第45話 見えた
3度目の社長室の入室は、西村だけが出迎えてくれた。そこにいるはずの女性が見当たらず、尋ねようとしたとき、
「お、おい、咲はどこいったんだ?」
焦りを表情と声色から漏らしながら、社長は西村に問いかけた。
「さっきトイレに行っただけだ」
そんな焦りは完全に無視して、冷酷に返事だけする。
最初、縛られてる社長をソファ裏で発見して解放したとき、自分の身よりすぐ山田さんのことを心配していた。
当初はただの気遣いだと思っていたが、今思えばかなり焦っていた気がする。
まるで、彼女自身のことを重宝してるかのように。
社長のことも気になったが、今はそれより今後のことだ。
とにかく敵を丸め込む手段を考えないと……
「西村さん、西村さん……」
ふと、入り口付近の度会が西村を呼ぶ声に、俺は顔を上げる。まるで聞かれたくない話のように、西村を手招きする。
「あの探偵からスマホを回収してないんですか?」
チラッとこちらを見ながらそう呟く。
オレは目が合ったものの、すぐ逸らされたので気にせず耳を傾け続けた。
「あ、忘れてたな……まぁぶっちゃけ、サイバー室を止めた以上、スマホなんて使い道無いだろうから、そんなに懸念してなかったな」
「じゃあどうしてあの2人からは回収したんですか?」
あの2人というのは社長と秘書のことだろう。
「まぁ、念のためかな……正直勘繰りすぎだとは思うけど、ついこの部屋に飛び込んだ直後に回収しちゃってな」
確かに、社長くらいの人ならサイバー制御室とは別ルートでのネット接続手段を持っていてもおかしくは———————ん?
……ちょっと待て。アイツらの今の話。
…………明らかに、おかしい。
瞬間、オレの脳内を今までに集めた情報が流れ込んでくる。
※※※
今から6年前。
この会社で綿貫 竜也さんが仕事中にミスを犯した。その結果、職を失うことになった。
その解雇に対して、山田さんを始め仲が良かった周りの人たちは反対意見が多かったという。一方で、社長は周りからの多数の推薦の果てにクビを切ったとのこと。
そして彼が辞めると、2つのことが同時に起きた。
1つは、突然の社長の推薦で山田さんが秘書に昇格したこと。
もう1つは、綿貫さんが交通事故を起こして重体になったこと。
その内容は、目を閉じて自転車を一心不乱に漕いだ結果、赤信号を飛び出して自動車に跳ねられたというもの。そして入院することになったが、その入院費は全て社長が肩代わりしている。
そしてその事実に憤慨した西村は、この会社の黒幕の存在を憎み、復讐を決意した。
16時半頃。計画された復讐が始まった。
テロの犯人たちはサイバー制御室を始め、様々な部屋を制圧した後、17時に屋上でヘリを爆破した。
それが低層階にいた人たちへの決行の証だった。
焦る間もなく、脅迫放送でビル内3000人は完全に人質と化した。スマホを見ればネット環境が消えたことは明白、シャッターも閉められ外部との隔絶は言うまでもない。
そして敵の思惑通り、オレは度会に捕まりテログループの言いなりとなった。そして……
※※※
——あの時。確か、あの人が言ったのは。
——信じられない。
——けど、間違いない。
そして、オレは今までと違う推理でピースを
それは、一切証拠が無い先程までの推理と違い、唯一の
研ぎ澄まされていく頭脳は、着実に答えを導きだした。
見えた。
事件の真相、そして——脱出経路が。
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