第52話 奪われたはずの
「なんで分かったのか、知りたいか」
オレは警戒を一切
ゼロにも等しい距離で睨みを利かせる彼女は、腕力では勝てないと理解したのか、「そうね」と笑うと、
「あれほど絶望的な状況をひっくり返した。その道筋が全く想像できない」
まるで試すように問いかける姿は、さっきまでの気弱な秘書の面影を微塵も見せない。
その豹変も、今のオレには納得だ。
「別に大したことじゃないさ」
※※※
オレは拳銃を西村に突き付けたまま、静かに告げた。
「お前、社長と秘書のスマホ持ってるだろ。秘書のやつだけ寄越せ」
「す、スマホ、だと……?」
浅く苦しそうに呼吸をしながら、疑問を咀嚼する。
「ああ。お前、この部屋に来た時、早々に社長と秘書の2人からスマホを奪ったんだろ?」
直前の会話を思い出しながら、話を続ける。
「すると2人は、インターネットが無い現状を知る術はない。そもそも、スマホが手元にない時点で2人にとって今のネット環境はあっても無くても関係無いからな」
解説しながら、オレは自分のスマホから録音データを探し出す。
「だからオレは、この言葉についさっき違和感を覚えた」
再生ボタンを押すと、山田の不安げな声が聞こえてくる。
『でも、この建物内はもう圏外では……?』
「これはオレがさっきあの女の事情聴取をした時、念の為に録音したものだ。この台詞、彼女がネット環境を知ってるみたいな口振りだろ?」
ここまで言うと、西村はオレの言いたい事に気付いたらしい。
目を見開くが、痛みで口が上手く動かないらしい。
「そう、現状のネット環境を知るのは、下の階で不便さに頭を抱える人質たちと、その環境を作り上げた犯人たちだけ。どう考えても前者はあり得ないから、消去法で彼女の正体は予想できる」
オレが推理を淡々と述べているのは、1つの目的のため。
今必要なのは、コイツの協力——というより、コイツを利用することだろう。
「これからあの女に会いに行く。推理の確信を持つために彼女のスマホが欲しい。殺されたくなければ、差し出せ」
「……なる、ほどな。悔しいが……従うしか、無いのか……。そのスマホは……社長机の、イスの上、にある……」
必死に声を紡ぎながら、ついに横になり口から血を吐き出した。
呼吸は不規則で、目の光が消えつつあるが、意識が途切れるにはまだ時間があるはず。
残り時間のことを考え、スマホの回収は後にする。
「気絶するまでに、答えれる限り答えてもらう。しっかり答えてくれたら、眠った後にしっかり治療してやる。分かったな」
「はぁ……はぁ……」
無機質な返事すら消え、荒々しい呼吸だけで了解を勝手に読み取る。
「じゃあまず訊きたいのは……」
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