第44話 逆転

 その後の社長の事情聴取では、他にも色々聞けたものの、殆どが山田さんの情報と被っていたり、その情報を裏付けるようなものばかりだった。


 唯一、意外だったのは——




 ※※※




「入院費?」


 俺は、思わず社長の言葉を口にした。

 それに対し、社長は「ああ」と繋げ、

「綿貫君はご両親がいないからな。私がする必要は無いけど、彼の入院費は全て肩代わりしているんだよ」

 そういえば被害者の詳細について、西村から最初に聞いてたな。その最中に『両親がいない』ことと、『意識不明で入院中』と言っていたはず。

「何故そのようなことを?あなたの善意だと言われればそこまでですが、何か特別な理由があるのでしょうか?」

 正直、この『特別な理由』の答えにある程度予想がついている。

 もう何度目になるか分からない鎌掛けに、社長は珍しく動揺を顔と声色に表した。

「え、えっと……まぁ、善意だと思ってもらって構わないぞ」

 その動揺の理由——オレには予想できたが。




 ※※※




 証拠が塵一つ無いまま社長の尋問が終わった。

 オレと社長は度会に連れられて、応接室から社長室に向かっていた。

 それぞれの理由で足取りが重い3人。

 廊下に響くのはまばらな足音と、ホルスターの鈍い金属音。無機質な音が支配するこの空間で、オレは敢えて気兼ねなく度会に声を掛けた。

「なぁ、あんたらサイバー制御室とやらも制圧したんだろ?他に会議室とかも付近の階にあるはず……そこらへんの人たちはどうしたんだよ?」

 推測を混ぜつつ、現状を把握するためにそんなことを尋ねる。

 前を歩く度会は、俺に顔を半分向けると、

「全員、会議室Dに押し込んだよ。新顔ばかりで今回の事件には関係無さそうだったから、1室に固めて私たちが管理しやすいようにしてある」

 ……つまり、敵の目と鼻の先にいる人質は、俺と山田さんと社長の3人、それに会議室Dにいる人たちか。

 下の人たちの解放も考えないとまずいが、同時に上にいる人たちの安全の確保も想定しておかないと。

 ……やはりスマホが使えないと不便だな。

 特に中毒になっているわけでは無いが、あれだけ便利な代物だと頼りきりになるものだ。

 無念の境遇となったスマホをポケットから取り出す。

 用途があるとすれば美咲がやっていたようにインターネット接続抜きでも使える機能だけだが、正直オレがやるべきことでは無いと思う。

 ただの薄い板にも等しいスマホを、現実逃避するようにポケットに再びしまう。

 オレの実力だけで逆転しろ、という運命の悪戯なのだろうか。

 度会がオレのスマホを見て眉をひそめているのが気になったが、言及はしなかった。

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