第43話 6年遅れの尋問
社長は、まず間違いなく6年前の事件に深々と関与している。この事情聴取でどこまで掘り出せるかが勝負だろう。
「さっそく、いくつか質問させて頂きたいのですが、宜しいでしょうか?」
オレが正面で座っている社長にそう尋ねると、少し挙動不審になりながら、
「し、質問って……6年前、綿貫が事故に遭った事件について、だろ?あの時は私は私で忙しいかったから、あまり細かいことは知らないと言うか……」
まるで自分の発言に保険を掛けるような真似をした。あたかも、
「大丈夫ですよ。ボクはあくまで社長さんが把握している事実のみを伺いたいので。知らないこともあるでしょうが、後ろめたいことが無いのであれば本当のことを聞きたいと思っています」
無論これは建前だが、これだけ大らかにカバーされれば必然的に安心感を覚えるはず。
だからこそ、嘘の量も増えて、ボロを見せる可能性も高い。
「では早速、綿貫さんの6年前の会社でのミスについて伺います。詳細は既に把握済ですが、どうして1回のミスで解雇したのでしょうか?」
初手の質問から核心を突くような内容だ。
こればかりは想定外だろう。
社長は目を丸くしたかと思えば、呆れたような顔になり、
「あのねぇ……僕も反対してたんだよ。彼は腕があったからね。だけどあまりに『辞めさせるべき』という意見が多かったから、やむを得なくってところ」
まるで民主主義を語るかのように強気だ。
一方で逡巡が見られないのも気になる。
「その意見というのは、ただ噂程度の話ですか?それとも、署名のように紙面上で把握した情報ですか?」
「前者だよ。社内で
とても語気を強めて、俺に言葉をぶつける。
しかしオレの意識は社長の証言にあった。
社長曰く多かったらしい反対意見。しかし、山田さんの話からすれば、当時の彼の信頼は厚かったらしい。とても反対意見が多いとは思えない。
そして、その反対意見は口伝えだった。書面化していない以上、社長が詐称してる可能性を否定しきれない。
辻褄は合っている。ただ、外そうと思えばいつでも外せるレベルだが。
オレは、次いで秘書の山田さんについて訊くことにした。
「山田さんから聞いた話だと、あなたは6年前の事件の直後に彼女を秘書として推薦したようですが、どうしてなのか伺っても宜しいでしょうか?」
急に無理矢理な話題転換をすることで、後ろめたいことがある場合はボロが出るように仕向ける。
だが、いい加減慣れたのか、今度は微動だにせず、
「簡単なことだよ。元々から咲を推薦しようとしていたんだ。彼女は当時から優秀だったからね。たまたまタイミングが重なっただけだ」
再び筋だけは通った理由を告げ、社長は深いため息を吐いた。まるで呆れているかの如く。
相変わらず納得できうるものだったが、やはり証拠と呼べるものは一切存在しない。山田さんの証言もあり、オレは社長を
当時の会社の規模からして、社長の一言で社員の所在を動かすことは可能だろう。
そういった推測からも、社長が怪しいと見てすべての事実を繋げると、納得できるものになる。
しかし、毅然として証拠が存在しない。すべて机上の空論だと一掃されたらそこまでだ。
社長にも俺にも裏付ける証拠が存在しない。このままでは水掛け論になってしまう。
それだけは避けないと、大勢の命が葬られることになる。
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