第47話 狂気×狂気

 後ろでは、オレの死角で西村が銃を向けているだろう。あまりに急な出来事で、敵は測り知れない警戒を生んだはず。

 しかし、まだ安全装置が外れて無いことからして、緊張が心身共に支配してることが読み取れる。

 なるべく恐怖を煽るような言動を意識しつつ、オレは足元で黒光りする凶器——度会が手放した拳銃に視線だけ向ける。

 この状況で近づいたら、間違いなく撃たれる。それも、腕が素人なのかプロなのか分からない以上、どう致命傷になるか分からない。

 近づかないとなると——


 オレは落ち着いた動作で腰を下ろし、片膝を突いて堂々と銃を拾う。

 慣れない重みと金属の冷たさは、触れただけでその力を感じさせる。

 その流れで堂々と立ち上がり、同時に体で銃を隠しつつ、左脇から銃口を覗かせる。勿論、服の布を上手く使って銃は見えないようにして。

 何も見ずにやるため、全ての行動で感覚を信じるしかない。


 カチッ。


 目を閉じ、安全装置を外した流れで引き金を引く。脇の下では服の生地が僅かに破れ、銃を挟んでいた左腕と脇腹は多少の痺れを感じる。

 瞬間だけ失われた聴覚を無視し、オレはすぐに振り返り、躊躇いなく距離を詰める。

 見ると、感覚だけで撃った一発は、西村の左脇腹から鮮血を零させていた。

「ぁぐ、ぐぅぅぁぁ———!」

 敵は、顔を顰め、銃を落としたことなど気にせず両手を傷口に押し当てる。

 想像も付かないような痛みに唸り声を漏らす西村の額に、逡巡なく拳銃を突きつける。

「運が悪かったな。防弾チョッキが無いところに弾が滑り込むなんて」

 オレの挑発にも取れる小言を、しかし西村に相手する余裕は無い。

 汗が止まらない表情で、食いしばった白い歯を見せながら俺を睨みつける。

「お、お前……やり、やがった、な……」

「脳天に風穴を開けてほしくなければ、オレの要求に従え。安心しろ、難しく無い」


 オレと西村は、互いに立場を理解しながらただただ睨み合った。

 希望への狂気と、悔恨への狂気が、交わり合う。

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