第62話 静寂は語る
目的の部屋を見つけ、一目散にドアを開く。
そこには私たちに背を向けて立つ部長と、彼に対面する黒スーツの女がいた。
数時間振りに見た部長は、制服がすこし汚れたり破れたりしており、激しい戦闘があったことを示唆している。
「間に合ったみたいだね、部長」
私は自分たちが無事であることを理解してもらうため、躊躇いなく声をかけた。
それでも振り向かないのは、すべてを確信しているからだろう。
ここに来るまでに、成し遂げたことを。
※※※
脱出経路を確保した後、無事に人質が解放されるのを見届けつつ、隙を見て非常階段で16階へ駆け上がった。真希は案の定息を切らしまくっていたけど。
途中でトランシーバーに連絡が入り、部長が14階で犯人を発見したことと、会議室Dにいる人質を解放したら14階の無名の部屋に来てほしい旨を伝えられた。
了解と返事し、すぐに会議室Dに向かった。
その後は滞りなく人質たちを非常階段で1階へ行かせ、まずは一安心できた。
しかしその休息も束の間、真希の回復を見てすぐに部長のもとへ走った。
よりによって目的地が『無名の部屋』という未知の世界なので、正直かなり緊張していた。恐らく江も同じだろう。シーバーで連絡が来た時に顔を
しかしその懸念は無用で、14階に着いて廊下を歩き回るとゴールは明らかだった。
各部屋には『会議室A』や『資料室1』のように札が備えられているが、とある一室には札が何もついていなかった。
ドアの配置が、隣のドアとの感覚が明らかに他より離れており、とても広大な一室であることが窺える。
部長のことを想うと、ドアを開けるのに躊躇いは無かった。
※※※
「他に、探偵部の仲間が来ていたのか……?でも、度会には全員連れて来いと言ったはず……」
「おいおい、まさかオレが度会1人を騙すことが出来ないような無能に見えるのか?」
挑発するように、部長は目前の女に語り掛ける。
その返事を受け、苛立ちが顔に浮かび上がったのはいうまでもない。
「諦めろ。このビルにはオレたち5人しか残っていない。もはや爆破する意味はなくなった」
もはや私たちのやってきたことを知っているかのように説明し、部長は静かに女へ近づいていく。
丁寧な1歩1歩の足音の中、女は膝から崩れ落ちた。
その目に光は無く、とても3000人以上の人々を恐怖で震え上がらせた犯人とは思えない。
その姿に驚いたのか、部長は足を止めた。
「……」
この2人の間に、何があったのかは知らない。
ただ、互いの意志が、全身全霊を込めて、その灯火が燃え尽きるまでぶつかり合っていたことは伝わる。
女の瞳が、部長の眼が、部屋の静寂が、そう語っている。
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