質問を選んだ。

「被害者、日村さんとのご関係は?ただの同業者ってだけですか?」

 内容の色が変わり、平一は飯間に目を向ける。

 被害者との関係性——もし犯人にその質問をすれば、それは犯行動機を探るようなものだ。


 やはり、飯間は白石を疑っている。


「はい、ただの同業者ですよ。別に2人で食事に行く機会も無かったかと。ご一緒にゴルフに行かせてもらったことはありますけど」

「それって、私も行ったときの話ですか?」

 ふと鈴原が口を挟み、ゴルフ話が展開し始める。

 1人置いてけぼりの伴場を見る限り、どうやら彼は行ったことがないらしい。

「伴場さんは行ったこと無いんですか?」

「あ、ああ。僕はゴルフをやったことがないからね。スポーツなら野球ばっかりだからなぁ」

 まぁオレもやったことはないけど……と心の中では呟くが、変に話を膨らませると面倒なので平一は話を先に進めることにした。

「じゃああんたはそこまでプライベートで日村先生と繋がりが無いんだな?」

「そうね、連絡先も持ってないし」

「ならどうして、被害者はあなたに先週の事件の概要を教えたりしたんですか?」

 平一が情報を整理している最中、飯間が鋭く突っ込んでくる。

「さぁ、仕事で会うときはよく相談し合ってましたから、教師としての信頼はそれなりにあったと思いますよ。自分で言うのも変ですけど」

「その信頼が事実なら、事件のことを相談しても違和感ないんじゃないですか、飯間刑事?」

「そ、そうだな。平一は何か訊きたいことがあるか?」

 どうにか話を逸らし一安心をしつつ、質問の機会を与えられた平一は「そうだなぁ」と考え込む。


 死亡推定時刻が13時から14時だということは、その時間に尋ねた人物が犯人だということになる。

 しかし、鈴原は13時前に部屋を去り、伴場は14時過ぎに部屋に来た。そして白石はそもそも自室に篭っていたという。

 無論、犯人なら13時から14時の間に被害者を訪問し犯行に及んだはずなので、嘘を吐いているに違いない。


「恐らく犯行は13時から14時だと思われますが、その時間帯に自分のアリバイを証明できる自信は……」

「「「無い」」」

「だよな……」

 分かりきっていたことだが、改めてハッキリ宣言されると思わず苦笑いしてしまう。

「どうやら3人とも、まだ話を伺う必要がありそうですね」

「でもそれ、事件現場を調べてからでも遅くは無いのでは?このまま話を聞いてるだけだと、真偽の判断も危ういままですから」

 平一はそう言って飯間に現場捜索するよう促す。勿論、自分がそうしたいから、だけど。

 暫く考え込む仕草をして、飯間はその提案を了承した。

「取り敢えず玄関から調べるか……」

「あ、飯間刑事、申し訳ないけど後で合流していいですか?」

 一言入れ、平一は飯間に背を向けてスマホを操作した。

 現場を調べる前に、部員からの情報を把握しておこうと判断したのだ。

 そして、メッセージの送り主が真希と江だと気づき、思わず含み笑いを漏らす。

 美咲と江で捜査している以上、美咲が先輩ぶって何でもやろうとするはず。無論、部長に情報を送るのも。

 つまり、美咲は江と別行動している可能性が高い。

「あの女……」

 美咲が妙な勘繰りをしていることを悟った平一は、一応後で白石のことも訊いておこうと決め、全員にメールを送る。


『すぐ戻って来い。事件現場を調べる』

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