第51話 賭けの時間

 オレにとって、この勝負はだ。

 こんなに厳しい状況になるとは思わなかった。

 テロが起きた時点で、絶望は最高潮に達したと考えていたからだ。だからこそ、無理を承知で挑む必要がある。

 手元には証拠がまるで無い。あるのは根拠の無い確信だけ。

 でも、それでいい。それだけで十分だ。


 ———それが根拠に、証拠になるのだから。




※※※




 遠くから徐々に近づいてくる足音に気づき、私は思わず振り返る。

 視線の先、必死に走ってくる少年の姿が見えた。

「山田さん!無事なんですね!」

「た、探偵……くん?」

 確認するように呟くと、少年は徐々に速度を緩め、足を止める。

 様々な疑問が私の頭を飛び交っていたが、取り敢えず1つだけ代表させて尋ねる。

「どうしてここに……?」

「いやー、相変わらず社長室に監禁されてたんですけど、敵が隙を見せてくれたので、ちょっくら制圧して逃げてきました」

 息を整えながらそう語る少年は、まるで同級生と公園で遊んできた後のような口振りだ。

 私は思考がにわかに追いつかないまま、次の質問をしようと——

「あ、これ、どうぞ」

 まるで遮るように少年は言葉と一緒に右手を差し出す。

 そこには1台のスマホが握られていた。

 カバーは黒の無地、私が毎日のように目にしていたもので——

「これって、もしかして私の?」

「はい。西村を倒した時に手に入れたので」

「なんで私のスマホだって分かったの?」

「まぁー……探偵の勘、ってやつですよ」

 苦笑いしながら答える少年に、まるで緊張感は無い。

 私は礼を言いつつスマホを受け取ると、それを確認した少年は、

「それじゃ、早く脱出しましょうか」

 ポジティブな発言と共に、少年は私に背中を向ける。

 周りを見渡し、脱出経路を探しているのだろうか。


 私はその無防備な背中——というより首に、静かに腕を伸ばす。

 右手が刻々と首との距離を縮める。

 30センチ、10センチ、5センチ———



「やっぱり」



 突然の声に、衝撃の余り腕が硬直する。

 その硬直を知ってか知らずか、気付けば少年の右手が私の右腕を掴んでいた。

 彼は徐々に体を私に向ける。



「あんたも、犯人の1人なのか」

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