第49話 江のやり方

「おい。おーい!」

 改めて私たちは、捕まえた犯人の男から情報を収集するため、まずはこの男とのコミュニケーションを図る。

 そのため、美咲さんが必死に呼びかけているが……

「……駄目だ、目が死んでる」

「任せて下さい。これ借りますね」

 そう言って江ちゃんは美咲さんのポケットから拳銃を取り出すと、躊躇いなく頭に突きつける。さっきの美咲さんと違い、正面から堂々と。

「ほら、口を開いて下さい。さもないと……分かりますよね?」

「……」

 全くの無反応から微動だにしない男を前に、江ちゃんは言葉を続ける。

「こちらはあなた方に散々怖い思いをさせられました。ですから、ここで引き金を引くことに躊躇いなんて欠片かけらもありませんよ」

 すると男は一瞬だけ目を見開くと、江ちゃんに顔を向ける。

「口は……動きますか?」

「あ、ああ……」

 今にも消えそうな声で返事をする。

 この人、よっぽど殺されるのが怖いのか……?

「名前を教えて下さい」

「……月島つきしま 和樹かずき

「分かりました。月島さん、単刀直入に伺います。私たちはこの建物からの脱出経路を探しています。どこか秘密の抜け穴的な場所はありませんか?」

 全てに丁寧な敬語が添えられているにも関わらず、彼女の醸し出す恐怖は増す一方だ。

 本当に立場が逆転してる。不思議なような、納得できるような……。

「……知らねぇな」

 直後、轟音が聴覚を支配した。

 理由は単純明快——江ちゃんがしたからだ。

 勿論、月島に向けない、ただ天井を穿つ一撃だったものの、精神的な破壊力は凄まじい。



「——私に、嘘が通じると思うなよ」



 少女の眼の色が、変わっていた。


「これは最終警告です。いつどこで何が起こるか分からない以上、私たちは一刻も早く安全な経路を確保したい。ですからあなたの下品な冗談に付き合うくらいなら、憂さ晴らしに惨殺して自力で見つけます」


 それは、彼女にとって、簡単な作業だったのだろう。

 私にも分かった。

 月島は殺されることに恐怖している。5階という安全圏にいることが何よりの証拠だろう。

 本来、この辺りに彼より戦闘力がある人はいるはずが無かった。つまり、自分が支配する立場にあったはず。その環境が、彼の『死』に対する危惧を示している。

 逆に言えば、その恐怖を利用すれば必要な情報を引き出せると考えられる。

 私にも分かる以上、江ちゃんに分からないはずがない。そうとなれば、1番効果的なのは悪魔の如く恐怖を煽ることだろう。

 ただ、さっきのように誤魔化された場合、私には嘘を見抜く力が無いから詰んでいた。心理学やメンタリズムが専門の彼女だから騙されなかったはず。

 しかし……


「選んで下さい——失望と懇願の果て、絶命に身をうずめるか、延命をいて私たちの手助けをするか」


 そう脅迫する少女は、悪魔そのものだった。

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