第53話 サイバー制御室
「目的地は……この階段を登った先か」
西村を質問攻めにした5分後。
ついに意識を失ったので、ある程度の治療をして止血し、放置しておくことに。
そのまま見殺しにしても良かったのだが、生憎とあの部屋には社長がいたからな。オレの勢いに圧倒されて動けなかったものの、流石に目の前で人が死ぬところを見たくは無いだろう。
そして、奴から得た情報をもとに、敵を本格的に制圧すべく動き出したオレは。
「……サイバー制御室制圧開始、っと」
サイバー制御室に来ていた。
西村曰く、武装者は他にサイバー制御室に3人と、1階から5階でパトロールする者が1人いるだけらしい。
そのサイバー制御室に行くと、入り口で仁王立ちしている武装者がいた。ただ余りに暇してるのか、欠伸してるけど。
オレは西村から奪った銃を持ち、迷わず物陰から銃口を向け1発を右の
西村の時と同様、抵抗する間もなく攻撃され
右足に向けた顔は、驚愕を携えたままオレに顔を向けようとする。
しかし、一拍足りない。
勢いに乗せたまま、跳び膝蹴りを顔面に捻じ込む。蹴りによってマスクが外れ、素顔が露わになる。
鼻血が弧を描きながら、武装男は
しかし、まだ安心できない。
オレはすぐ近くの柱に駆け込み、入り口から見えない位置に身を寄せる。
その5秒後、激しい音と共にドアが開き、中から別の武装者が出てくる。
恐らく、オレの銃声のせいだろう。
「どうした!……って、お、おい!しっかりしろ!おい!」
声色からすると、2人目も男だろう。両目以外を布が覆っていて素顔は分からないが。
入り口で鼻と口から血を垂れ流す男の姿を見るや否や、駆け寄り肩を揺らす。
しかし、その判断は間違いだ。仲間が倒されてる時点で、襲撃に警戒すべきだった。
オレは敵の武器が腰にぶら下がったままであることを視認し、さっきのように走り出す。
銃の向きは定まらないが、これだけ近ければ外さない。
2,3発を体に撃ち込むと、衝撃に耐えきれず第2の武装者は尻餅を突く。
しかし血が一滴も流れていなく、服が変色しないところを見ると、弾は防弾チョッキに防がれたのだろう。
そこでオレは、再び走り込むと左の拳を敵の右頬に当てる。
容赦ない衝撃が顔から体全体に伝わり、体が重たそうに吹っ飛ぶ。
流石にオレの手も痺れを覚えたが、向こうは意識を刈り取られる勢いだろう。
泡を吹いて気絶しているのを視界の端で確認し、オレはサイバー制御室に向き合う。
ドアは少し開いているが、位置的に中は見えない。
だから、中の様子は推測するしかない。
この部屋の敵は3人いるはず。つまり、この向こうには敵がもう1人いるはず。
1人目の襲撃の時、銃声があったにも関わらず出てこないところからすると、かなり冷静な頭脳の持ち主だと思って差し支えないだろう。
そんなことを考えていると、ドアの向こうから足音が僅かに聞こえる。
誰かが徐々に近づいていることを物語っているそれは、ドアの直前でピタリと止まった。
「……仲間2人の声がしなくなった。新入りとはいえ、並以上の武装と戦闘力を持つ2人が倒された。一体、何者だ」
意外なことに、透き通った女性の声がした。一瞬、山田を疑ったが、すぐに声の違いに気づき、新たな脅威として警戒することに。
オレとの対話を求めているのか、真意を探るため返事しようとしたとき、
「この状況でここまで来れるのは、この会社の老いぼれ社長と、ボスが狙ってる探偵だけ。そして、あの社長に武力はまるでない。違うか?」
変わらず聞こえの良い声色で意外すぎる事実を告げる。
……ボスが狙ってる?
オレが狙われているという新事実を疑問に感じる一方だが、それは後で確認しよう。
あと『ボス』というのは山田のことなのだろうか。
「……名推理だが、下の階にいる人がエレベーターで上がってきた可能性は無いのか?」
「ない。エレベーターは探偵が上がってきてから使えなくしている。強いて言えば、2階下の16階の会議室Dに上階の人質は詰め込んであるが、そいつらには『次にドアを開けたら爆破するよう爆弾を仕掛けておく』と嘘を残してきた。あそこにいる連中が危険を顧みず抗う勇気を兼ね備えているとは考えにくい」
あまりに手の内を明かすような解説の連続に、オレは一抹の不信感を覚える。
ただ同時に、妙に敵対心が感じられないのも事実だ。ここで無闇に疑うのは愚策か。
「……最初の質問に答えてやる。オレはあんたの推理通り、色沢高校探偵部部長の白澤 平一だ。オレとしてはあんたの正体も不思議でならないんだが……」
「……そうか。それもそうだな」
気持ちの悪い間を置いた直後、突拍子なくドアがゆっくり開き始めた。
オレは咄嗟に銃を構える。
ドアを押す手に向け、それに繋がる腕に向け、それが生えてる体に向け、それに乗っている頭に向ける。
「……そんな物騒な物を向けないてくれ。まぁ、無理はないが」
そこには、恐らく20代後半だと思われる、山田にも劣らぬ整った顔立ちの女が立っていた。
明らかに表情からも雰囲気からも、敵意を感じられない。そもそも、武装をまともにしていない時点で、戦う気すら失せる。
武器を待っていないことを服の膨らみや視線から読み取ると、オレは銃を下ろす。
「流石だな、探偵。———私は
随分と丁寧な自己紹介に、オレは目を丸くした。
「……非戦闘員、ってことか?」
「……ええ」
さっさと言えよ。そりゃ拳銃向けるだろ。
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