第55話 認めよう

「そしてサイバー制御室で倒した2人を縛った後、オレはあんたがいる場所の候補を2ヶ所に絞った。そもそも、あんたが社長室から出た意味が分からなかった以上、根拠は無いに等しかったけどな」

 オレは山田の腕を強く握り、依然として自由を奪ったまま事の経緯を説明する。

「1つ目は会議室D。沢山の人質がいるからだ。さっき行ってみたら、社員たちがガタガタ震えてるだけだったよ。多分、オレがドアを開けた瞬間に死んだと思ったんじゃないかな」

 何せ『ドアを開けたら爆発する』と犯人に脅されていたからな。オレは沢城に教えてもらって、それがハッタリだと知っていたが、彼らはそう簡単に行かない。

 屋上でヘリを爆破したのは、建物内外の人々にテロが本物だと認知させることと、あの部屋の人たちに本物の爆弾があると信じさせることが目的だったのだろう。

「ただそこにあんたはいなかった。そこでオレが次に目指したのは、この14階だ」

 理由は単純に、ここに爆弾が置いてあるから。

 最初に言ったように、コイツが消えた理由がオレには皆目見当も付かなかった。西村に訊こうと思っていたが、その前に意識が飛んでしまった。一方、突然動いたことには何か理由があるはず。

 そこでオレは、何か理由付けするのに値しそうな場所に狙いを定めた。

「実際来たら、オレはお前に会えた、と」

「なるほどな。そして私にスマホを見せびらかすことで、西村を制圧したことを暗示し、且つ私が敵だと気付いていないように装ったのか」

 続きを山田が繋ぎ、直後僅かに片頬を吊り上げた。

「素直に称賛し、認めよう——お前は、私が本気で戦うに値する名探偵だと、な!」

 語気を強めると同時に、しなやかな左脚が弧を描きながらオレの顔を目指して風を切る。

 左拳ひだりてから反撃が来ると思っていたオレは、右下からの蹴撃に対し咄嗟に空いてる左手を伸ばす。

 勢いを殺すように腕をぶつけると、反動で互いの左半身が後退する。

 その慣性に逆えず、繋がっていた右腕も自然と離れてしまう。

 一瞬、再び捕まえようか考えたが、華麗な受け身で距離を大いに確保した影を前にその思考は退けられた。

 狂気的な笑みを浮かべた笑顔は、その女がさっきまでの秘書・山田 咲とは異なるものだと告げていた。

 今、オレが戦っているのは、犯罪者・山田 咲だ。

「お前が、沢城が言ってた『ボス』ってやつなのか?」

「……ああ。ボスだなんて大仰な呼称するのは、あの子だけだけどな」

 薄い笑いを携えながら、山田は豹変した口調で答える。この分だと、名前も偽名だろうけど。

 とにかく頭の中で、目の前のラスボスをどう制圧しようか考えていると、


「なぁ、名探偵」


 じっと目を見つめながら、山田は低い声で呼び掛ける。

「私らがテロを起こした動機が、本当に6年前のあの事件を解決するためだと考えているのか?」

 それは、果たして何か意味があって尋ねたのか、単に興味本位で知りたかったのか。

 オレには分かりようも無かったが、なるべく落ち着かせながら口を開く。

「いいや。その考えは無くなったが……その理由、聞きたいのか?」

「……そうだな。それがお前の最後の推理になるかもしれないけどな」

「……ふん」

 思わず、鼻で笑ってしまった。

 どうやら、奴の意思に関係なく、オレは推理の経緯いきさつを語りたくて仕方ないらしい。


 それが、探偵というものなのだろうか。


「それこそ、推理だなんて大した話じゃないさ」

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